剣が抜けません
全員運び終えるまで往復させられては堪らないとソランは一言断る。
だが、一人運べれば十分だ。
「よし、俺とソランで上に行くからお前らはここで待ってろ」
「分かったわ」
「ボスがどうやって妖精の剣を抜くのかを見てみたかったのですが、仕方ありません。ソラン、録画は頼みましたよ」
「分かった」
羽交い締めするようにソランは両手を俺の脇の下に通して抱えて飛び立った。
自分でコントロールできない浮遊感に不安になる。
声でも出して気を紛らわせるか。
「あー」
「どうしました?」
「いや、き、気にするな」
ソランに心配された。
絶対に無いが、ソランがもし手を離したらと想像すると体がガタガタ震える。
…………下を見るから駄目なんだ。前を見よう。
見渡すとどこまでも続く大自然。点のようなものは動物だろうかモンスターだろうか。
日本の街で暮らしてた俺にとってこの光景は新鮮だった。
「すげぇ。翼があればこんな光景を見ることができるのか」
「だから翼の無い種族は空に憧れるのでしょうね」
しばらく景色を堪能した後、俺たちは山頂にたどり着き片刃の剣の前に立った。
刀身が一メートル前後だとしたら三分の二くらいが突き刺さってることになる。
この場合、ギャグ漫画だったら刀身十メートルとかあるんだろうが常識的に考えてそんな剣を作るバカはいないだろう。
「どうやって抜くんですか?」
ソランがビデオカメラで録画しながら俺に聞いてきた。
何か観光地を荒らしてる感があって嫌だな。
「方法は二つ、一つ目は周りを掘り返す」
鞄からシャベルを出して周りを掘ろうとすると、バチッと電気のようなものが走って俺を弾き飛ばした。
「くっ、痛てててて」
「地面に結界がはられてますね。これが周囲の魔力を吸い取ってるから魔法が使えないんでしょう…………間違えました。魔力を吸ってるのは剣そのものです」
まあこんな事で手に入るんならもう誰かが試してるわな。
期待はしてなかった。
「二つ目の方法は何ですか?」
「その前にソラン、剣を抜けるか試してみ?」
ソランはカメラを俺に預け、妖精の剣を抜こうと剣の柄を掴もうとすると、さっきの俺と同じように吹き飛ばされた。
俺より勢いが強くて崖から放り出された。
翼が無かったら死んでたぞ。
「くっ、邪悪な者は手を付けることすら許されないとは……」




