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僕のゴーレム作成能力の自由度が高すぎて、不可能はない気がしてきました。  作者: 九鹿蓮司
第六章

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6-10 あなたのものです

 シャルの先導で、僕たちは城の壁沿いに広い庭園を歩いて行く。


 グスタフさんがメイドさんから得た情報が正しければ、アナベルがいる部屋はもう少し先の2階にあるはずだ。

 侯爵や身の回りの従者も一緒に、明日の初顔合わせに備えて泊まり込みで準備をしているらしい。ガトールフィン侯爵家にとっても、第2王子との婚約はそれだけの一大事ってことだ。


「シモンさん、私たちは勝手に建物の中には入れませんけど、その部屋に着いたらどうするんですか?」


「僕が壁を登って窓から部屋の中を確認するよ。それでアナベルがいればみんなを引き上げる。あとはなるようになれだ」


「そうね。お願い、シモン」


「もうそのあたりに見えて…… あっ!」


「あれ、アナベルじゃねぇか!?」


 先行していたシャルとプリムラが声を上げ、指をさす先に、張り出し窓から身体を乗り出すようにして外を眺めている女性の姿が見えた。あれは間違いなくアナベルだ。

 長くて真っ直ぐな青い髪が風になぶられるのも気にせずじっと前を見ていたアナベルが、シャルたちの声に気付いて驚いたように振り返った。


「待ちなさいよアナベル、また逃げる気なの!?」


「…………!」


 身を翻して部屋の中に戻ろうとしていたアナベルが、パトリシアの叫びに足を止める。その間に僕たちは張り出し窓の真下まで辿り着いた。

 窓を見上げる僕たちに、それを静かに見下ろすアナベル。先に沈黙を破ったのはパトリシアだ。


「あんた、今日もそのペンダントを付けてるじゃない! 本当は結婚なんかしたくないんでしょ!? こっちに戻って来なさいよ!!」


「何を身につけようと私の自由です。パトリシアさんこそ、せっかく最大のライバルがドロップしようと言うのですから、本当はもっと喜んでもいいところですよ?」


 売り言葉に買い言葉、それだけならいつものパトリシアとアナベルだ。

 だけどいつもの彼女たちなら、けっこうな毒舌を投げ合いながらもどこか楽しそうな表情をしている。……そして、今日はそれがない。

 アナベルはとことん冷ややかで、パトリシアは今にも相手に掴みかからんばかりの勢いだ。


「あんたなんかライバルじゃないわよ! あたしのライバルだって言いたいのなら、ちゃんと正々堂々戦いなさいよ! いつだってふざけてばっかりで、肝心なところははぐらかして…… あんただって、シモンのこと好きなんでしょっ!?」


「……ご存知ないとは思いますが、召喚の巫女は、自分の召喚した勇者さまに対して特別な感情を抱くことがあります。ですが、これは通常の恋愛感情ではなく母性の一種だと、前任者が……」


「他人の言葉なんてどうでもいいの! あたしは、あんたが、シモンのことをどう思ってるのかが聞きたいのよっ!」


「……それは……」


 アナベルが、パトリシアの問いかけに口ごもる。

 その頬を、つっと一筋の涙が流れ落ちた。


「……好きです。……もちろん好きです! シモンさまのことは大好きですよ! ですけど、シモンさまは、私を求めてはくれません。私ではシモンさまの一番にはなれません! ですから、私は……」


「そんなの……」


 アナベルの衝撃発言にパトリシアが何かを言いかけたけど、それを遮ってプリムラが前に出た。


「なんだよそれ。らしくねぇぜ、アナベル!」


「プリムラの言う通りです。私は諦めてなんかいませんよ? いまのところパトリシアがシモンさんの一番ですけど、それなら私は二番でも三番でもいいんです。ときどき振り向いてくれさえすれば、それだけで。先のことなんて、誰にも分からないじゃないですか」


「私だって! いつか必ずシモンさまに娶っていただいて、たくさん子供を作るんです! なにもお嫁さんが一人だけじゃなくったっていいでしょ、シモンさま?」


 シャルの最後の問いかけに、みんなの視線が一斉に僕に集まった。

 ええっ、いきなりそんなこと言われても…… いくら異世界だからって、お嫁さんを4人も5人も貰うなんて、考えもしなかったよ。

 えーっと、……どうすればいいのかな?


 ……いや、違う。それは違うな。


 確かに、僕が一番大好きなのはパトリシアだ。この気持ちに間違いはない。

 それならなんで僕は、ここまでアナベルを追いかけてきたんだ?


 彼女を助けたいから?

 望まない結婚をやめさせてあげたいから?

 アナベル本人がそれを僕に頼んできたわけでもないのに。


 アナベルが僕の助けを求めていると思った。

 アナベルのお父さんが無理やり進めた縁談ならいいのにって思った。

 相手の第2王子がとんでもなく嫌な奴だったらいいのにって思った。


 ……そうであってくれれば、僕は胸を張って堂々とアナベルを取り戻せるから。


 そうだ、僕はそうしたいんだ。それが僕の本心だ。

 こんなの、どう言い繕ったところで正当化なんかできないよな。


 それなら、いっそのこと……



「僕は今から、身勝手で最低なことを言う。だけどこれが僕の本心だ!」


 アナベルやパトリシアたちの、息を飲む気配。


「アナベル、僕は君や他のみんなのことが大切で、家族みたいに思っている。だけど僕がいちばん大切に思っている人はパトリシアだ。もし君が僕のことを好きでいてくれるとしても、僕は君を幸せにできるかどうか分からない。もしかしたら、不幸にしてしまうかも知れない」


 一呼吸置いて、みんなの顔を見渡す。誰も何も言わない。僕の言葉の続きを待っている。

 いや、いつの間にか無関係な人たちが大勢集まってて、興味津々って感じでこっちを見てるんですけど! そりゃああれだけ大騒ぎしてたら、こうもなるだろうな。


 ええい、でも知ったことか!


「それでも! 僕は君に傍にいて欲しい! だから今日、僕は君をここから連れ戻しに来た! もし君が嫌だと言っても。たとえそれで君に恨まれることになったとしても。君が欲しいから奪って行く、それだけだ!」


 言い切った。そして誰もがアナベルの返答を待っている。沈黙が痛い。

 そのアナベルは口元に両手を当て、驚きに目を見開いている。


「……それはまた、ずいぶんと無茶苦茶なプロポーズの言葉ですね、シモンさま。それなら、私の答えは、 ……こうです!」


 しばらくして、泣き笑いのような表情と震える声でそう答えたアナベルが、いきなり窓枠を蹴って外へ飛び出した。

 彼女は5メートルほどの高さから、大きく両腕を広げて僕のところへ落ちてくる。僕は急いでミニゴーレムを触手状に繰り出してできるだけそっと落下の勢いを殺し、なんとか上手くその体を抱きとめることに成功した。


 アナベルはそのまま僕の首を抱え、肩に顔を埋めたまま離そうとしない。

 そして彼女は僕の耳元で囁く。


「それではお父様と国王陛下が黙っていないかも知れませんよ、シモンさま」


「その時はその時だ。何千人来ようと戦って、勝つよ」


「ふふっ、ありがとうございます。……あの夜、私はこう言おうとしたんですよ。どうか、私のすべてを奪ってください、と。……今日、その願いが叶いました。もう私は自分を誤魔化したり、逃げたりしません。シモンさま、私はあなたのものです」


「ちょっとアナベル、いつまでそうしてるつもりなのよ。そろそろ離れなさいよ!」


「いいじゃないですか少しくらい。私だってあの時、パトリシアさんとシモンさまがちゅーしてるのを見逃してあげたんですから」


「「み、見てたの!?」」


 その時、アナベルが飛び出した二階の窓から、パチパチと乾いた拍手が鳴った。

 見上げてみると…… うわ。ガトールフィン侯爵、アナベルのお父さんだ。さすがにアナベルも僕から身体を離して侯爵を見上げた。


「アナベル、一つだけ尋ねよう。彼を選んでこの先、後悔はしないかい?」


「はい、決して。……ですが、お父様にはご迷惑を……」


「私の事など気にするな。可愛い娘のためだ、何でもするさ。だがシモン君には少々言っておきたい事もある。後で話をしよう」


「……はい」


 ううっ。それはそうだろうなぁ、あれだけ滅茶苦茶なこと言っちゃったら。とりあえずは大人しく怒られてこよう。



「結局ありゃあ何だったんだ?」

「さあ? 演劇の稽古じゃないの」

「あーあ、どうせなら最初から見たかったね」

「そんなにサボってたらクビになっちゃうわよ」


 ギャラリーが解散し、すっかりいつもの調子に戻ったアナベルはパトリシアたちときゃいきゃい騒いでいる。

 そんな中僕は、今さらながらにアナベルに向かって言ったセリフと、アナベルが僕に告げた言葉を思い返して赤面していた。

 君が欲しい。あなたのものです。だって。 ……うわぁ。



 パキイイィィンッ!


 その時、聞き覚えのある嫌な音が響いて空間が割れた。

 一見何もないように見える場所からぬうっと姿を現したのは、全長10メートル近い大きさの甲虫だ。

 本来目があるはずの場所には、虚ろな表情をした男女の顔が貼り付いている。さらに気味の悪いことに、左右あわせて10本ほどある巨大な脚は昆虫のものではなく、様々な獣や人間の手足だった。


 ステータス「SS」、危険度判定、+100。スカラベの魔王。


 僕の〈簡易鑑定〉にはそう表示された。

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