4-6 ちゃんと手加減してる?
突然現れた全身鎧の4人の戦士、そのうちの一人はおそらくこの国、レトナク王国の勇者トウヤ。残る3人もステータス「A」の強者だ。
何かあるんじゃないかとは思ってたけど、まさか向こうも勇者を出してくるなんて想像もしてなかった。
「行くぞっ!」
掛け声とともに、勇者トウヤが僕に向かって真っ直ぐ突っ込んできた。残る3人は左右に別れて僕の側面に回り込もうとしている。
4人とも恐ろしく足が速い。重い全身鎧を着込んでいるにもかかわらず、全力疾走で見る見る距離を詰めてくる。さすがステータス「A」と「S」、超人的な身体能力だ。
「ギガンティック・ハイマニューバ!」
いくら「近接自動防御機能」があるといっても、こんなの4人も同時に相手をするわけにはいかない。
〈ギガンティック〉の下半身が変形して4脚となり、その先端にある車輪が地面を掻いて高速機動する。僕の脚が〈ギガンティック〉の胴体の中に納まっているからこそできる芸当だ。
相手は正面に勇者トウヤ、右に二人、左に一人の戦士。
となるとまずは左からだな。僕はトウヤに牽制射撃を加えつつ後退して左側へと回り、そこで左の一人に集中砲火を浴びせた。
誘導機能を持った20ミリ弾丸ゴーレムには、多少の回避行動なんて意味はない。
ステータス「A」と言えども、全弾命中コースで迫る30体近いゴーレムたちにはさすがに対応しきれず、数体が直撃。頑丈そうな鎧を貫通して生身に〈サンダーボルト〉の魔法が発動する。
驚いたことに彼はその魔法攻撃を3発くらいは耐えてみせたけど、ゴーレムたちの判断で魔法の強度が上がり、最後には意識を失って倒れた。
「ロッキーが! くそっ!」
倒れた一人の後ろから、トウヤが凄まじい速さの踏み込みで飛び込んできた。数十メートルあったはずの距離が一瞬でゼロになる。
薄金色に輝く長剣の横薙ぎの一閃が僕に迫る。これも速い。避けられない。
「おおおおおぉっ!!」
「……くっ」
僕は後退を続けつつ、〈ギガンティック〉の左腕に大盾を生成して勇者トウヤの剣を受けた。
……が、剣は大盾の表面で止まらず、後退速度を上げて引き離すまでの間に大盾と左腕の半分ほどを切り裂いた。なんてことだ、アダマンタイトのミニゴーレムたちが切られるなんて!
「ちぃっ、なんて硬さだ! そっちもオリハルコンかよ!」
トウヤが吐き捨てるように言う。なるほど、あの剣はオリハルコン製か!
素材の強度ではこっちが上のはずだけど、加工技術の違いか魔法強化の効果か、とにかくまともに食らうと切られるってことは身に染みて分かった。
やっぱり近接戦はなしだ。距離をとって戦わないと。
そしてまた少し距離が開いたので、FN SCARのフルオート射撃で20ミリ弾丸ゴーレムたちを叩き込む。なるべく全身にくまなく着弾するコースで誘導したにも関わらず、勇者トウヤは50体を超えるそれらを全部剣と盾で弾き飛ばした。
ほんと化け物じみた強さだな。カスタールの勇者ミツルより強いのはもちろん、グスタフさんや大鷹の魔王よりもよっぽど強敵じゃないか。
このまま手加減していたんじゃ勝てない。そう判断して武器をM61バルカンに持ち変えようと射撃の手を止めると、左側から強烈な火魔法〈メガエクスプロージョン〉を撃ち込まれて視界が遮られた。
さっき右手にいた2人か。トウヤに気を取られている間に回り込まれたようだ。……て言うかそっち、ちゃんと手加減してる? 今のなんか、僕の防具がアダマンタイト製でなけりゃ死んでるかもしれない威力だぞ。
「うりゃああああっ!」
「うわぁっ!?」
爆炎が消え去ると、目の前に勇者トウヤの姿。さらに左からは2人の「A」級戦士が迫ってきていた。
それぞれ別方向からの3人の攻撃に対して「近接自動防御機能」が発動。瞬時に形成された3本の腕と盾が、傷を負いながらも辛うじてそれを防ぐ。僕は猛ダッシュでその場を離れつつ、3人に対してFN SCARを撃ちまくった。
「グゥッ!?」
「ビリー!? ……畜生ッ! 何なんだ今のはっ!?」
確認している余裕はなかったけど、また一人を倒したようだ。
少し距離を稼いだところでFN SCARを左手に持ち替え、右手に全長2メートルの6銃身ガトリング砲、M61バルカンを出現させた。
バレルが甲高い音を立てて回転を始め、12個のコンプレッサーが作動して大量の空気を圧搾していく。
ここで本来なら足裏からスパイクを地面に打ち込んで反動に耐える体勢を作るところだけど、4脚の〈ハイマニューバ〉なら、少なくとも反動で転ぶことはないだろう。
そう判断した僕はいったん足を止め、できるだけ体勢を低くしてM61バルカンのトリガーを引いた。
ブゥウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォンッ!!
やっぱり反動に耐えきれずに少し体が流れたけど、誘導機能のおかげで大量の流れ弾は作らずに済んだみたいだ。
300体以上の20ミリ弾丸ゴーレムが勇者トウヤともう一人の戦士を襲い、それでも弾かれた数十体のゴーレムたちが地面に落ちて土砂を巻き上げる。
斉射を終えた僕はまたすぐに高速移動を再開し、もうもうと立つ土煙を回り込んで第2射を……
「セェイアアァッ!!」
土煙を突き抜けて、勇者トウヤが再び凄まじい速度の踏み込みで姿を現した。今のを食らって、まだこんな動きができるのか!?
でも今度はさっきよりも少し距離が遠い。僕はどうにか彼の剣の間合いに入る前に後退を始められた。
「ハァッ!」
「うええっ!?」
完全に躱しきったかと思ったら、なんとトウヤは剣を投げてきた!
目標は〈ギガンティック〉の胴体、その中にはもちろん僕がいる。あのオリハルコン製の剣なら、胴の分厚い装甲を抜いてきても不思議はない。
避けられるか? いや、それよりもいっそのこと……
ブヴヴゥオオオオオオオオォオンッ!
僕は後退を続けながらM61バルカンのトリガーを引いた。
体が回転しないようにできるだけ重心を通る線上にM61を構えたつもりだけど、それでもやっぱり反動で上体が浮き、4本の脚でも踏ん張り切れずに軌道がフラフラと揺れる。
再度の斉射で撃ち出された20ミリ弾丸ゴーレムたちは、飛来するオリハルコンの長剣を弾き飛ばし、容赦なく勇者トウヤを打ちのめしていく。
彼はそれでも左腕の盾で幾つかを叩き落としたけれど、そんなものは焼け石に水だ。たぶん数十体のゴーレムたちがほぼ一斉に着弾して〈サンダーボルト〉の魔法を発動させた。
「ぐあっ!?」
吹き飛んで仰向けに倒れた勇者トウヤは、驚いたことにまだ意識を保っていた。嘘だろ、どれだけタフなんだよ?
僕は警戒しつつ彼に接近し、回転を続けるM61の銃口を向けて、まだやる気か、と聞く。
「ば、馬鹿言え、この程度で俺が降参するとでも…… っくそ、体が動かねぇ」
それはそうだろう。彼の鎧は全身余すところなく穴だらけでベコベコに変形していて、さらには黒焦げの状態だ。
たぶん手足の骨も何箇所か折れているに違いない。やった僕が言うのも何だけど、意識があるのが不思議なくらいの惨状だ。
「……くそっ、畜生っ。お前、こんなに強いのに、どうして弱い者をいたぶって楽しもうなんて考えるんだよ!?」
「えっ?」
「……えっ?」
どうやら、何かとんでもない誤解があるみたいだった。




