4-3 意外に野蛮なんだな
ウォーレンとアンナの家は孤児院からかなり離れた集落にあるという事なので、小型RVゴーレムで移動することにした。
出発前に院長先生からざっくりと説明を受けたところによると、戦争はこのライタスを含む領地を治めるマルトニー伯爵と、隣りあう地域を領有するエディンバー伯爵の間で行われている。
両伯爵家はもう何十年も前から、領地の境目にある小さな湖の領有権を巡って争い続けているらしい。この湖は双方にとって重要な水源なんだけど、どんなに古い史料を当たってもどちらの領地に属するかがはっきりしていなかったんだそうだ。
そこで両伯爵家の先々代の当主が話し合った結果、戦って負けた方が水の使用料を支払うということに決まり、それ以来数年おきにこうして湖の優先利用権を賭けた戦争が繰り返されている。
……と、言うことだった。
「だけど、いくら水が大事だって言っても、無理やり人を集めて殺し合いまでさせることはないよな」
もっと平和的な解決策を考えればいいのに、と思って言った僕の言葉に、パトリシアたち3人が驚いた顔をする。
あれ? 何か変なこと言ったかな。
「ああ、うっかりしていました。シモンさま、こちらの世界の戦争で人が死ぬことはまずありません」
「ええっ!? シモンの世界の戦争では本当に殺し合いをするの?」
「へぇっ。そうなんだ、意外に野蛮なんだな」
プリムラに野蛮とか言われるって、微妙にショックだ。
でも何、どういうこと? 戦争ってのは人が死ぬもんじゃないの?
「シモンさまの世界とは違って、戦争では両軍が正面からぶつかり合い、捕虜の人数によって勝敗を決めます。戦場で犠牲者を出してしまうことは、双方にとってとても不名誉なことなんです」
なるほどゲームみたいなものか、と一瞬思ったけど、武器は本物を使うらしい。ちゃんと刺さる矢、切れる真剣、攻撃魔法だ。
ただし急所は狙わず、魔法は威力を制限して使う。相手が戦意を失ったり降参したりすればそれ以上の攻撃は加えない。奇襲夜襲や致死性の高い毒の使用も禁止。
戦場には大勢の治癒魔術士がいて、降参した者がいれば敵味方を問わず治療する。もちろん、その治癒魔術士を攻撃することは固く禁じられている。
これは国内での戦争に限ったことじゃなくて、独立都市メリオラを中心とした6ヵ国の間では、国家間の戦争に関しても同じルールに基づいて行われるらしい。
ただ勇者召喚が行われるようになってからは、国際戦争は一度も起こっていない。
それ以外の国々については、アナベルも知らないという事だった。
ともあれ、この世界の戦争が殺し合いの殲滅戦じゃないってことは分かった。ウォーレンほど強い剣士なら、そうそう心配する必要もないだろう。
さっき院長先生が戦争の話をした時、あんまり深刻そうな雰囲気じゃなかったのはこのせいか。
「アンナ、院長先生に聞いたわ。ウォーレンが……」
「パティー? ……パティーっ! うわああああぁん!」
集落の人に道を尋ねてウォーレンの家に着く。
パトリシアが扉を開けてアンナに呼びかけると、彼女は一瞬きょとんとした表情を見せたあと、突然パトリシアに抱きついて泣き始めた。
「……そうね、心配よね。でも大丈夫よ。きっと大丈夫」
「うぅ、ぐずっ。ひっく。ぅええええぇん」
強いから、まず死なないから平気だろうなんて、とんでもない思い違いだった。
好きな人が遠くへ連れていかれて戦わされ、自分の知らないところで怪我をしたり、辛い思いをしていたりするかもしれないんだ。
それが心配じゃないはずがないよな。
「ごめんねぇ。私、パティーの顔を見たらなんだか気持ちが緩んじゃって……」
「そんなの気にすることないわよ。悲しいのが当たり前なんだから」
「うん、ありがとうねぇ」
しばらく泣き続けていたアンナが落ち着き、ようやく話ができるようになった。
ウォーレンが召集を受けたのは5日前。戦場はここから北へ馬車で半日ほどの距離にある荒地だそうだ。
たとえ身内であっても、女性は戦場に近づくことすら禁止されているらしい。
「おれたちじゃ、何の役にも立てねぇな」
「そうですね」
「そんなことないですよぅ。こうして訪ねてきてくれただけで嬉しいです。ウォーレンなら、もうあと一ヵ月もすれば戻って来ますからぁ」
「……それなら、せめてそれまで一緒にいるわ」
「ありがとう、パティー。でももう大丈夫ですよぅ」
来てみたはいいものの、できることがないと分かって女性陣がしょんぼりしている。
あと一ヵ月って、長いよなぁ。その間ずっと寂しい思いをし続けなきゃいけないなんて、気の毒すぎる。
よし、ここは僕の出番だな。
「それじゃあ、僕が行ってさっさと戦争を終わらせてくるよ。マルトニー伯爵ってのを勝たせればいいんだよね」
できるだけ気軽な調子で言ってみたんだけど、女性陣ははっと息を飲んで僕を見つめる。
「そんなのだめよ、シモン!」
「行かないでください、シモンさま!」
「そりゃあ、いくらシモンでも難しいと思うぜ」
「シモンさん、私は平気ですからぁ」
猛反対だった。まあ普通に考えればそうだよな。
だけどこの世界の戦争のルールは、僕にとってかなり有利なものだと思うんだ。
奇襲なし、正面からのぶつかり合いだけで相手を無力化すればいいんだから、遠方からスタンモードの20ミリ弾丸ゴーレムを撃ちまくればいい。
一方で僕はフレックスアーマーを装着していれば鋼やミスリルの武器は通さないし、魔法も効果がない。
サブレイオン神殿で神殿騎士団と戦った時のことを思えば、少なく見積っても僕一人で数百人は制圧可能だろう。攻撃面でも防御面でも、僕の装備はあの時より格段に強くなっている事だし。
そんな内容でパトリシアたちを説得し、2、3日で帰ってくる、危なくなったら必ず逃げる、という条件付きで何とか参戦の許可をもらった。
そうと決まれば行動は早い方がいい。まだ日は高いし、戦場まで馬車で半日の距離ということなら僕のゴーレムで行けば2時間足らずだ。余裕を持って日暮れまでに到着できるだろう。
「……本当に気をつけてね、シモン」
「シモンさま、早く帰ってきて下さい」
「危ないと思ったらちゃんと逃げろよな?」
「無理はしないでくださいねぇ」
まだまだ心配そうな女性陣の見送りの言葉にありがとう、と一言返し、僕はBMW R75に跨って戦場へと向かった。
戦争なんかすぐ終わらせてウォーレンを連れて戻ってくるから、待っててよ。




