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僕のゴーレム作成能力の自由度が高すぎて、不可能はない気がしてきました。  作者: 九鹿蓮司
第三章

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3-8 お前を倒せば、帰れる!

 魔王。召喚された勇者の倒すべき敵。

 年に一体のペースで発生する、一種一体の強力な魔獣。



 その魔王が今、僕たちの目の前にいる。

 ただそこに存在しているってだけで、もう威圧感が半端じゃない。みんな息を呑んで黙り込んでしまった。


 できれば逃げ出したいところだけど、残念ながらダンジョン出口に続く帰路はあの魔王の後ろだ。

 来た道を戻ってダンジョンの奥深くに逃げるって手もあるけど、敵は安全地帯であるはずの広場に平気で出現してくるような相手だ。もし追ってこられたら逃げ切れる自信はない。


 ぐるりと3つの頭が一斉に振り向き、空っぽの眼窩が6つ、僕たちを見る。そこに眼球はないけど、確かに「見られた」と感じた。

 何百歳だか分からないほどに歳経た老人の口の端が、にやぁっと吊り上がる。



 どうやら逃げるって道は絶たれたみたいだ。……仕方ない。戦ってみるか。

 最悪、パトリシアたちだけでも逃がさなきゃな。

 

「……シモン?」


 掠れた声と軽く腕を引かれる感触に振り返ると、パトリシアが酷く心配そうな顔で僕を見上げていた。

 彼女に大丈夫、と一言だけ答えて、その手を離す。


「フレックスアーマー、巨人モード(ギガンティック)


 すでにフレックスアーマーは装着しているけど、さらに追加で大量のミニゴーレムが出現し、3メートル近い身長をもつ巨人を造り上げた。

 僕はそのずんぐりとした胴体の中に収まり、マスタースレイブと思考制御(ソートトレース)でこの巨体を操作する。


 そしてFN P90に替えて〈ストレージ〉から取り出した武器は、全長およそ2メートル、口径20ミリの銃身を6本備えたガトリング砲。M61バルカンだ。

 最大で毎秒100発の20ミリ弾丸ゴーレムを射出する、対魔王用に準備しておいた兵器。まさか本当に使う時が来るとは思わなかったけど。


 M61を構えたところで、魔王の狼の口からオレンジ色のブレスが吐き出された。

 僕は左腕に装着された大盾をかざして真正面からブレスを受け止める。盾の表面で猛烈な炎が噴き上がり、裏側にまで回り込んできて〈ギガンティック〉の装甲を舐める。

 僕の後ろ側で、パトリシアたちが小さく悲鳴をあげるのが聞こえた。けれど彼女たちもアダマンタイトのフレックスアーマーを装備している。この程度の余波なら問題ないだろう。



 よぉし、耐え切った。今度はこっちの番だ!


 M61に魔力を注ぎ込み、総数12個のコンプレッサーを作動させてタンクに圧縮空気を送り込む。

 円形に束ねられた6本のバレルが、甲高い風切り音をたてて回転を始める。

 20ミリ弾丸ゴーレムのフルオート射撃の反動に耐えるため、総重量1トンを超える〈ギガンティック〉の足裏からスパイクが飛び出して地面に食い込んだ。



 ……射撃準備完了だ。行くぞ!



 僕が今まさにM61のトリガーを引こうとした瞬間、パキィン、という音とともに再び空間が割れ砕け、そこから4人の人間が現れた。

 剣士3人、魔術士1人という構成の4人組は、出現と同時に素早く魔王の周囲に展開する。剣士はみんな重そうなフルプレートアーマーを着込んでいるけど、それをまるで感じさせない軽快さだ。


「シモンさま、カスタール帝国の勇者です」


 アナベルがほっとしたような声で言う。

 そう言えばサブレイオン神殿にいた時に聞いた事があるな。各国の神殿が魔王の発生を察知すると、転移魔法ですぐにその場所に勇者を送り込めるようになっているんだ。


「もう大丈夫、俺は勇者だ! ここは俺らに任せてお前たちは早く逃げ……」


 勇者を名乗った、僕より一つ二つ年上くらいの日本人の男が、僕の姿に気付いてギョッとした顔をした。

 けれどその呆気に取られたような表情はすぐに消え、次には睨みつけるような険しい眼差しで僕を見すえる。


「お前も勇者か! どこの国の勇者かは知らないが、コイツは俺の獲物だ。横取りはやめてもらおう!」


「そんなつもりはないよ。魔王はそちらに任せる」


「……ならいい。そこで黙って見てろ」


 なぜかいきなり喧嘩腰なカスタール帝国の勇者は、そう言い捨てて魔王へ向かっていった。


 〈簡易鑑定〉で見るステータスは、勇者……ミツルって名前らしいけど、彼が「S」、あとの3人は「A」だ。僕たちよりはるかに強い。ぶっちゃけ化け物と言ってもいいレベルだ。

 魔王は勇者以外には傷付けられないって話だったから、他の3人はサポート役なんだろう。今も剣士二人が魔王の気を引いている間に、勇者ミツルが回り込んで魔王に切りつけている。

 ……あんまり効いてないように見えるんだけど、気のせいかな?


「……2年だ。俺は2年も待った!」


 そう叫びながら、勇者ミツルは何もない宙を踏んで魔王の頭まで駆け上がり、横薙ぎに剣を振って蛇の頭に傷を負わせる。

 魔王が反撃に狼の口から炎のブレスを吐き出すけど、紙一重のタイミングで魔術士が発動させた防御魔法がそれを防いだ。ミツルは荒れ狂う炎の渦の中から無傷で飛び出してくる。

 そのまま宙を蹴って魔王の背後に着地した彼は、ごく短い詠唱で直径1メートルほどの巨大な炎の球を作り出し、それを飛ばして蛇の頭を焼く。けれど、これも今イチ効果が薄そうだ。


 ちょっと焦げた蛇の頭がくるりと後ろを向き、ミツルに向けて青白い光線を吐き出した。彼は素早く前にダッシュしてそれを躱す。

 光線を受けた地面が、一瞬で白い霜と氷に覆われた。



ーーお前を倒せば、帰れる!

ーーお前に殺されても帰れる!

ーーもうサキに2年も会ってないんだ!

ーーお前のせいでっ!!

ーー俺は今すぐサキの顔を見たいんだよっ!!



 ミツルは叫びながら魔王を攻撃し続けている。

 まさに縦横無尽の動きを見せているけど、そのせいで他の3人と連携が取れていないようにも見える。

 そしてミツルの手数は多いものの、魔王には深手を負った様子はない。


 この調子で、本当に倒せるのか?

 僕がそう思い始めたとき、魔王の老人の頭が吐き出した黒いブレスが、空中を駆けるミツルを捕えた。


「ごぅえっ!?」


 ミツルは、広場の壁を形づくる巨木の幹へ向かって一直線に飛び、恐ろしい勢いでそこに激突したあと、思い切り地面に叩きつけられるような不自然な動きで落下した。


「ああっ!?」

「ミツル殿っ!」


 魔術士が駆け寄り、ミツルに治癒魔法をかける。彼は何とか立ち上がったが、よろよろと足元がおぼつかない。

 その間、二人の剣士が魔王の気を引いている。そのうちの一人、30代前半ほどの濃い金髪の男が、戦いながらちらちらと僕に視線を送ってきた。


「そこにおられる勇者殿よ! もし宜しければ、我らの戦いにご助力を願いたいっ!」


「……よ、余計な……ことを、言うな。グスタフ」


「そして身勝手は重々承知なれど、最後の止めは我らが勇者にお任せ頂きたく存ずるっ!」


「や……めろ! そんなこと、承知するはずが……」


「よし承知した! 僕の武器がどこまで通用するかは分からないけど、やってみよう!」


 即答した僕に、勇者一行の視線が集まる。

 この提案をしてきた濃い金髪の30男、グスタフ自身も、一瞬驚いたような顔をしたあとで、(かたじけ)ない、と小さく頭を下げた。


 そうと決まれば、射撃準備再開だ。いったん外した足裏のスパイクを出し直して足元を固定。12個のコンプレッサーが一斉に作動し、M61バルカンのバレルが高速回転を開始する。

 ミツルはまだふらついているけど、グスタフともう一人の剣士、そして魔術士が連携を取って魔王の注意を引き付けてくれている。

 彼らは3個の頭から3種類のブレスが吐き出されるのを危なげなく躱し、素早い動きで魔王を撹乱し続けている。すごい、プロだ。


「撃つぞ、退がれっ!」


 僕の合図で瞬時に飛び退く二人の剣士。

 それを確認して、僕はトリガーを引いた。


 ブゥウウウウウウウウウウウウゥォンッ!


 ほんの2秒ちょっとの斉射で、200体以上の20ミリ弾丸ゴーレムが撃ち出される。今回は付与魔法の発動はない。魔晶石由来の魔法攻撃は、魔王には効果がないからだ。

 魔王の足元を狙った掃射で猛禽の脚部はぐずぐずに崩れ、バランスを失った巨体が前のめりに倒れた。


 ブゥウウウウゥンッ! ヴヴヴゥンッ! ブヴッ!


 さらに追い討ちで蛇と狼の頭を吹き飛ばす。まだまだ死にそうになかったので、ついでに老人の頭の下顎も消し飛ばした。

 これでブレスを吐けなくなっていればいいんだけど。


「……なっ! 何が起きた!?」

「まさかそんな、魔王がたった一撃で!」


 いやいやまさか、一撃どころじゃないよ。むしろ手数の勝利だ。

 今の攻撃で400発近く撃ってるからね。


「シモン、すごい……」

「さすがはシモンさまです」

「このくらい、当然だよな!」


 後ろからは身内の声だ。

 いや、実際に撃ってみるまで、本当に効果があるかどうかは分からなかったんだけどね?

 思った以上に威力があって、僕自身も驚いてるくらいだ。


 まあでも、それはそれとして。


「さあ、カスタールの勇者。止めを!」


 僕は魔王の一つだけ残した老人の頭にM61の照準を合わせたまま、勇者ミツルに呼び掛けた。

 彼は倒れた魔王を眺めて呆然としていたが、僕の声で我に返り、さっきまでよりは多少しっかりした足取りで魔王に歩み寄る。


 彼は、大きさが1メートル近くもある老人の頭の前で立ち止まり、手にした剣の切先をその後頭部に思い切り突き入れた。

 老人の頭は、グゲッ、という気味の悪い呻きを上げたあと、もう動かなくなった。



 こうして、魔王の討伐が完了した。

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