至れり尽くせり
コーメイという男は噂以上の賢士だった。
彼が来てからユースケ殿の雰囲気が演じてるように見えなくなったことから、あの微妙に丁寧な態度はコーメイの指示だったと見える。
思い返せば板で話していた相手もコーメイだろう。
コーメイが来てから我々の国が一方的に取れる権利がゼロになってしまった。
各国の賢人たちの師は伊達ではなかったようだ。
まあこれらの権利は取れるようなら取ってこいといった風で、あまり重要度は高くないから良しとしよう。
むしろ人材を育ててくれるらしいから感謝したいくらいだ。
だが、少し気味の悪いところもある。
技術指導は指導される側には利があるが、指導する国にはほとんど利はない。
だから普通は多額の礼金を払ってやっと叶うのだが……一体コーメイの狙いは何なのだろうか。
「さて、こんなものでいいでしょう。それではまずこちらへ来てください」
コーメイに連れられて行った場所には大人程の高さの金属製の箱があった。
「これは何ですか?」
「我が国の両替所のようなものです。右の口にお金を入れて、左の口に指輪をはめた手を入れると入れた金額相当のDPが振り込まれるしくみです」
試しに銀貨を入れて手を突っ込んでみると、ピロリンと音がなった。
「これでDPが振り込まれました。残高表示と言ってください」
コーメイの言う通りにすると、視界の端に数字が出てきた。
「この国の通貨は実際には手元にないということですか⁉」
「そうです。私がいた世界では仮想通貨と呼ばれていた物があります。ちゃんと価値があると証明されていればどんなものでも貨幣になるということですよ。DPはダンジョンマスターの力の源ですからその価値は十分保証されます」
「あのぅ、ですが私のDPが徐々に増えてます。これはどういう事ですかな?」
まだ両替していない魔法使いの護衛の一人がおずおずと手を上げて発言した。
「これはですね…………」
なんと!ではこの国では働かなくても毎日コンビニ弁当が食べられるのか⁉
私の頭の中にほんの一瞬移住の二文字が浮かんだが、頭を振ってそれを追い出した。
「これは街の至るところにあるので必要になったら利用してください。それでは次行きましょう」
街に戻ると巨大な鉄の箱があり、我々はその中へ案内された。
コーメイがなにか言うと、箱はひとりでに動き出し、ユースケ殿のいる場所まで走った。
「孔明、こんなもんでいいか?」
「ええ、この短い時間によくここまで立派なものが建てれましたね」
「ど、どんなもんよ」
我々は国ごとに専用の大使館を与えられ、住居も用意された。
至れり尽くせりとはこのことだ。
この日から我々は国のことをしばし忘れ、快適な生活を貪るのだった。




