散歩
「お忍びで街を散歩しようと思うんだが」
パーティーから帰ってきた俺は、ふと孔明に提案した。
「良いんじゃないですか。国民の生活を直に見て知るのも王の務めでしょう」
そんなこんなで街を見て回ることにした。
子どもたちは家においていこうとしたのだがジーナだけぐずり始めた。
「ジーナもいくのー」
「えぇ?ジーナちゃん、歩くだけだよ?」
「いくー!」
「はいはい」
まあ良いか。ジーナは子供たちの中で一番あんよが上手だからな。
ジーナを歩きやすい服に着替えさせて靴を履かせると、奇声をあげて走り出した。
「きゃー」
「あ、こら。待ちなさい」
元気なのはいい事だけど迷子にはならないでくれよ。
何とかジーナを捕獲して手を繋いで街を歩く。
車両がバスのみなこと以外は至って普通の日本の都市だ。
「ぱぱ、ぶーぶ」
「そうだね。ブーブ走ってるね」
信号が赤になったので止まっていると、後ろから声をかけられた。
「あのー、どうして皆さん止まってるのですか?」
見ると冒険者のパーティーだった。
人族が四人、魔族が一人。魔族がいるのは珍しいな。
信号が分からないということはここに来たばかりなのか。
「あれを見てください。あれは信号と言って、こっちが赤の間はあっちが青色になってますよね。逆にこっちが青の時はあっちが赤になります。青のときは進め、赤の時は止まれという意味なんですよ」
「へぇー、そういう事だったんですか」
「凄えな。皆ちゃんとルール守ってるぜ」
「ラクト、あんた入国の時に聞いてなかったの?この国でルールを破ったらゴーレムがこの指輪から出てきて捕まえてくるのよ」
「まあまあ、ラン。そう怒らないでよ。兄さんの頭が残念なのは知ってるでしょ?」
最初に話しかけてきた人族の少年と頭が残念らしい青年は兄弟みたいだ。
弟の方は普通の見た目だが、兄の方はオーガーかと見間違えるほどガタイが良い。
「すいません騒がしくて。ところで冒険者ギルドの場所はご存知ですか?」
「この通りを真っ直ぐ行って五つ目の信号を左です」
「ありがとうございます。それじゃ僕たちはこれで」
「ばいばーい」
ジーナが手を振って五人を見送ると、彼らは恥ずかしそうに手を振り返した。
「ジーナちゃん。ばいばいできて偉いね」
「うん!ジーナいいこ!」




