4-8 あんなのは予定になかったじゃないか
「ゆ、勇者シモン殿、これはいったいどういう事だ!?」
マルトニー伯爵が、4人の軍人さんの後ろで喚いている。
ここはマルトニー伯爵の砦の最上階の部屋だ。僕は〈ギガンティック〉を解除し、ノーマルのフレックスアーマー装備でここにやってきた。
窓から見える砦の中では、あちこちで派手な爆発が起こって建物が倒壊している。その破壊活動をしているのはトウヤたちだ。
「ご覧の通り、勇者トウヤが暴れてますね」
「な、何を呑気なことを言っているのだ! 早く彼を止めてくれ!」
「ご心配なく。すぐに排除しますよ」
僕はそう言って伯爵に背を向け、ゆっくりと窓に歩み寄りながら〈ギガンティック〉を再装着、手にはM61バルカンを出現させた。
きれいに磨かれた床石がその重量に耐えかねてぴしりと小さな亀裂を走らせ、後ろで伯爵がひぃっと小さな悲鳴を上げた。
何かあわあわ言っている伯爵を無視して、高速回転を始めたバレルを窓の外に突き出す。
ブゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!!
「ひいいいいぃっ!?」
毎秒100体の発射速度で20ミリ弾丸ゴーレムが撃ち出され、すでにあちこち崩れかけている砦内の建物に直線を描くように飛んでいく。
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!
約300体の弾丸ゴーレムたちは着弾するとそれぞれ〈エクスプロージョン〉の魔法を発動させ、同数の爆発が石造りの建物を瞬時に粉砕する。
もうもうと立ち上る土煙が薄れると、着弾地点はほぼ更地になっていた。
その建物の中にいた人は、事前の打ち合わせ通りにトウヤたちが避難させてくれているはずだ。念のため弾丸ゴーレムたちにも、人がいたら魔法の発動はしないよう命令しておいたので大丈夫。
「なっ、なっ、何を!?」
「ちっ、逃げられた。……そこか!」
トウヤたちの姿を追うフリをしてまた別の場所を掃射し、新しい更地を作る。
そして第3射に入る前に、マルトニー伯爵が堪らず絶叫した。
「や、止めろ! 止めてくれぇっ!」
「そうは言われても、勇者トウヤを倒さないと戦争が終わりませんから」
「お、終わらせる。終わらせるからあと10日……いや5日待ってくれ!」
ブゥヴヴッ、ブオオオオンッ!!
ドッガガガガッ、ガガガガガガガァン!!
「ひぃゃあああぁッ!?」
「今日中に終わりますかね?」
そう聞くと伯爵は涙目になりながら必死で頷いていたので、もうこの辺でいいだろう。
次はエディンバー伯爵の番だ。
トウヤたちが先行し、さすがの身体能力で防壁を駆け上ってエディンバー伯爵の砦に侵入する。
僕はその後から、M61バルカンで防壁を破壊して突入した。
今度はさっきとは役割が逆で、僕が下で破壊工作をしてトウヤたちがエディンバー伯爵を脅迫……もとい説得する。
打ち合わせ通りに幾つかの建物を破壊して暴れ回り、目に付いた兵士を無力化して安全地帯に移す。その最中に入った大きな建物は、どうやらマルトニー伯爵軍の捕虜を収容している場所のようだった。
「もうすぐこの建物は破壊されます! 早く逃げてください!」
「……その声は、シモン君か! どうしてこんなところに?」
扉を壊しながらそう警告して回っていると、なんとウォーレンがそこにいた。
どうして、って聞きたいのはこっちの方だ。ウォーレンの実力なら軍人たちと比べたって上位に入るだろうし、まして民兵とでは比較にもならない。
そんなに簡単にやられて捕虜になったりはしないはずなんだけど。
「俺は初日にわざと降参してここに入ったんだよ。召集に応じないわけにはいかないだろうから来てみたけれど、こんな事のために他人と戦うのもご免だからね」
ウォーレンの話では、召集された民兵には戦果に応じて報奨金が出されるらしい。みんな本来の仕事を放り出してここに連れてこられたわけだから、できるだけ稼いで帰りたいと考えるのが普通だ。
けれど彼には「地下城」で僕が分配したお金があるから、ここで無理に戦う必要もないってことだな。納得した。
そして僕の方もウォーレンに、ここに来た理由と現在の状況について簡単に説明する。
「すまないね。アンナのために、ありがとう。それともパトリシアのために、かな?」
「……両方だよ」
正直にそう答えると、ウォーレンは笑いながら〈ギガンティック〉の腰の辺りをバンバン叩いてきた。
フレックスアーマーがあってよかった。生身だったら今ので間違いなく腰椎骨折と内臓破裂だよ。
そうして全員の避難を完了させてしばらくすると、派手な攻撃魔法が降り注いで幾つかの建物を消滅させた。
続いて少しの間をあけて2回、3回と大爆発が起こり、最後にはトウヤたちがいるだろう砦の最上階が跡形もなく吹っ飛んでしまった。
……何やってるんだアイツ。大丈夫か?
「待たせたな、シモン」
「何してたんだよトウヤ。あんなのは予定になかったじゃないか」
しばらくしてトウヤたちと合流する。
さっきの最上階の爆破について突っ込むと、彼は悪い悪いと軽く手を振って笑った。
「ちょっと想定外のことがあってな。……っと、そっちの男は誰だ?」
「ああ、この人がさっき話したウォーレンだよ。ウォーレン、こっちは勇者トウヤとロッキー、ビリーに……」
「ゆ、勇者だって!?」
僕の紹介を遮ってウォーレンが驚きの声を上げる。
その反応を見たトウヤが、不思議そうな表情で首を傾げた。
「何だよ。そんなに驚くほどの事じゃないだろ。シモンだって勇者なんだから」
「……ええええっ!?」
あ。そう言えばウォーレンにはまだ、僕が勇者だって事は伝えてなかったな。
話すのが遅れたことを謝りつつ、ウォーレンに大まかな事情を説明した。
ウォーレンは最初はかなり驚いていたけれど、すぐにいつも通りの落ち着きを取り戻す。ああそうだ、あとはアンナにも言っとかなきゃ。
そして僕とウォーレンの話が終わると、それを待っていたようにトウヤがずいっと身を乗り出してきた。
「さっき言いかけた事なんだが、エディンバー伯爵が白状した。この戦争の目的は湖の水利権じゃない。それはダミーで、本当の目的は娯楽と脱税だ」
「娯楽って言うのはひょっとして、領民を戦わせて楽しんでるってこと?」
「ああ。とんだクソ野郎共だ」
トウヤが不機嫌そうに吐き捨てる。
確かにそれは、聞いて気分が悪くなるような話だ。それで思わず最上階を吹っ飛ばしてしまったのか。気持ちは分からなくもないな。
だけどトウヤのことだ。いきなり僕に襲いかかってきた時みたいに、また勘違いしてるって可能性もあるぞ。その辺は大丈夫なんだろうか?
「俺も確認した。今回はトウヤの勘違いではない」
僕の心配そうな表情を読んだのか、ビリーが重々しく保証してくれた。
彼だけじゃなくロッキーとエドワードも頷いているので、たぶん大丈夫だろう。
「もうひとつの脱税ってのは?」
「そこは俺もよく分からん」
分かんないのかよ!
でも大丈夫、分かる人はちゃんと他にいて、エドワードがその後の説明を引き継いでくれた。
細かいところは割愛するけど、要は一定の条件を満たして行われた戦争で負けた側には、王国に納める税金を数年間減免するという措置があるらしい。
これは、戦争にかかった費用や勝者側に支払う賠償金などを取り戻すため、敗者側が領民に重税を科すことを防ぐ目的で行われるものだ。
とは言え、兵士の装備や食糧、報奨金にかかる費用は相当なもので、さらに民兵を召集すれば当然ながら領地の生産額も減少するので、この措置を受けたとしても領主が儲かるということはない。せいぜい、莫大な赤字がそこそこの赤字に変わるくらいだ。
だけどもし、最初から両軍が結託していて、戦争を起こすこと自体が目的だったとしたら。
その場合は、勝者と敗者の損益を均して黒字にできればそれで十分だろう。エドワードの話では、実際に両伯爵はそれを計算して戦争をしているらしい。
なるほど、そう言えばさっきマルトニー伯爵は、せめてあと5日戦争を続けさせてくれ、と言っていたな。それにそもそも僕の参戦に良い顔をしなかったのも、すぐに戦争に決着をつけられてはその計算に狂いが生じるという事情があったからだろう。
それで僕を排除するために嘘をついてまで勇者トウヤを呼び出したんだけど、これがとんだ薮蛇になってしまったわけだ。
「エディンバー伯爵には、今後二度と利水権に関して争わないことを確約させました。次はマルトニー伯爵にも同じ誓約をさせ、さらに両伯爵の不正を上に報告しておきましょう」
「うむ、そうすればもうこんな馬鹿げた戦争はなくなるはずだ」
エドワードの言葉にビリーが重々しく頷く。
これはありがたい。僕はこの戦争を早く終わらせることしか考えてなかったけど、彼らはもう二度と同じような戦争が起きないように手を打ってくれたらしい。頭が下がるな。
「おうよ! さあ、早ぇとこマルトニー伯爵をぶっ飛ばしに行こうぜ、トウヤ」
「ああ、そうだな。行こうぜシモン!」
「えっ、僕も!?」
「当たり前だろ。そっちの、ウォーレンだっけ? あんたも一緒に行くだろ?」
「あ、いや、俺は……」
「遠慮すんじゃねぇよ、さぁ行くぞ!」
僕は物凄い力でトウヤに背中を押され、ウォーレンはロッキーに腕を掴まれて目を白黒させながら引きずられていく。
まったく、戦闘狂どもめ。僕たちを同類扱いしないで欲しいんだけど。
……まあいいか。
よぉーし。もう一仕事、やるぞぉっ!




