6-2 私、何か変でしょうか?
シャルの出陣も決まったところで、行き先を相談する。
「そりゃあメリオラっつったら『地下城』に決まってんだろ」
「えっ。ダンジョンって危険な場所なんじゃないですか? 私なんかが行っても大丈夫なんでしょうか」
「そうでもないわ。無理さえしなければ意外と安全よ」
「そうだな。名の知れたダンジョンであるほど、低層部での危険は少ないものだ。奥深くまで進めばまた話は違ってくるが」
実は僕も知らなかったけれど、そういうことらしい。
魔獣はダンジョンだけじゃなく森の奥などにも多く出現するけれど、森での魔獣の出現頻度にはムラがあるし、どこから何が出てくるか分からないという危険性がある。
これがダンジョン内だと、基本的に奥へ進むほど強力な魔獣が出現するという傾向がはっきりしているので深入りしなければ危険は少ないし、小部屋に入ればほぼ確実に魔獣に遭遇するので、あてもなく魔獣を探し回って時間を無駄にすることもない。
ただし、ダンジョン内に棲む魔獣は死体を残さない。どんな魔獣を倒しても、手に入るのは魔晶石だけだ。
だから魔獣の体から得られる有用な素材を手に入れようと思えば、ダンジョンではなく森に入る必要がある。そのあたりは人それぞれだ。
ともあれ、グスタフさんのお墨付きもあり、行き先は「地下城」に決定。
メリオラから「地下城」までの距離は、馬車で1時間ほどだ。以前にパトリシアやウォーレンたちと行った時のように乗り合い馬車を利用してもいいんだけど、シャルが同行する都合上、昼前に出発して夕方には戻るという強行軍なので、ここはやっぱり自前の移動手段が欲しい。
メンバーは僕、パトリシア、アナベル、プリムラ、クラリス、シャル、グスタフさんで7人。だけどジムニーは4人乗りだ。頑張って詰めて乗ってもらっても5人が限界だろう。
よし、もっと大きい車を作るとするか。
そんなわけで出発の前日に半日かけて、ハンヴィーっぽいRVを作り上げた。
実車は5人乗り程度だけど、3列目のシートを増設したので、7人乗ってもまだゆとりがある。
BMW R75やジムニーもそうだけど、以前「地下城」から手に入れたアダマンタイトはもうほとんどミニゴーレムと弾丸ゴーレムに加工されてしまっているので、主な素材は鋼だ。
できればアダマンタイトの補充もしたいけれど、買うとなると黄金やミスリルよりも高い。僕のような使い方をするなら、すぐに何十億円って話になってしまう。
また「地下城」でアダマンタイトゴーレムに遭遇できれば、今ならあの時よりも簡単にタダで手に入るんだけどなぁ。同じ罠に偶然また引っ掛かることなんてまずないだろうし、もしそうなっても同じゴーレムがいるとも限らない。考えるだけ無駄なことか。
そして出発当日、シャルとグスタフさんは予定よりもかなり早くやってきた。よほど楽しみだったんだろう。
なので僕たちも予定を早めて、すぐにハンヴィーに乗りこんで出発することにした。
「これもシモンさまのゴーレムなの? 馬車よりも断然乗り心地がいいわ!」
「確か、クルマ、と言うのだったかな。話には聞いていたが、実際にこの目で見られる……いや、体験できる日が来ようとは思わなかった」
ハンヴィーに乗ったシャルはもちろん大喜び、グスタフさんも楽しそうに頬を弛めている。
ハンドルを握る僕の様子が気になっているようだし、あとで少し運転を代わってあげようかな。
「今回のはうるさくないし、揺れないわね」
「後部座席なのにこんなに広いなんて、夢のようです」
「以前にも違う乗り物に乗せて頂きましたが、これだけ大きいと安心できますね」
「着いたら起こしてくれよ。おやすみ」
こちらはもう慣れたものだ。
エンジンの振動や排気音の再現は毎回不評なので、今回はやめておいた。時間もなかったしね。
クラリスが前に乗ったことがあるのはR75の側車なので、確かに安心感は段違いだろう。
「ねぇシモン、あたしたちすごく目立ってるわよ。クルマで移動するのは市街地を抜けてからの方がよかったんじゃない?」
「そうですね。どのみち道が混んでいて馬車の速度でしか走れませんし」
「うっ。……た、確かに」
パトリシアとアナベルの言う通り、僕たちの乗ったハンヴィーは、防壁の門を潜るまでずっと注目を浴び続けていた。
郊外に出てからはもうこっちのものだ。軽快に飛ばして20分足らずで「地下城」へ到着。ハンヴィーを〈ストレージ〉に回収して、全員にフレックスアーマーを装着する。
あっという間に異様な存在感のある全身鎧集団の完成だ。前衛後衛関係なくこれほどの重装備をしているパーティは、まず他にはない。ミニゴーレムのパワーアシスト機能があってこそだな。
ダンジョン入口前の受付カウンターでパーティ名と人数、日程を申告する。ラブリーエンゼル、7人、日帰り、っと。
ついでに念のため、人数分の帰還の護符を買い足しておこう。
「時間が勿体ねぇ。早く行こうぜシモン!」
「走ると危ないですよ、プリムラちゃん」
「みんな並んでるんだから、追い抜いちゃダメよ、プリムラ」
「なんだかワクワクしますね、シモンさま」
「いくら優れた防具を身に付けているからと言っても油断は禁物だぞ、シャル」
「はい、叔父さま」
ダンジョン入口に向かう列に並ぶと、周りの冒険者たちがぎょっとしたような顔でこちらを見てくる。
そりゃまあ、10歳そこそこの女の子が重そうな全身鎧姿で軽々と走ったりスキップしてたりすれば、驚かれても仕方ないかな。
「……すごく視線を感じるんですけれど、私、何か変でしょうか?」
全身鎧の上に、さらに身長に匹敵する大きさの金属盾を2枚も装備していながらその重さを感じさせない歩調で歩くクラリスは、特に注目の的みたいだ。
装備の重さを計算してみて目を丸くしたり、鎧の下に隠された筋肉を値踏みしたりする声がひそひそと聞こえてくる。
あとはアレだ。鎧の胸部の異様な盛り上がりは、果たして本物かハッタリかって話題だな。実はこの声が一番多かったりするんだけど。
プリムラたちが騒いでいる間にもゆっくりと列は進み、尖塔の頂上だけが地面に置かれたようなダンジョン入口から、長い螺旋階段を下りていく。
いよいよ「地下城」だ。安全第一で、怪我のないように戦おう。




