情報の追い打ち
「ならばこちらが剣聖か?なんか若返ってはいないか?たしか今年で七十いくつと記憶してるが」
「ダンジョンマスターが言っていたのですが、スライムに自ら捕食される事でスライムの性質を手に入れ、若い頃の肉体に変化したそうです」
「なんと無茶なことを……」
その場にいた誰もが呆れ返ったが、普段のマスターソードのことを思い出してすぐに納得した。
それがマスターソードの人徳の限界だった。
その時ピロロロピロロロと着信音がして、グランドマスターが体をビクリと震わせた。
この世界には携帯電話なんて無いし、通信用魔道具も高価でめったに目にかけないため、護衛たちが周囲を警戒する。
「あ、失礼します…………何だユースケ……はぁ?おい、ちょっとま……切られた」
「どうした?」
ジェノルムが耳打ちすると、グランドマスターは失神してしまった。
「グランドマスター⁉どうしたのだ!ジェノルムよ、我らにも教えろ」
「コーメイがダンジョンマスターについたようです」
会議は剣聖の時以上に衝撃に包まれた。
「コーメイ……各国がこぞってスカウト合戦をした賢人たちが頭を下げる……彼らの師であるコーメイですか?まさか生きていただなんて」
過去の事を知らないものからすれば、記録上の孔明は数十年前の人間。その弟子たちが各国の重職についていることから、彼は半ば伝説のようになっていた。
その孔明までも雄亮の陣営に入ってしまったとすると、人間の智と武の最高峰が一つの勢力の中にいることになる。
しかもその勢力は決して人間たちの味方とは言い難いダンジョンマスターだ。
「いや、待て。その情報は正しいのか?流石におかしくないか?」
「ダンジョンマスター本人が言ってきました」
「何⁉というか、その板はなんだ!それで連絡が取れるのか?通信用魔道具はそこまで小さくないだろう」
そろそろ海千山千の各国の長も流石に処理できる情報量の限界に来ていた。
「このダンジョンマスターは世界征服でも考えているのか……?」
「うーむ、そんなことしそうな男でもないと見たがな。少なくともバカ娘の事をおかしいと言って止めるくらいはまともだ」
「じゃあ大丈夫か……」
これが聖女の人徳だった。
「話は通じるようだし、倒すよりも友好を結んだ方が我らに利があると思う」
「そもそも倒せるのか?」
「帰国したら早急にスライムダンジョンへ使者を送りましょう」
「そもそもあのダンジョンに関しては誰も困ってないしの。むしろ経済が回るし問題ないじゃろ」
スライムダンジョンは敵として考えるにはあまりにも厄介であるため、各国の長はそれ以上考えるのを放棄した。




