プロポーズ その2
「それでは、シモンさまのプロポーズを受ける順番は、公正にくじ引きで決めたいと思います」
「それはいいけど、なんであんたも参加しようとしてるのよ!?」
「いいじゃないですか。何度聞いたって嬉しいものは嬉しいんです」
「言ってることは分からなくもないけど、ここはあたしたちが優先なの!」
「そうです。アナベルは我慢して先にお風呂にでも入っていてください!」
「シモンさまと?」
「だから何でよ!?」
「それじゃ、おれもシモンと一緒に入ろうかな」
「「「えええっ!?」」」
「早くしないと、叔父さまが戻ってきちゃうー!」
とまあ、そんな大騒ぎを経て、なんとか無事に順番は決まったらしい。
……ちょっと聞きたいんだけど、僕の意見とか要望とかは?
「……し、失礼します、シモンさまっ」
一番手はシャルだった。
場所は僕の部屋。そこへ一人ずつ順番に入ってくることになっている。他の4人はリビングで待機だ。
僕は緊張でちょっと表情の強ばっているシャルの前で片膝をつき、帰り道で夜な夜な製作に勤んだミスリルの指輪を彼女に捧げる。
その僕の手の中の指輪を見て、シャルの表情が一気に綻んだ。花の咲くような笑顔だ。
「シャルと初めて出会った時は……」
彼女の目をしっかりと見て、準備していた少し長い言葉を告げる。
シャルはそれを瞳に涙を浮かべながら、時々うんうんと大きく頷いて聞いてくれていた。
「……僕と、結婚してください」
最後まで話し終えると、シャルは一度だけ手のひらで涙を拭い、またにっこりと微笑んだ。
そしていつもとは違う優雅な仕草でゆっくりと近づいてきて、そっと僕の頬に両手を添える。その小さくて温かい感触に続いてもうひとつ、僕の額に彼女の柔らかな唇が触れた。
「……はい、シモンさま。……喜んで」
その時のシャルの表情は、まだたったの10歳とは思えないくらい、とても大人びて見えた。
二番手はクラリス。
彼女にもシャルと同じように、指輪を捧げ持って長めの言葉を告げる。
ただクラリスはその途中からもう号泣で、僕は急遽プロポーズを中断して彼女を椅子に座らせ、背中を撫でて落ち着かせながら残りを話した。
「あっ、あでぃがどうございばず。……ずびっ。……なんの取り柄もない女ですが、せめてこの身なりとも旦那様に捧げ、精一杯ご奉仕させていただきます」
「いやいや、クラリスにはいっぱい取り柄はあるし! それと呼び方っ!?」
そのあと、彼女が普通のテンションに戻るまで少し時間がかかった。
その次はプリムラだ。
「なんだよぉー、シモン、やめろよぉ。そんなの恥ずかしいし、くすぐってぇじゃんかよぉー」
彼女は長い耳の先っぽまで真っ赤に染めて、くねくねと身をよじらせている。
一応断っておくが、僕は何もいかがわしいことはしていない。
ただプリムラのいいところと、なぜ僕が彼女を好きなのかという理由を話しているだけだ。
そしてそれを最後まで伝え終わったころには、プリムラはくにゃくにゃになって床の上でとろけていた。
「お邪魔いたします、シモンさま」
「えっ、アナベル!?」
最後はパトリシアかと思いきや、ここでまさかのアナベル登場だ。
どうしよう、彼女に対してはもうウルベクの王宮でプロポーズ済みだと思ってたから、話す言葉を考えてなかったよ。
「よくよく考えてみますと、私もシモンさまからはっきりと求婚の言葉を頂いていませんでしたので、激戦の末にそれを聞く権利を勝ち取ってまいりました」
「あー。なるほどね」
確かにあの時、僕はアナベルに対して「結婚」という言葉は使っていなかった。
……まあ、それとほぼ同じような意味合いのことは言っちゃったけれどね。
でも他のみんなにははっきりと「結婚して欲しい」って伝えてるんだから、彼女に対してだけそこを曖昧にしておくのも良くないだろう。
うん。そう言うことならもう一度、はっきりと言っておこう。
でも、その前に……
「あのさ、アナベル。顔、めっちゃ近くてやり辛いんだけど」
「シモンさまの吐息ひとつ聞き漏らさないポジションです。どうぞお気になさらず。……さぁどうぞ!」
「無茶言うなよ、気になるよ!」
片膝を立てた姿勢の僕のすぐ目の前、間に拳ひとつも挟めないような距離に、めちゃくちゃ嬉しそうな表情をしたアナベルの顔がある。
こんな状況で真面目な話なんかできるわけないだろ! ええーい!
「ふひゃはぅ。ひほんはら、いはいれふひゃふぇへふらはい」
思わず僕はアナベルの両頬を掴んで、むにゅうっと引っ張った。反射的に身体を引いたアナベルの顔が少し遠のいたので、僕はその手をぱっと離す。
やってから気がついたけど、これ、最初に彼女と出会った時と同じだ。そのことに気付いた途端、神殿でアナベルと一緒に過ごした日々の記憶が蘇ってきた。
……そう言えば、アナベルに召喚されてこの世界に来たのが始まりだったんだよな。
「アナベル、僕は君に召喚されてこの世界に来て、本当に心の底から良かったと思ってる。僕をこの世界に喚んでくれたのが君で良かった。感謝してるよ」
「……シモンさま」
「そして、この前も言ったけど、僕は君にこのままずっと傍にいて欲しいと思ってる。こんな身勝手な我儘をもし君が許してくれるのなら、僕と結婚して欲しい」
「……は、はいっ! も、もちろ…… んっ、んんん!」
再び身を乗り出してきたアナベルが、ふと思い直したように距離を取って咳払いをする。
そして急にすまし顔になると、優雅な仕草で僕の頬に手を添え、額に口付けた。
「はい、喜んで。シモンさまっ」
あれっ? 気のせいか、アナベルよりシャルの方が大人っぽかった?
「……なんであたしが二度目のアナベルより後なのよ」
そしてやっぱり最後はパトリシアだった。
珍しく今日はクジ運が悪かったみたいで、ちょっと不貞腐れ気味だ。
そう言えば最初に出会った頃のパトリシアって、毒舌だったよな。見た目はこんなに可愛いのに、喋るとすごく辛辣で。
そんなことを思い出しながらパトリシアの顔を見ていると、それに気づいた彼女がニコッと笑った。どうやら本気で機嫌が悪かったわけではないみたいだ。
「どうしたのシモン、なんだかすごく嬉しそうな顔よ?」
「ちょっと、パトリシアに初めて出会った時のことを思い出してたんだよ」
「ふぅん? その時ってたぶんあたし、無愛想だったわよね。初対面の人にはいつもそうなの。人見知りするっていうか……ごめんね?」
「もう気にしてないよ、そんなの」
「ありがと。……じゃあ、聞かせて?」
「うん」
パトリシアに対しては、とても大切な、特別な思い出がたくさんある。
最初はウォーレンのパーティの荷物持ちとして参加した「地下城」での出来事だ。
僕はパトリシアと二人きりで悪質な罠に嵌り、強敵のひしめくダンジョン奥部に転移してしまった。
魔獣にはパトリシアの魔法も効果がなく、脱出用の帰還の護符も使えない。その頃の僕の装備といえば、コルトM1911が一丁だけ。
もしその時、パトリシアがいなくて僕一人だけだったら。そうしたら僕はきっとあっさり諦めて、死んで元の世界へ戻ることを選んでいただろう。
実際、アダマンタイトゴーレムを前にして僕は一瞬そう考えた。だけどそうせずに死に物狂いで生き残る道を掴み取ろうと頑張れたのは、傍にパトリシアがいたからだ。
君をあんな場所に一人残して、僕だけ元の世界に戻るわけにはいかなかった。
「地下城」から無事に生還して、ウォーレンのパーティが解散したあと。パトリシアは少し落ちこんだ様子で僕を訪ねてきた。
そのとき、僕には何か目標があるのかと尋ねたパトリシアに、僕はこの世界を旅したいと答えた。あれだって、本当のところはどうにかして君を元気づけたいと願って言った、ほんの思いつきだ。
本心を言えば僕は旅がしたかったんじゃない、ただパトリシアと一緒にいたかっただけなんだ。
だから、今の僕があるのは、間違いなくパトリシアのお陰だ。
それからもいろんな出来事があって、その度に僕はますます君に惹かれていった。
パトリシアは僕にとって、二つの世界を合わせても一番大切な存在だ。
この世界に君がいる限り、僕は元の世界へ戻ろうなんて絶対に思わない。たとえどこかの王様や、ひょっとしてサブレイオンあたりがそれを強制してきたとしても、僕は必ずそれを跳ね除けてこの世界に残ってみせる。
だから、僕と…………
「シモン、大好きよ! 愛してるっ!」
もう少しで全部言い終わるってところで、パトリシアが突然僕に抱きついてきた。
僕はそのまま彼女に押し倒されて…… いっぱいキスしました。ふぅ。
新作を投稿しています。
なぜか僕だけ、悪人退治しないとレベルが上がらない仕組みになってる。~最弱冒険者の僕が、手に入れた対悪人特化型スキルで裏社会を蹂躙します~
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