異世界の魔王
「雄亮君、頼みがあるんだけどちょっといいかな?」
「良いですよ先輩、そちらの方は?」
蓮パーティーが来るのに備えて、俺が第二迷路の難易度を少し下げる作業をしていると、縁先輩が角の生えた魔族らしき少年を引きずりながら空間のゆらぎの中から出てきた。
少年の服はボロボロでどこか哀愁を感じさせる空気を出している。
「ありがとう。実は頼みってのはこれのことなんだ。偶然召喚された他の世界で捕まえたんだけど…………この魔王の世話してくれないかな?」
「すいません、もうちょっと詳しく説明してくれませんか?」
先輩の詳しい説明によると、いつもは自分から異世界転移していたが偶然先輩の友人が異世界召喚されて、先輩は近くにいた為巻き込まれたらしい。
先輩と先輩の友人は魔王を倒す勇者としてどこかの王宮に召喚されたが、先輩だけならばすぐにでも帰ることができた。
しかし友人を放って帰るわけにもいかないので、先輩は召喚してきた王の目の前で魔王を強制転移させて、友人に倒させたふりをして連れて帰ったそうだ。
「でもさーあれじゃん?うちにはもう魔王居るんよ。流石に二人もいたらキャラ被るからさー、こき使っていいからここに置いてやってくれない?」
「そんな犬猫の感覚で言わないでくださいよ。ほら、魔王さんもなんか言ってください」
「うっ、え、縁殿、やはり」
「え?なんか問題あるの?」
「いえ、ありません」
弱いなー。一瞬で魔王さん屈しちゃってるよ。
少し涙目になってるし、先輩はこの人に一体何をしたんだ?
「んー?別になにか言いたいことがあるんなら言ってもいいよ。僕も君を無理やり拉致しちゃった訳だし、できることならするけど……」
「い、命を助けていただいた以上に望むことはありません!」
「そう?ならいいんだけど。雄亮君、彼のことは頼んだよ」
「あ、はい。分かりました」
縁先輩は魔王の私物が入った袋を彼に渡して帰ってしまった。
あの人は自分のやってることの異常さに気づいているのだろうか?
うーん、気づいているけどあえて無視してるだけな気がする。
残された俺と魔王は気まずい空気の中互いを見てため息をついた。
「そのー、これからよろしく」
「う、うむ。世話になる」
座ってじーっとこれまでのやり取りを見ていたセシルとロイドが、気にすんなよ!みたいな感じでぽんぽんと魔王の足を叩いて励ました。
ホロリと魔王の目から涙がこぼれた。




