逃げる事はできない
「ロメイア様っ!」
今自分たちが追っても彼女に拒絶されるだけ、そう思った家臣たちは沈痛な面持ちで固まってしまった。
「ユースケ様」
「これって俺が追いかけるやつ?」
「…………旅のことを考えるのならば今が逃げる好機でしょう。しかし、男としてここで逃げるのは世の笑い種となります」
「ハッ。なら追いかけるしかない。悲しいことに玉がついてるんでな」
俺が頭をかきながら言うとソランはただ微笑を浮かべた。
城門の番兵に聞くと、ロメイアは城の外には出ていないと言っていたので、城の中を虱潰しに探していると彼女は、尖塔の頂上の一室で体育座りをしていた。
「家臣が心配してるぞ。女王様」
「ダーリン…………ごめんなさいなの」
「気にするな、とは言わないがお前が沈みっぱなしだと他の奴らも辛気臭い顔つきのままだぞ」
俺がロメイアの背中を軽く叩くと、彼女は鼻をすすりながら立ち上がった。
「行くのか?」
「行くの。ロメイアがちゃんとお話してダーリンと皆が仲良く暮らせるようにするの」
頬をパチンと両手で叩いて気合を入れたロメイアは、フェアリーの姿になって城の方へ飛んでいった。
「……思いの外すぐ立ち直ったなぁ」
これでしばらく城滞在コース決定だ。
俺が呟くと、ドアの後ろに隠れていたピクリナが入ってきた。
「愛する人の言葉だから」
ピクリナはそう言って自然な足取りで俺の真正面まで近づいて、俺の手を取り自分の頬に当てた。
彼女の頬はひんやりとしていて雪のようだった。
「何をしている?」
「愛しい人の温もりを感じている」
俺はなんと答えればいいのか分からなかったので、ピクリナの気が済むまで黙っていた。




