1-5 空撃ちなら問題ないよね?
その日の夜。
「金鴨亭」という安宿の一室を借り、硬いベッドに寝転んでこれからどうするか考える。
枕元では、神殿にいた時に作った5センチほどのフィギアが、くねくねと踊っている。
基本的には〈ストレージ〉の能力を使う仕事をして稼ぐ。ここは変わらない。僕はそれ以外、役に立つ能力を持ってないからね。
だけど今日、人に撥ねられて大怪我をするという貴重な経験をして自分の弱さを痛感したので、仕事を始める前にせめてもう少しくらいは強くなりたいと思う。
剣と最低限の防具は手に入れたけど、適性を持っていない以上、毎日剣の訓練を続けても強くなれる見込みは薄いだろう。
こういう時、小説なんかだと近代兵器を作って大逆転、とかの展開もあるんだろうけど、僕にはそんなものを作れる知識も技術もない。
例えば拳銃を作るにしたって、まず火薬が手に入らないし、たとえ火薬があったとしても雷管だっけ? それの作り方がわからないから点火する方法がない。
銃本体だって、金属を加工するにはそれ相応の道具と経験が必要だろうし、そもそも銃の内部構造を詳しく知ってなきゃコピーのしようがない。
僕の知識じゃ、実銃どころかエアガンだってまともには作れないだろう。
……あれ? ちょっと待てよ?
枕元で踊っているのは、神殿での食事の時に拝借した銀のティースプーンから作ったゴーレムだ。
つまり〈ゴーレム作成〉能力を使えば、金属を加工できる?
確かに僕は、銃の内部構造や仕組みについて詳しくない。だけど、大雑把になら何をすればいいかくらいは分かる。エアガンならなおさら簡単だ。
それでもわからない部分は、結果だけを真似てゴーレムにやらせれば?
そしてそもそも、ゴーレムってのは、絶対に人間の形を模してなきゃいけないものなんだろうか?
「ゴーレム作成」
分からなければ、やってみるまで。
僕は今日買ったばかりのショートソードに魔法をかけた。
鋼の刀身がうねうねと変形して、一挺の拳銃を形作っていく。
内部機構や動作を忠実に再現するわけじゃないから、リボルバーよりもむしろオートマチックの方が簡単だろう。イメージしたのはコルトM1911ガバメント。口径はおよそ10ミリ。
弾丸ももちろん〈ゴーレム作成〉で作る。
直径10ミリの球形ゴーレムが、とりあえず7体。
「ホントに、できた……」
手に取るとずっしりと重い、総スチール製のエアガン型ゴーレムの完成だ。
グリップを握るとピストンが前進して、シリンダー内の空気を圧縮する。トリガーを引くとチャンバー内で弾丸の保持が外れ、同時にシリンダーから高圧の空気が一気に送り込まれる。そしてまたピストンが前進してマガジンからチャンバーへ次弾が送り込まれる、という仕組みになっている。……はず。
うわぁ、ヤバい。今すぐ試し撃ちしたい。超したい。
……空撃ちなら問題ないよね?
弾丸を装填せずに銃を構え、トリガーを引いてみる。バスッ、という意外に大きな音がして、軽い反動が手に伝わってきた。
よし、ちゃんと撃てそうだ。実射は明日にしよう。
夜が明けたみたいだ。木の窓の隙間から白い光が差し込んできている。
眠い。
あのあと何度か空撃ちをする間に、銃に込める魔力量を調節することで威力も変化させられることが分かった。
なので楽しくて弱威力でぱすんぱすん撃ちまくってたんだけど、そのうちちょっと物足りなくなってきて、スライドとフレームを別ゴーレムにしてブローバック機構を再現したり、マガジンも別にしてみたり、排莢機能を追加したりしてしまった。薬莢なんかまったく必要ないのにだ。何やってんだ僕は。
排莢機能は撤去するとして、ブローバックとマガジンは残しておこう。せっかく作ったんだし。格好いいし。
宿で朝食を食べたあと、街の外に出てみることにした。
いよいよ実弾射撃だ。
都市メリオラを囲む防壁の門を通り、しばらく歩いて街から離れる。
何せ勇者を召喚して魔王と戦わせようってくらいの世界のことだから、当然そこには人を襲う存在である魔獣もいる。
ただ、平地を走る主要街道沿いなら、魔獣に襲われる危険は少ないらしい。絶対ないとは言い切れないけど。
小一時間ほど歩くと、ちょっとした丘や木々に阻まれてメリオラの防壁が見えなくなった。この辺でいいか。
主要街道と言ってもまだ朝早い時間のせいか、人通りは少ない。前後に人影が見えないのを確認してから、〈ストレージ〉にしまっていたコルトM1911もどきを取り出した。スライドを引いて初弾をチャンバーに送り込む。
実は装填はスライドを引かなくても銃が勝手にやってくれるんだけど、そこは気分の問題だ。
両手でしっかり銃をホールドして、20メートルほど離れた木に狙いを定めた。まずは、特に魔力を意識せずに撃ってみる。
バスッ! 空気の抜ける音とちょっとした反動があって、目標の木の幹にバチンと弾丸が弾かれて落ちた。命中はしたけど、それほどの威力はないな。
とは言え4グラムほどの重さがある鉄球だ。直撃したらかなり痛いだろう。
次は魔力を込めることを意識してトリガーを引く。
ズパンッ! 反動で腕が跳ね上がった。肩が痛い。狙いよりもはるか上方で木の幹から木屑が飛び散って舞い落ちる。
十分に殺傷能力があるよ、これ……
それから10発ほど撃って力加減を掴み、僕は街へと戻った。