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僕のゴーレム作成能力の自由度が高すぎて、不可能はない気がしてきました。  作者: 九鹿蓮司
第六章

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6-5 どう思ってるの?

 ダンジョン「地下城」での戦いから数日後。


 何と言っても大量のアダマンタイトが手に入ったわけなので、当然ながら僕のする事は一つだ。それは即ちミニゴーレム増産。

 久しぶりに素材の残量を気にせず作り続けられるとあって、もう楽しくて楽しくて仕方がない。

 ついでに巨大ダンゴムシ(ギガントピルバグ)からも、そこそこ大粒でまとまった数の魔晶石が得られた。これも20ミリ弾丸ゴーレムに納まるサイズに分割して二次魔晶石に加工しておく。


 そういった作業を、ここ数日ずっと部屋にこもって続けている。

 いや、もちろん食事時には食堂に下りるし、風呂にもちゃんと入ってるよ。それに買い物に出掛ける時には一緒に行く。

 ただそれと睡眠以外の時間を全部、作業に充てているってだけのことだな。


 そして僕がそんな状態でも、パトリシアたちは毎日僕の部屋に集合する。

 でも僕が作業に没頭しているので、女の子たちだけで喋って寝る頃に解散、って感じの日々だ。





 そんなある日の朝。

 朝食を食べ終わってそそくさと部屋に戻ろうとすると、台所からガシャン、と食器の割れる音がした。


「あぁーっ! アナベル、その皿、おれのお気に入りじゃねぇか!」


「おっと、これは失礼。えーと、傷ついたすべての者に癒しを……」


「ちょっとアナベル。〈ヒーリング〉でお皿はくっつかないと思うわよ」


「えっ? ……ああ、それもそうですね。……どうしましょう?」


「おい大丈夫かよ? なんか変なもんでも食ったんじゃねぇのか?」


 珍しくアナベルが食器の片付け中に手を滑らせたみたいだ。

 どことなくぼんやりしているようにも見えるので、ひょっとすると風邪でもひいたのかも知れない。


「アナベル。もしどこか具合が悪いのなら、ナノゴーレムで治療してみようか?」


「いっ、いえ、大丈夫です! 私は至って健康ですので、どうぞお気遣いなく」


「そうか? でも無理はするなよ」


「はい。ありがとうございます、シモンさま」


 話しかけると、受け答えはしっかりしている。なんかちょっと違和感を感じなくもないけど。疲れてるのかな?

 ともあれ、本人が平気だと言っている以上はどうしようもないので、彼女の様子が気になりつつも僕はそのまま自室に戻った。



 その日の夜も、いつも通りみんな僕の部屋に集まって他愛のないお喋りをしたあと、それぞれ自室へ戻って行った。

 黙々と手を動かしつつBGM代わりにその会話を聞いていた限りでは、もう普段通りのアナベルのようだった。ちょっと心配しすぎだったかな。



 女の子たちが部屋に戻ったあともしばらく作業を続けていると、トントンと小さくドアのノックされる音が聞こえた。

 僕がどうぞ、とそれに答えると、入ってきたのはパトリシアだ。忘れ物でもしたのかな、と思って顔を上げると、彼女は浮かない表情をしていた。

 これにはさすがの僕も作業を中断して、ささっと周りを片付ける。パトリシアはそれで空いたスペースに、すとんと腰を下ろした。でも顔はこっちを向いていない。視線は斜め下の床の上だ。


「パトリシア、どうかした?」


「……最近、ちょっとつまんない」


 まずい。ひょっとして怒ってる?

 そう言えばここ何日か、あんまりパトリシアと……って言うか誰とも喋ってないぞ。せっかくひとつ屋根の下にいるってのにこれじゃ、機嫌を損ねられても仕方ない。ゴーレム増産が楽しくて他の事を疎かにしすぎちゃったな。


「ううん、違うの。シモンがいま大事な仕事をしているのは分かってるのよ。それを邪魔はしたくないの。でもやっぱりこれだけ長い間ゆっくり話もできないと、なんて言うか、その…… ちょっと寂しかったり……」


「そっか、ごめん」


「シモンが謝ることなんてないのよ。これはあたしの勝手な都合で言ってるだけなんだから。……だけどね? 一緒の家に暮らし始めてもうひと月じゃない。なのにあんまりシモンと……その、前に進んでるって感じもしないし、シモンはあたしの事どう思ってるのかな、なんて考えて不安になっちゃったりもして……」


「うん」


「……………………」


 しまったぁっ! そこはどう考えてもうん、じゃないだろ!

 我ながら情けない、もっと何か他に気の利いたことは言えないのか!?


「…………どう思ってるの?」


「…………っだ、」


「だ?」


「大好きだ」


 パトリシアがリカバーのチャンスをくれたけれど、やっぱり格好いいセリフなんて何も思い浮かばなかったので、思い切ってど直球で想いを告げた。

 言ったとたんに、身体が芯の方からカッと熱くなるのを感じる。パトリシアが目を丸くして僕の顔を見た。やっと、見てくれた。


「……あ、ありがと。 ……えっと、……もうちょっとそっち行ってもいい?」


「あ。うん、もちろんいいよ」


 髪の色と同じくらい赤い顔をしたパトリシアが、座ったまま床をすりすりと移動して近付いてくる。

 彼女は僕から30センチ離れたあたりでいったん止まり、それからさらにじわじわと擦り寄ってきて、最終的には僕の左腕を抱えて密着し、こてんと肩に頭を乗せた。


 ……な、何これ。どういう状況? 僕はこれからどうするべき?


「ぱ……パトリシア?」


「しぃーっ」


 動揺しまくった僕が少し身体を引くと、それを追うように唇に指を当てたパトリシアが顔を寄せてきた。

 近い。すごく近いよ。頬に温かい吐息が当たっている。腕に触れている柔らかいものは、ひょっとして胸なんじゃないの?

 そして息をする度にパトリシアの髪の甘い香りで胸がいっぱいになって、心臓はこれ以上ないってくらいバクバクしていて、もう理性が吹っ飛びそうだ。


「……来ないわね」


「……な、何が?」


「アナベルよ。いつもならそろそろ邪魔しに来る頃なんだけど…… やっぱりどこか具合が悪いのかな? 今朝からちょっと変だったし」


「……ぷふっ」


 間近に見える気遣わしげな表情に、僕は我慢しきれずに小さく吹き出してしまった。

 パトリシアがなによ、と呟いて頬を膨らませる。


「ごめん。でも、邪魔はされない方がいいんじゃないのかな?」


「……それもそうね。ヘンなの」


 顔を寄せ合ったまま、ふたりでくすくすと声を殺して笑った。

 そうすると、さっきまで感じていた胸が詰まりそうなほどの緊張がすうっと解けていく。

 少しだけ冷静になった僕の目の前にあるのは、この世界で……いや、元の世界を合わせたって比べられるもののない、いちばん大切な人の可愛らしい笑顔だ。


 彼女の顔をじっと見ているのに気付かれて、忍び笑いの声が止んで、お互いに見つめ合う。

 もうずっとこのままでいたいと思えるほど幸せな沈黙の中、僕はありったけの勇気を振り絞ってパトリシアの肩を抱き寄せた。彼女は一瞬だけ驚いたように視線を泳がせたあと、ふわりとはにかんだ笑みを浮かべてそっと目を閉じた。


 ……よし。い、いくぞっ!


 息を止め、もう十分に近い距離にある顔をさらに近付けていく。

 唇と唇が触れ合うと、んぅっとパトリシアが小さく身じろぎをした。もう他に例えようのないくらい柔らかくて滑らかで温かくて、愛おしい。


 そのままどのくらい時間が経ったのか分からないけど、もう息が続かなくなったので身体を離す。

 目を開けると、そこには上気したパトリシアの最高の笑顔があった。


「大好きだよ、パトリシア」


「あたしも。シモンが世界でいちばん好きよ。愛してる」


 二度目のキスはちゃんと鼻で呼吸していたので、さっきより長続きした。


 もう一度言っておこう。僕は、パトリシアと、キスをした。

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