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僕のゴーレム作成能力の自由度が高すぎて、不可能はない気がしてきました。  作者: 九鹿蓮司
第六章

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6-13 それは絶対に遠慮します

 一瞬の空白のあと、僕は真っ白な部屋にいた。


 汚れも曇りも一切ない床、太い柱、遠くに見える壁、高い天井、全部が真っ白な石でできている。おまけにそれらが全て発光しているようで、ちょっと眩しいくらいに明るい。その真っ白で広い部屋の中央に、僕は立っていた。

 目の前には、まるで威厳の塊のような金髪碧眼の大男がいる。身長は間違いなく200センチ以上あるだろう。その射抜くような鋭い眼差しで見下ろされると、知らず知らずのうちにこちらの姿勢が低くなっていく。

 それはもう、この人が全世界の王だと言われてもすんなり納得できるくらいの風格だ。


 そしてその人物の隣には、彼の身長よりもやや高いくらいの大きさの、真っ黒な卵がある。

 その卵は、紙の上に黒い絵の具をベタ塗りしただけのように明暗がなく、立体感がない。まるでそこだけぽっかりと空間が抜け落ちてしまってるんじゃないかと思うくらい、現実味に欠けている。


 見ているうちに何だかその卵から目を離せなくなっていると、男が口を開いた。


「そちらはあまり見ない方が良い。ヒトには認識できぬ高次の空間ゆえ、精神に不調を来たす恐れもある」


 ええーっ。そんな危険なもの目の前に置かないでよ。危ないなあ。

 僕は慌てて黒い卵から意識を引き剥がし、男の方に向き合う。


「えーっと、あなたは?」


「我が名はサブレイオン。異界の者シモンよ。先ほどの働き、見事であった」


 サブレイオンだって!? それって勇者召喚の神殿の名前と同じ…… ってことは、目の前のこの人は神様!?

 そう言えばさっき現れたメッセージにも「神の御座所」って言葉があったぞ。するとここが神界とか天上界とか、そう言う感じの場所なのかな?


「そうではない、我は従者に過ぎぬ。ヒトが神と呼ぶべきはこちらに御座(おわ)す我が主エリュステティリア様……おっと見ぬが良いぞ。高次の空間ゆえ」


 止めるくらいなら指し示さないでよ。紛らわしいなあ、もう。

 でもどうやらサブレイオンが言うには、この黒い卵の方が神様らしい。名前がエリュ…… 何だっけ?


「エリュステティリア様、だ。また我が主はこの高次空間の繭の中に御座すのであって、その繭そのものが我が主なのではない」


 なるほど。文字通りに神様はもっと高い場所にいらっしゃるということかな。

 ……って言うか僕の思考、読まれてる!?


「そうだが、別段驚くほどの事ではあるまい」


「いや驚くってば普通!」


 どうせ読まれているなら、ツッコミを心の中だけに留める理由はない。

 そんでもって、僕はどうしてここに呼ばれたんだろう?


「そなたをここへ招いたのは我ではなく、我が主だ。じきに顕現なされよう。……おっと」


「分かってるよ、見ないよ!」


「ふふっ。もう見ても大丈夫ですよ、シモン」


 そこへ今までなかった柔らかな女性の声。

 恐る恐る目を向けると黒い卵は消え去っていて、代わりに20代半ばくらいの美人さんが現れていた。

 それもただ美しいというのではなく、絵画的と言うか、確かに目の前にいるのにどこか現実離れしているような、おそろしく整った容姿だ。


「あら、そんなふうに見えますか? 嬉しいですわ」


 ……で、やっぱりこの人もこっちの心を読むんだよな。

 まあどっちみちサブレイオンには読まれてるんだから今更だし、いいけどね。


「ふふっ、ごめんなさいね。あらためまして、私はエリュステティリア。この世界を創ったものです。あなたのお陰で、数百年ぶりに繭から出ることができました。ありがとうございます」


「えっ?」


 あんまりにも口調が気軽すぎて聞き逃しそうになってしまったけど、この世界を創ったもの、ってことはこの人が神様か! サブレイオンもそんなような事を言っていたし、今度は間違いないだろう。

 それでもってその神様にお礼を言われてしまったんだけど、僕がしたことと言えば魔王を倒したことくらいだ。それとエリュス……神様が黒い卵から出られたってことに、何か関係があるのかな?


「エリュステティリア、です。……その通り、あなたがあの穢れたちを滅ぼしてくれたお陰です」


「魔王じゃなくて、穢れ、ですか?」


「そうです。私はあの穢れをできる限り外界に出さないよう、高次空間に自分を封じていたのです。それも完全にとはいかず、時折漏れ出してしまっていましたが……」


「それも全て我の不徳の致すところ。我が主よ、どうぞ如何様にもご処分を」


 エリュステティリアが言葉の途中でとても悲しそうに俯き、サブレイオンが彼女の前に跪いた。

 何か、込み入った事情がありそうな感じだな。


「ええ。あなたにはすべてお話ししましょう」





 はるか昔、エリュステティリアはいくつかの世界を創造し、そのひとつひとつにサブレイオンのような管理者を置いた。

 彼女はそれらの間を巡りながら、それぞれの世界の変化や繁栄の様子を見るのを楽しみにしていた。


 ところが今より数百年前、久しぶりに僕たちのいるこの世界を訪れた彼女は、そこで驚くべきものを見る。戦乱の世だ。

 人々の心は世界同様に荒れ果て、国家間、種族間、あるいは町や村単位でも、ほんの些細なきっかけで徹底的な殺し合いが行われた。

 今の平穏な世の中からは考えられない過去だよな。サブレイオンによると、当時の彼の管理方針に原因があったらしい。


 ともあれ、その様子を見て深く心を痛めたエリュステティリアは、この世界を救うために、全ての人々の心にある憎しみや悪意を浄化して自分の身に引き受けた。

 それらの悪感情は穢れとなって彼女の身体を侵したが、1000年もすれば自然に消滅するだろうと考えていた。なんとも気の長い話だ。

 しかし予想外だったのは、彼女がふとした拍子に見る悪夢が形をもってこの世界に具現化し、人々を襲い始めたことだった。これが魔王だ。


 エリュステティリアは魔王の出現を食い止めるため、自らを別の次元に封印したが、漏れ出す穢れを完全に封じ込める事はできなかった。

 さらに厄介だったのは、その穢れも創造主である彼女の一部であるために、この世界の人たちの力では駆除できないということだ。

 そこでサブレイオンは、穢れ、つまり魔王を浄化する力を外部の世界に求めることにした。これが勇者召喚に繋がるわけだ。


 そうして基本的に1体の魔王に対して1人の勇者を当て、エリュステティリアの穢れが自然消滅するまで世界を守ろうとしていたところ、僕という異質な勇者が現れた。

 「果てなき樹海」で大鷹の魔王を難なく倒した僕を見て、サブレイオンはエリュステティリアの身体に残った穢れを全部僕に引き受けさせようと思いついたらしい。その結果が、あの魔王の大安売りとなった。





 ……なるほど。つまり全部サブレイオンのせいってことだな。


「すまぬ」

「申し訳ない事をしたと思っております」


 エリュステティリアが丁寧に頭を下げ、サブレイオンも跪いた姿勢のまま僕に向かって謝ってきた。

 最初は威厳の塊のようだと感じていた彼も、この短時間で評価はガタ落ち。もう見る影もなくなってしまった。

 とは言え、僕は別にそれほど酷い目にあったとは思っていないし、パトリシアたちも別段大怪我をしたり苦しんだりしたわけでもない。むしろ、この世界に召喚してくれたことには感謝すらしているくらいだ。


「僕は別に気にしていませんよ。あなたのその穢れを払うのに役立てたのなら何よりです。もう頭を上げてください」


「そうか。それならば良いのだ」


 許すと言ったらサブレイオンが瞬時に尊大な態度に戻った。

 うわ、結構ムカつく。


「あなたはもう少し跪いていなさい」


「御意」


「ところでシモン。あなたをここへお招きしたのは、今回の件についてお礼をするためです。なにか望むものはありますか?」


 おおっ、これは凄いぞ。神様からのお礼ときた。

 何せ相手は創造主だ。きっと何を望んでも叶うだろう。さて、何がいいかな?

 ええーっと…………



 …………これと言って、ないな。


 と言うより、もう既にこれ以上望むのは贅沢すぎるってくらい、沢山のものを貰っている。

 ああ、そうだ。それなら僕自身のことより、パトリシアたちの幸せを望んでおけばいいじゃないか。よし、それで行こう。


「それでいいのですか? あなたが望むならば大国の王にでも、何でしたらサブレイオンの代わりに世界の管理者にでもして差し上げますよ」


「いえそれは絶対に遠慮します」


「無欲なのですね。それではあなたの望み通り、パトリシア、アナベル、プリムラ、クラリス、シャルロッテ、この5名の将来にわたる幸せを約束しましょう。……ふふっ。大変でしょうけど、頑張って下さい」


 えっ? みんなが幸せになると、なんで僕が大変なの?

 それを聞き返そうとしたときにはもう視界が白く霞んで、エリュステティリアの姿は見えなくなっていた。





「シモン、大丈夫? 怪我はしてない?」

「お怪我があれば私が治しますよ。二人だけでどこか静かな、落ち着けるところへ行きましょう、シモンさま」

「格好よかったぜシモン! 今度おれにも撃たせてくれよ!」

「よく考えてみると私たち、魔王と戦ってたんですよね…… ふぁぅ……」

「あっ。大丈夫ですかクラリスさん! しっかりして下さい!」


 次に意識がはっきりすると、みんなが駆け寄って来るところだった。


 あれ? これってさっき、神の御座所って所へ転移させられる前の光景だよね?

 まあ神様なんだし、僕と話をしていた時間を「無かったこと」にするくらいは簡単にできるってことか。


「僕は何ともないけど、みんなは? 誰も怪我はしてない?」


「ないわ!」

「ほらこの通り、あなたのアナベルにはかすり傷一つありませんよ」


 そう答えながらパトリシアとアナベルが、いつものようにそれぞれ僕の腕を取る。

 よかった、と僕が呟くと、パトリシアがよくないわよ、と言って頬を膨らませる。その反対側ではアナベルがくすりと笑った。


「アナベルだけあんなこと言ってもらえるなんてズルいわ! あたしにはないの、シモン!」

「そうよ。私もあんなふうに言って欲しいです、シモンさま!」

「あの…… もし良ければ私にも、ぜひ……」

「おれのことも忘れんなよ!」


「えっ? 何のこと?」


「「「「プロポーズ!!」」」」



 その後、僕には3日の猶予が与えられ、パトリシア、プリムラ、クラリス、そしてシャルにも、それぞれ別の言葉で…… その…… えっと……


 …………結婚の申し込みをすることになった。

もうあと1話だけ、続きます。

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