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僕のゴーレム作成能力の自由度が高すぎて、不可能はない気がしてきました。  作者: 九鹿蓮司
第三章

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3-13 痛いのはいやよ

 なぜだかシャルロッテ姫が機嫌を損ねてしまったことで、中庭のテラスでの謁見は早々にお開きとなった。

 理由もわからず嫌われるというのは釈然としないものがあるけど、まあ結果オーライと言えなくもない。この先、彼女と会う機会はまずないだろうからね。


 それよりも、そのことで皇帝陛下や皇子様に気を遣われて、謝られることの居心地の悪さと言ったらもう。究極のいたたまれなさだった。


 ただ残念ながらこれで宮殿での用が終わったという事にはならず、詫びを兼ねて夕餉でも、と引き留められてしまった。

 その晩餐にはパトリシアたちも招待してくれるらしいので、それならまあいいかとご厚意を受けることにした。





「っこ、皇帝陛下と晩餐!? どうしよう、あたしこんな格好でいいの?」


「私には無敵のフォーマルウェア、神官服がありますから大丈夫です」


「アナベルはもう神官やめてるじゃない。なんでまだそんなの持ってるのよ?」


「コスプレ用です」


「……こす……ぷ?」


 アナベル、お前本当は転生者だろ?

 パトリシアは何着てても可愛いから、そのままでもいいと思うんだ。

 それとプリムラ、晩御飯食べられなくなるからお菓子はその辺にしとけ。


 その騒ぎを微笑ましそうに聞いていたメイドさんの話によると、どうやら彼女たちにはドレスを貸してもらえるらしい。

 のちほど衣装選びと着付けにご案内します、と言われてパトリシアとアナベルが瞳を輝かせていた。プリムラはお菓子を食べるのに忙しくて、あまり話を聞いていない。



 晩餐までにはまだ時間があるので、パトリシアたちにさっきの謁見の様子を話して聞かせた。

 どういうポイントでシャルロッテ姫の機嫌を損ねたんだろうかと、同じ女の子の目線で考えてもらう。


「シモンさま、それはシャルロッテ姫が……」

「きっとグスタフさんのことを好きなのよ」


 パトリシアとアナベルが同意見だ。

 プリムラはお菓子を食べている。


「えっ、でもグスタフさんから見たらシャルロッテ姫は姪だろ?」


 聞いたところではグスタフさんは第6皇子で、シャルロッテ姫は皇太子、つまり第1皇子の長女だそうだ。

 ひょっとしたら母親は違うのかも知れないけど、姫様の父親とグスタフさんは兄弟だから、姪と叔父で間違いないだろう。姫様自身も叔父さま、と呼んでたし。


「そう言う好きとは違うのよ。……ね?」


「そうですね。シャルロッテ姫様は、お小さい頃からグスタフ殿下によく懐いておいででした。グスタフ殿下はあの通りお強くて格好良い方ですから、人気がおありなんですよ」


 パトリシアに話を振られて答えたのは、部屋付きのメイドさんだった。

 どうやら僕が席を外していた間に仲良くなっていたようだ。社交性高いな。羨ましい。

 でもなるほど、それでちょっと分かった。憧れのグスタフ叔父さまが、自分より勇者の方が強いなんて言っちゃったから敵視されたってところか。


 ……てことは、またグスタフさんが元凶なんじゃないか。

 次に会ったらさっき以上のジト目で睨んでやる。


 そしてプリムラ、そろそろ本気でお菓子はやめとけ。





 それからしばらくすると、パトリシアたちは晩餐で着る衣装選びということで別室へ移動して行った。

 残された僕が、広い部屋にメイドさんと二人きりという気まずい雰囲気の中でお茶を飲んでいると、ノックも何もなくいきなりバンっと扉が開け放たれた。


「シモン殿! 貴殿の知恵をお借りしたいっ!」


 血相を変えて入ってきたのはグスタフさんだ。

 そんなに慌ててどうしたんだろう、魔王に相対していた時だってもっと冷静だったぞ?


「何があったんですか?」


「実は…… いや、時が惜しい。歩きながらお話しする。その方、すまんがシモン殿のお連れ方に宜しく伝えてくれ」


「は、はいっ」


 メイドさんにそう言い残し、グスタフさんと僕は早足で部屋を出た。





「つい先ほど、父上……陛下とシャルロッテが、腹痛を訴えて倒れた」


 廊下を歩きながらグスタフさんが話してくれた内容は、こうだ。


 僕との謁見の前、シャルロッテ姫は庭の散策中に山葡萄の実をみつけ、それを周囲の目を盗んでこっそり皇帝陛下とふたりで食べたそうだ。

 そして不運なことに、その山葡萄にたちの悪い寄生虫がついていたらしい。体内で増殖しながら体のあちこちに広がっていくタイプの寄生虫だ。

 寄生されると激痛と高熱、嘔吐などの症状が出て、数日後には死に至る。確実な治療法はなく、〈痛み止め(ペインキラー)〉と〈ヒーリング〉の魔法をかけて症状を抑えながら本人の自然治癒力に期待するしかないらしい。


 通常であれば皇帝陛下が毒見のされていないようなものを口にすることはないが、可愛い孫娘のくれたものということで気が緩んだのだろう、とグスタフさんが言う。


「勇者殿の世界では、こちらよりも遥かに医療が発達していると聞く。治療法について何か心当たりがないか伺いたいのだ」


 ええっ。そんなこと期待されても困るよ。

 寄生虫の治療って言うとたぶん、それ専用の薬を飲むんじゃないのかな。大きいものだと外科手術とか。

 どっちにせよ僕にはそんな知識も技術もないし、申し訳ないけど役には立てないだろう。


 あと思い付くって言ったら、免疫機能を上げるってくらいか。

 でもその程度のことなら当然こっちの世界の人も知ってるだろうし、だいいち具体的にどうやって免疫機能を……


 ……そうか、上げられるかも。ナノゴーレムで。


「グスタフさん。心当たりがひとつあります」


 そう告げるとグスタフさんは驚いた顔をして、そうか、さすがは勇者殿だ、と頷いた。





 治療が行われている部屋に着くと、皇帝陛下とシャルロッテ姫がベッドに横になっていて、その周囲に10人ほどの魔術士や白衣を着た医師らしき人たちがいた。

 皇帝陛下と姫の顔色は酷く青白く、生気がない。息をするのも辛そうな感じだ。


「……おお、すまんな勇者シモン。わしの不注意で、皆には迷惑をかける」


「父上。シモン殿が治療法をご存知だそうだ。お任せして宜しいか?」


「そうかグスタフ、わしはお前の判断を信じる。好きにせよ」


 皇帝陛下の言葉で、医師たちが色めき立つ。

 どうするおつもりなのか、勝手なことをされては困る、陛下に万一のことが…… と言った感じだ。そりゃまあそうだろう、言いたいことは分かるよ。

 僕に詰め寄ってくる医師たちにグスタフさんが、やめよ、陛下がお許しになった、と静かな声で言うと、彼らは一瞬で大人しくなった。


「では、治療方針をご説明します」


 僕が体の一部を素材にして細胞サイズのゴーレムを作ることができること、それを自己増殖で増やすことができること、命令を与えて体内の異物を排除できる可能性があること、などを手短かに説明する。

 医師たちからはまた、そんな話は聞いたことがない、本当に安全なのか、陛下に万一のことが…… などと声が上がる。


「静まれ、わしが許したのだ。勇者シモンに任せる」


 その皇帝陛下の一言で、彼らはまたしゅんとなって引き下がった。

 気持ちはわかるんだけどね。なんか申し訳ない。


「では陛下、失礼します」


「いや、わしよりも先にシャルロッテを治してやってくれ。頼む」


 言われてみると確かに、皇帝陛下よりもシャルロッテ姫のほうがはるかに容態が悪そうに見える。呼吸が荒く、意識も朦朧としているようだ。

 分かりました、すぐに、と陛下に答えて、僕はそっとシャルロッテ姫の小さな手を取った。


「……な、なに? 何をするの?」


 姫がうっすらと目を開き、怯えたように僕を見る。


「今から、姫様の体の中にいる悪い虫を退治します」


「どうやって? ……痛いのはいやよ」


「大丈夫、痛くないですよ。ちゃんと自分で試してみましたから」


「本当に、治してくれるの? ……その、私、さっきは……」


 ああ、謁見の時のことを気にしてるのか。

 随分と喧嘩腰だったから、それで僕が気分を悪くしたと思ってるのかもな。全然そんなことないのに。


「気にしないで。さあ、始めますよ」


 シャルロッテ姫がこくりと頷く。

 その碧色の瞳にじっと見つめられながら、僕は彼女の指先に向けて〈ゴーレム作成(クリエイトゴーレム)〉と呟いた。

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