三顧の礼
「あ、お兄さんまた来たね」
「ああ。今日は臥龍先生はいらっしゃるか?」
臥龍とは孔明のことで、三国志では誰にも仕えず才能を発揮していなかった孔明のことを、横になって眠っている龍という意味を込めてそう呼ばれてたそうだ(諸説あり)。
「うん。今朝から書斎に居るよ」
一言断って、コーメイの家に上がり書斎に行くと一人の少年が目を閉じて机に突っ伏していた。
「先生、お眠りですか?」
声をかけると少年は驚いたのか、ばっと勢いよく起きた。
「い、いいえ。僕は弟の均です。あなたは?」
「劉玄徳」
「ということはあなたが兄の道楽に付き合ってくれている方ですか。あいにく兄は先程出かけましたよ」
知ってる。それを確認して来たからな。
「兄は孔明が大好きなので、三顧の礼ができる方にしか仕える気はないのです」
「やはりあなた方は勇者でしたか……」
「数代前の勇者として召喚されました」
「数代前?」
そんなに年なのか?明らかに少年だけどなあ。
「兄と僕は神聖国の監視の隙をついて逃走し、龍人の里で龍の加護を得てから年を取らなくなったのです」
「龍人の里……そんな所があるのですね。世界は広いなぁ。しかし、逃げ出すという事はやはり神聖国の勇者に対する扱いは」
「ダメダメですね。勇者を召喚しては酷使して逃げられを数百年繰り返しています」
「脱走勇者の英雄譚はどの国でも聞くことができますからね」
「ええ。彼らのお陰で勇者の地位も保たれてます」
しばらく均と談笑してから、孔明への置き手紙を書いて馬車に戻った。
三日後、三度孔明の家へ行くと均が出迎えてくれた。
「兄は奥で寝たふりをしてます。満足したら起きると思うので寛いで待っていてください」
「ありがとう」
奥へ行くと、二十歳くらいの青年が横になっていた。
薄目でチラチラとこっちを見てくる姿はとうてい智者とは思えない。むしろ頭悪そうだ。
畳の上に座り、彼が起きるまで待つ。
そういえばこの家には畳があるのか。外見も和風(中華風?)だし、やはり二人は日本人なんだなと思わされた。
半刻ほど待つとやっと孔明は目を開いた。




