嫉妬
「旅に出るって……セラさんはどうするんだ?」
俺が気にかけたのは、光の人質として囚われていた少女セラ。
身寄りもなく、光を兄のように慕ってる彼女をこいつはどうするつもりなのか。
「もちろん連れていきますよ。この子を一人にしておけませんから」
ぎゅっと光はセラの手を掴んで言った。
セラもこくこくと頷く。
ヒロインも居て、勇者たちはやっぱり主人公だなあ。羨ましい。
「だったらこれをやる。餞別だ」
俺はセラに腕輪を、光にアイテムボックス袋を渡した。
「…………あなたの施しは」
「良いから受け取っとけ。ただが嫌なら今回協力してくれた報酬だと思え」
「……分かりました。後で返せって言っても返しませんからね」
セラが腕輪を気に入って付けたのを見て、自分もしぶしぶ袋を腰に結びつけた。
「それでは僕は行きます。蓮さん誠司さんお元気で」
セラの手を引いて光はエスリメを出ていった。
「どうして彼は俺のことを目の敵にするのでしょうか?」
「きっと羨ましいんだろう」
「羨ましい?」
誠司さんがどういう意味で言ったのか分からなくてポカンとしていると蓮が口を開いた。
「雄亮は俺たちと同じように召喚されたのに、最初から自由だったし、周りの人間も良い人たちだ。どうしても嫉妬はしてしまうだろう。誠司さんもだろ?」
「まあ、な」
自分たちは大切な人が人質に取られて言いなりにさせられているのに、どうして俺だけ自由なのかってことだろうか?
自分が勇者たちと同じ立場だったらと考えると納得できた。
「ところで二人に送ったのは何だったんだ?」
「セラさんには腕輪に偽装した魔道具。中に護衛のアダマンタイトゴーレムが入っていてセラさんが重傷を負ったらここに転移する魔法がかけられている。光にはあいつの好きなシリーズのゲームのカセットと本体」
「へぇ。意外と良いもんあげたな」
「それほどでも。少し心配だったので」
「でもあいつは勇者だぜ?」
「なんかあいつのキャラ的に闇落ちして戻ってきそうじゃないですか?」
「…………」
だから少しでもあいつが闇落ちする可能性を減らす。
光の大切なものをできるだけ守る為のセラの腕輪だ。
ゲームは……俺を生かしておけば新作が手に入るぞって意味で渡した。
これで俺恨みを向ける可能性は……駄目か?