冒険者と宴会
三度目の囮部隊に見せかけて、ヴァイオレットたちを送り込むという作戦か。不意をつく分瞬間的な突破力はあるだろうが、その勢いがどれだけもつのだろうか。
「ダンジョン攻略部隊の冒険者を呼んでください。本日の夕方に戦勝祈願の宴会をしましょう」
この後二、三孔明から指示を受けて、冒険者たちを招いて宴会を始めることになった。
会場は貸し切りにしている高級ホテルだ。旅行者や商人が逃げたから宿泊者は元々居ない。
宴会の後は冒険者たちはここに宿泊させてあげるらしい。
嫌なのだが、もちろん乾杯の音頭は俺が取ることになった。
「さて諸君。思ってたよりも早かったが、明日、この戦いの勝敗を決める事になる。まず、冒険者たちに謝罪を。当初の作戦と異なり、君たちはほとんど消耗の無い敵地へ向かわなければいけない。こうなったのは我らのミスで依頼内容と大きく異なる。咎めるつもりは全く無いから辞退したいものは名乗り出てくれ」
「ユースケ様!それでは我々が不利に!」
「黙れソラン!彼らには彼らの人生があり、より良い人生を送るための選択する権利がある。我々のミスで彼らの人生に悪影響を与えるなんてことはあってはならないのだ!」
俺に意見しようとしたソランを叱って黙らせた。
これは孔明のしこみだ。
今のスライムダンジョンの戦力的に、攻略部隊から冒険者が離脱するのは望ましくない。
彼らは自分の命を守る為に依頼にはうるさい。Sランク以上ならば依頼主の隠し事なんて簡単に見抜いてくる。しかし、それ以上に彼らは自分たちの感情に正直だ。
冒険者なんて仕事をやっている時点で彼らの心の中には熱いものがくすぶっているのだ。
ならばこちらが彼らの心を熱く燃え上がらせれば、彼らは自分から協力してくれる。それが今日の宴会の目的だ。
ここには王である俺と、その重臣たちが出席している。
普通ならば、いくら腕に覚えがあっても一兵卒である彼らが同席を許される格の宴会ではない。
ここで俺がどれだけ冒険者たちを重く扱おうとしているかを暗に教えている。そして先程のソランとのやり取りだ。
効果は抜群。冒険者たちは感激した表情をしている。中には感激で涙を流す者もいた。
勘違いさせない為に言っておくが、別に俺は思ってもないことは言っていないし、孔明は彼らを捨て駒に使おうとしているわけでもない。
蘇生アイテムはいくつか支給するし、危険な時は各自の判断で撤退を許可する。所謂いのち大事にだ。
孔明は単純に一定以上の力の手数が欲しいだけだと思う。
宴会の間、俺は孔明の指示で冒険者たちの席を回って、他愛もない話をして回ったのでほとんど何も食べられなかった。




