プロポーズ その1
付け足し後日談、全3話です。
第六章終了直後からの話となります。
ヴィシル王国の王宮で魔王たちを倒したあとのこと。
魔王に踏み潰されたりブレスの余波を食らったりして建物の一部は壊れたものの、幸い死者や重傷者は一人も出なかったらしい。
それでも王宮は事後処理で蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていて、こんな時にこんな話をするのもどうかなとは思ったんだけど、僕はアナベルのお父さん、ガトールフィン侯爵の部屋を訪ねることにした。
用件はもちろん、僕とアナベルとの関係についてだ。
いや、まあ関係っていうか、ほら。その……け、結婚を前提にお付き合いを、とか? そういうアレなわけで、さっきはあんな現場を見られたばかりだから相当怒られるだろうなとは思うけど、それは仕方がない。
とにかく正直に自分の気持ちを話したうえで、どうにか許しを貰えるように頑張ろう。
……と思って、僕一人でやってきたんだけど。
「いやぁ、実に凄まじい戦いぶりだったね。君の傍にいられれば、きっと娘は世界一安全だろう。あとはぜひ、君の傍にいれば世界一幸せなんだと、あの子が思い続けられるようにしてやって欲しい」
「……えっ? あの…… いいんですか?」
形式通りの挨拶を交わしたあと、ガトールフィン侯爵がいきなり上機嫌でそんな話をするもんだから、予想がすっかり外れた僕はどう答えていいか分からずにしどろもどろになってしまった。
すると侯爵はそんな僕の慌てぶりを見て、愉快そうに声を出して笑い始める。
「いや、笑ったりしてすまない。さっきまでの、あの恐ろしい魔王どもを簡単に蹴散らしていた勇者と君が、どうしても同一人物だとは思えなくてね」
「それは…… 頼りなくてすみません」
「貶しているわけじゃないんだ、なにも謝ることはないよ。きっと娘は、君のそんな所にも惹かれたんだろうしね。……ともあれ、至らないところもあるとは思うが、娘をよろしく頼むよ、シモン君。……いや、婿殿」
ガトールフィン侯爵はそう言って頭を下げる。それで僕はよりいっそう緊張してしまって、侯爵のその言葉に何と返事をしたのかほとんど思い出せない。
侯爵はずっと笑顔のままだったから、そんなに変なことは言ってないと思うんだけど…… うぅっ、我ながら情けないなぁ……
それから僕たちは、急いでメリオラへの帰途に就いた。
ガトールフィン侯爵や国王陛下からも、ゆっくり滞在していくようにと引き止められたけど、みんなが早く帰りたがっていたので全部丁重に断った。
なんでそんなに急いで帰りたいのかと言うと、
「だって一生に一度のことなのよ。落ち着ける場所で聞きたいじゃない」
……と、言うことなんだそうだ。何をって、そりゃもちろん、……ぷ、ぷろぽーずですよ。
シャルとグスタフさんはまた別行動になったけど、帰りの車内にはアナベルがいる。来るときに抱えていた問題もすっかり片付いたので、みんないつものようにきゃあきゃあと大騒ぎだ。
うぅーん、これじゃあ落ち着いて考えられないじゃないか。頼むからもうちょっと静かにしてよ。
ところで、グスタフさんと別行動になる前に、この世界にはプロポーズに関係するしきたりが何かあったりはしないのかと尋ねてみた。
何せ一生に一度のことだから、失敗はできないからね。まあ、僕はこれからあと4回するんだけど。
「女性を喜ばせるような言い回しならば、シモン殿の世界の方が豊富だと思うがな。強いて言えば、求婚をする男は女性の前に片膝をつく、という程度ではないかな?」
なるほど、指輪を渡す時によく見る奴だな。やってみよう。
って、そうだ、指輪! あった方がいいんじゃないの!? 急いで作ろう。素材はミスリルでいいかな?
「そうだな、銀かミスリルが良い。私も妻にはミスリルの指輪を贈った」
「ええっ、グスタフさん、結婚してたんですか!?」
初耳だ。てっきり独身だと思ってたよ。
だってグスタフさん、護衛って名目でずっとシャルと一緒にいるし。ちゃんと家に帰ってあげてるのかな?
「昔のことだ。死別してもうずいぶん経つ。元々、体の強い方ではなくてな」
「……そうでしたか。すみません、無遠慮なことを言ってしまって」
「気にするな。私が言わなかったのだから、シモン殿が知る由もない。……ついでだから言ってしまうが、それ以来、後添いを貰う気にもなれなくてな、それで気がつけばこの歳だ。幸い、こんな面白みのない男でも兄上の子供たち……特にシャルがよく懐いてくれたので、我が子が欲しいと思ったこともない。だいいち、私に子ができたところで、それがシャルより良い子に育つとも思えんからな」
珍しく口数多めに自身のことを話してくれたグスタフさんだったけど、僕にはその内容が重くて、ちょっとだけしんみりしてしまった。
そうか、病気かぁ…… 外敵や目に見える怪我ならいくらでも対処のしようはあるし、そもそも怪我の治療だけなら僕よりアナベルやプリムラの魔法の方が強力だ。
それに対して病気は魔法じゃ治せないし、自覚症状がなければ本人にも分からないところでどんどん悪化していって、ある日突然…… なんてことも起こり得る。それを防ぐには、早期発見早期治療が必要だ。
かと言って、増殖させた治療用ナノゴーレムをパトリシアたちの体内に常駐させるというのは、まだ体にどんな影響があるか分からないので、できれば避けたい。
その安全性についてはいま僕自身の体で実験中だ。僕なら何か異常があったときにすぐ〈素材に戻す〉できるからね。
と、なると…… あ。そうだ! これなら作れるかも。
往路とほぼ変わらない強行軍で、ヴィシル王国の王都ウルベクから独立都市メリオラまでを丸3日で走り抜き、僕たちは我が家に辿り着いた。
「ようやく帰ってきたよ。長い一週間だったなぁ」
「はぁー。やっぱり我が家は落ち着きますねー」
「じゃああんた、なんで出て行ったのよ?」
「……うっ。そ、それは言わない約束……」
「そんな約束してないわよ!」
「キッチンを片付けたらすぐにお茶を淹れますから、少しだけ待っていてくださいね」
「あ。それじゃおれ、ちょっと軽く掃除してくる」
リビングに入るとさっそくパトリシアとアナベルが小競り合いを始め、クラリスとプリムラは家事に向かう。
うん、やっぱりここは落ち着くな。彼女たちにシャルを加えた5人がみんな僕の奥さんになると言うのは、まだちょっとピンと来ないけれど。
そうこうしているうちに、別ルートから僕たちよりも早くメリオラへ帰ってきていたシャルとグスタフさんも合流し、みんなでお茶を飲みながらまったりと時間を過ごす。
……ん? でも何か、みんなちょっとそわそわしてない? 僕がそう感じ始めたとき、いきなりシャルがソファから立ち上がった。
「あの、シモンさま。私、早く約束のお言葉を聞かせて欲しいの。だからずっと、お会いできる日が待ち遠しくって……」
「そうよ、シャルの言う通り! もう3日は過ぎてるわよ、シモン」
シャルが真っ赤になりながらそう言うと、今度はパトリシアが立ち上がって僕に詰め寄ってくる。
「できれば私も早くお聞きしたいのですが、宜しいでしょうか?」
「おれも! おれもだぜ、シモン!」
「あなたのアナベルも、それをずっと心待ちにしていました」
「あんたはもう聞いたじゃない、先にお風呂にでも入ってて!」
「シモンさまと一緒にですか?」
「何でよ!?」
それにクラリス、プリムラ、アナベルも同調して、あっという間に大騒ぎになった。
いや、約束通りにもう考えて準備もしてあるんだけど、そんなふうにせがまれると何だかやり辛いと言うか……
そこで僕が助けを求めるようにグスタフさんの方を見ると、彼はやれやれと言うように薄く笑って席を立った。
「それでは、私は少しその辺を回って時間を潰してくるとしようか」
そうじゃない、そうじゃないよグスタフさんっ!
新作を投稿しています。
なぜか僕だけ、悪人退治しないとレベルが上がらない仕組みになってる。~最弱冒険者の僕が、手に入れた対悪人特化型スキルで裏社会を蹂躙します~
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