嫌な役
「え……」
「言った通りだ。お前たちの両親を殺したニアラは今は俺の部下。洗脳されていたから許せとまでは言わないが、復讐を考えるのなら、俺が全力を持って妨害する」
俺は妖精族の子どもたちのリーダーのウンディーネの少年、ベックにそう伝えた
ベックは怒りと絶望でごちゃごちゃになったような表情をして俺を見る。
「だったら……どうして僕たちを助けるんですかっ。僕たちがどこかで野垂れ死ねばニアラに復讐する事もできないじゃないですか!」
「んなの、目の前でピンチの子どもが居て、自分に助ける力があったら手を差し伸べるだろう。普通は。そこに理由を付けるなら、そもそも俺がニアラにお前たちの親を殺させた訳じゃない。だけど、今は俺の部下なんだから部下の行動に責任を果たすのは当然だ。」
ベックの気持ちも分からんでもないが、俺にそんな事言われても困る。
眼の前に身寄りのない子どもが来てしまったら、世話しないとって思っちゃうだろ。仕方ないだろ。
「俺の施設で世話になるのが嫌ならウンディーネ、エルフ、ドワーフのところに行くといい。話は通しておくよ。ただ、お前たちが18になるまではエスリメから独り立ちすることは許可しない。それだけだ」
「他の子たちになんて言えば」
「年長の子たちはすぐに言ってもいいと思う。しかし、小さい子たちに今すぐ言ってもしょうがないから大きくなるまで待った方がいいだろう。自分の中で何か納得できる答えを出せる歳になるまで」
はあ、何とも嫌な役をしなければならないな。俺もベックも。
だけどただ助けるだけじゃ駄目なんだ。
この世界は日本と違って声より暴力の方が強い。バカ正直に権利だけ主張してるだけだと、あっさりと暴力にねじ伏せられてしまうのだから。
そんな世界で己の要求を通す為には自分自身が強くなるしかない。
暴力、財力、権力、どれか一つでもいいから自分の力を強くするしか。




