5-6 もう、知らないっ
それから何日かが経って、新しい家でのみんなとの共同生活にもだいぶ慣れてきた。
食事は基本的にクラリスとプリムラが作り、テーブルの準備や食器洗浄機を使った後片付けはパトリシアとアナベルの仕事だ。
掃除はゴーレムたちだけでは行き届かない......ようにした部分をプリムラが中心になって仕上げてくれている。彼女は、まったくもう、しょうがねぇな、とか言いながら窓拭きをしていたりするんだけど、時々鼻歌が聞こえてきたりするのでやっぱり嫌ではないんだろう。
洗濯は女の子たち4人が当番制でやっているみたいだ。手もみ洗いから全自動洗濯乾燥機にシフトしたので、僕の分もまとめて洗ってもらっている。パトリシアたちから畳んだ下着を手渡されるのは、やっぱりちょっと照れくさいけどね。
こうして考えてみると僕、やっぱりゴーレム家電を作った以外にはなんにもしてないんだけど、本当にこれでいいんだろうか?
シャルは毎日お昼過ぎに、グスタフさんと一緒にやってくる。
リビングでお茶を飲みながらお喋りしたり外をぶらついたり、することは日によってまちまちだ。
なので二人ともいつ街中に出かける事になっても困らないように、皇族然りといったような服装ではなく、せいぜい大金持ちの親子連れといった風体で僕たちを訪ねてくるようになった。
それでも目立つことには変わりないんだけど、それはもう仕方ないよね。
そんなわけで今日は、みんなで一緒に露店商が並ぶ広場へやってきた。
ここは僕たちがいつも買い物に行っている市場とは違って、古着や装飾品、その他諸々の雑貨を扱う店がメインだ。それにお値段控えめな軽食の屋台も多い。
もっとも、今日は買い物が目的でここに来たわけじゃない。
「わぁっ! 本当にお祭りみたいな賑やかさね、シモンさま!」
「あはは。アルバーナの秋の大祭にはだいぶ及ばないと思うけどね」
「ううん。私、こんなの初めて見るわ!」
シャルが目を輝かせて見回す広場には、屋台だけじゃなくて何人ものストリートパフォーマーがいて、それぞれ見事な芸を披露して人だかりを作っている。
演目はジャグリングにパントマイム、ブレイクダンスにギターの弾き語りなど。これも大半は過去の勇者たちがこの世界に持ち込んだものなんだろう。
この広場では、ほぼ毎日こうしてイベントが開かれている。最初はストリートパフォーマンスを見にきている人を目当てに露店が開かれているのかと思ったけど実際はその逆で、客引きのために露店商たちがお金を出し合ってパフォーマーを雇っているんだそうだ。
それとは別に見物人が気に入ったパフォーマーに硬貨を投げているけど、あれは言わば歩合給みたいなものだな。
こういった形態のイベント広場は独立都市メリオラ独自のもののようで、シャルだけじゃなくグスタフさんも物珍しそうに辺りを見渡していた。
「ふむ、若い男女連れが多いようだな。なるほど、これが勇者ミツル殿の話していた、でーとすぽっと、というものか」
「……うっ」
ま、まぁ平たく言えばそうなんだけどね。そうハッキリと言われちゃうと、ちょっとね。
僕の隣では、今朝この広場に行こうと提案してきたパトリシアが顔を赤くして視線を泳がせている。
「シモンさま。私、あの方の歌をもっと近くで聞きたいわ!」
「……あ、うん。じゃあそっちに行こうか」
「そ、そうね。あたしも行くわ」
「では私も。集団デートですからね」
「ででで、デート……」
「なぁ、ちょっとあっちの揚げ菓子買ってきてもいいか?」
シャルの提案で僕たちはぞろぞろと移動を始めた。
グスタフさんの言う通りカップルの多いこの広場でも、やっぱりパトリシアたちは注目を浴びている。そのついでに僕が敵意のこもった視線を向けられるのも、いつもの事だ。
シャルのお眼鏡に適った女性の歌い手は確かに上手く、周囲に一際大きな人だかりを作っていた。前に置かれた籠にはけっこうな量の投げ銭が集まり、露店の品物もよく売れているようだ。
しばらくその歌声に聴き惚れていると、グスタフさんがぽつりと呟いた。
「……そう言えば、久しくシャルの歌を聴いておらんな」
「へぇっ。シャルも歌が得意なんですか?」
「ああ。以前はよく私に歌って聴かせてくれたものだ。ここで歌っても十分に通用するだろう」
「お、叔父さま! それは私がもっと小さかった時のことよ! だいいち、こんな大勢の人の前で歌うなんてとてもできないわ!」
「ははっ、すまんすまん。しかしここで通用するかどうかは別としても、私はシャルの歌声は好きだがな」
「もう、知らないっ」
ぷぅと膨れてそっぽを向いてしまったシャルを、グスタフさんが懸命になだめている。
身内とはいえグスタフさんがそんなに褒めるシャルの歌、僕も聞いてみたい気はするけど、今それを言うのは藪蛇だろうなぁ。
どうにかシャルの機嫌も直り、そろそろ戻ろうかと広場を後にする。
すると賑わう露店の並びから離れたところにぽつんと、粗末な敷物をしいただけの寂しげな店があるのに気付いた。
店番をしているのは10歳くらいの少年。並べられている商品は、蔓か何かで作られた編み籠だ。敷物の上に無造作に10個ほど置かれたそれは、大きさも形もまちまちで、お世辞にも良い仕上がりだとは言えない。
ひょっとして、この少年が自分で作って売りに来ているんだろうか。それにしたって、もっと人通りのある所で店を開けばいいのにな。
そんなことを思いつつ前を通り過ぎようとすると、その少年の方も驚いたような表情でこちらをじっと凝視している。
何だろう? 別に僕を見ているってわけじゃなさそうだ。彼の視線を辿っていくと、そこにいたのは……
「……そ、そこのお姉ちゃん、ひょっとしてエルフなのか!? 頼むよ、フロリーを、妹を助けてくれよ! オレ、何でもするからっ!」
「……へっ? あれ? おれのこと?」
突然立ち上がってそう叫びながらぽろぽろと大粒の涙を流し始めた少年を前に、プリムラが狼狽えていた。




