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1-7 いろいろ便利ですよぉ

 僕の想定していた運搬というのは、街から街へ商品を運ぶとか、収納しておくと時間経過を止めることのできる〈ストレージ〉の特性を利用した生鮮食品の輸送とかそんな感じのものだ。

 間違っても高ランクの冒険者と一緒にダンジョンアタックとか、そんな危険なことをする気はなかったんだけど、結果的にはウォーレンの押しの強さに負けた。


 日程は、往復10日間の予定。出発は明日。

 報酬は後払いで3万ディル。これは日本円で言えばざっくり30万円くらいの価値になる。


 メンバーは僕を含めて5人。


 戦士のウォーレン、20歳。Bランク。

 もう一人の戦士、大男のダンカン、20歳。Bランク。

 魔術士のアンナ、主に水魔法と光魔法、回復魔法の使い手、18歳。Bランク。

 同じく魔術士のパトリシア、主に火魔法と風魔法、15歳。Cランク。

 パーティ名は「ライタスヴァンガード」。4人ともライタスって街の同郷だそうだ。


 そして僕、荷物持ち、16歳。Eランク。


 ウォーレンたちは最初から明日の出発予定で準備を進めていたらしく、もう必要なものはほぼ揃っている。

 ただ僕という〈ストレージ〉使いが同行することになったので、普段は携行しないような「あればいいなと思うけど持って行けないもの」も含めて準備をし直すことになった。





「これが10日分の荷物?」


「そうだよ。これを一度全部ストレージに収納してみてくれないか? それであとどのくらい余裕があるのか、教えて欲しいんだ」


 場所をウォーレンたちの定宿「紅熊亭」に移し、ダンジョンアタックのために揃えた荷物を見る。結構な量だ。

 嵩を取っているのはほとんど食料だな。これが一人一日分だよ、と手渡された包みはちょっと小さめの弁当箱くらいのサイズがあって、重さは1キロ弱。それが10日分プラス予備5日分で15個。5人分だと75個にもなる。これだけでも十分に大荷物だ。


 それ以外にも簡単な野営の道具に食器、人数分の毛布、各種薬品、装備を手入れする道具、予備の短剣などなど。

 もしも水魔法を使える魔術士がいなければ、ここに加えて大量の水も運ばなきゃならない。そりゃちょっと無理だよな。


 そんなことを考えつつ、荷物を片っ端から〈ストレージ〉に放り込む。

 特に呪文とかは必要なく、収納したいものに触れて念じるだけでいい。

 傍からは僕の手に触れた荷物が次々に消えていくように見えるので、みんな目を丸くして驚いている。なんかちょっと楽しくなってきた。



 結局5分もかからずに、床に積み上げられた荷物を全部〈ストレージ〉に収納し終わった。

 あとどのくらい入るんだろうかと確認してみると…… 残り容量がほとんど減ってない。今の荷物の100倍でも余裕で入りそうだ。


「どうだいシモン君、まだ入りそうかな?」


「えっと…… もう少しくらいなら、何とか」


 放逐されたハズレ勇者、なんて素性がバレるのは避けたいので、控えめに答えておく。

 僕はあくまで、〈ストレージ〉が使えるだけの普通の人間だ。


「それじゃあ、この予備の剣を……」


「おい、この大盾も入りそうか!?」


「大鍋とコンロがあるといろいろ便利ですよぉ」


「できたてのスープなんかも、持って行けたらいいと思わない?」


 女性陣の要求が、なんかちょっと違う気がする。

 いや、食事が重要だってのは分からなくもないんだけどね?





 一夜明け、ダンジョンを目指して5人で乗合馬車に乗り込んだ。

 ちなみに昨日は僕も「紅熊亭」に泊まった。昨日の「金鴨亭」の倍以上の料金だ。アナベルたちに貰った餞別がどんどん少なくなっていく。


 昨日はみんな普通の服装だったけど、今日はフル装備だ。前衛のウォーレンとダンカンは、要所要所に鋼板や鋲を打って強度を上げた革鎧の上にマントを羽織り、簡単な革のヘルメットも被っている。

 武器はウォーレンが片手剣、ダンカンは両手で扱う大剣だ。予備の武器として刃渡り30センチほどの短剣も身に付けている。


 後衛のアンナとパトリシアも基本は革鎧だけど、こちらは鋼板での補強はない。ヘルメットもマントも装備せず、代わりにフード付きのローブを着ている。

 いかにも魔術士らしく、1メートルほどの長さの杖を持っていて、腰には大振りなナイフを装備している。


 最後に僕だけど、昨日買った安い革鎧だけ。ショートソードはM1911に変わってしまったので柄しか残ってない。

 いくらなんでもそれじゃあ不安だろうって事で、ウォーレンが予備の短剣を貸してくれた。使える気はしないけど、厚意はありがたい。



 都市メリオラの門を出て馬車で1時間ほどのところに、ダンジョンの入口がある。「地下城」と呼ばれるそのダンジョンは、名前の通り地下に巨大な城が埋まっているような造りになっているそうだ。

 「地下城」の入口付近には冒険者相手の商店や宿、治療院なんかが軒を連ねていて、ちょっとした集落のようになっている。

 ここでもダンジョンに潜るために必要な物はだいたい手に入るけど、かなり割高になるらしい。いわゆる観光地価格ってヤツか。


 ダンジョン入口をぐるりと取り囲む防壁に、一ヵ所だけ設けられた門を潜る。そこには受付カウンターのようなものがあり、そこでパーティ名と人数、予定日数などを告げるといよいよ出発だ。

 入口は、城の尖塔の先端を思わせるような白い石造りの建物だった。

 その壁面にぽっかりと空いた半月状の穴から、ダンジョンに侵入して行く。


 入口近くには僕たちの他にも大勢の冒険者がいて、中にはものすごい大荷物を背負っている人もいた。

 なるほど、僕みたいなのがいないとああなるのか。でもあれでいざって時、ちゃんと戦えるのかな?


「もちろん不意打ちを食らったりすれば、その辺に投げ捨てるしかないね。同じ日に何度かそれをやったら、もう中身は滅茶苦茶だよ」


 ウォーレンに聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 そりゃあ〈ストレージ〉使いが重宝されるわけだ。

お読みいただき、ありがとうございます!

おかげさまで、異世界転生/転移の日間ファンタジーベスト300にランクインしました。PVも1日で1000を越えて、びっくりです。

もしこの作品を面白いとお思いになられましたら、ブックマークやポイント評価、ご感想など頂けますととても励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。

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