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1-3 ごめんなさいニャン

 僕がこの世界に召喚されてから、もう1ヵ月が経った。


 ゴーレム作成の訓練は相変わらずだ。未だに全高1メートルを超えるものは作れない。

 夜に自室でもちょこちょこ練習してるので、むしろ小さくて緻密なゴーレムを作るのが得意になってきてしまった。なので全高5センチくらいの動くフィギアが、部屋にたくさんいる。


 それ以外にも剣術や弓術、火水土風の属性魔法、治癒魔法なんかも教わってみたけど、やっぱり適性がないせいか全然上達しない。

 魔法はともかく、体を動かす事については、練習すればするだけ身に付くものだと思うんだけどなぁ。



 そんな事を考えつつ、今日も昼食後に剣の素振りなどをしていると、一人の神官さんが僕を呼びに来た。

 なんか浮かない顔だ。これは悪い知らせっぽいな。


「勇者シモン様、ギスモ伯爵がお呼びになっておられます」


 うわ、大当たり。最悪の知らせだ。





 神官さんに案内されて通された部屋は、今まで僕が見たこともないくらい豪華な家具の並ぶ広い部屋だった。

 中央に置かれた柔らかそうなソファにギスモ伯爵とブロンコ男爵がふんぞり返って座り、侍女の給仕で昼間から酒を飲んでいる。


 伯爵は僕が入ってきたのに気づくと、懐に手を突っ込んでごそごそしたあと、何かを投げて寄こしてきた。

 毛足の長い絨毯にぽすっと落ちたそれは、何枚かの金貨だった。


「お前は勇者失格だ。そいつをくれてやるからどこへでも行け」


「へ?」


 一瞬、何を言われたのかわからなくて間抜けな声を出してしまう。


「聞こえなかったか。魔王を倒す力を持たない勇者など無意味だから失せろ、と言っておるのだ。神殿の奴らは何かと庇いだてするが、お前のような役立たずを囲っていては、我が国が諸国の笑いものになってしまうわ」


「伯爵閣下の仰る通り、ハズレ勇者などに何の益もない。それに餞別まで下されようとする伯爵閣下のご厚情に感謝するのだな」


「……なっ」


 こいつら、人を勝手に召喚しておいて何だその言い草は。


 僕の能力が勇者として破格の低さだったことには、ちょっと申し訳ないなと思う気持ちもあったけど、それも今ので吹っ飛んだ。

 さすがに頭にきて文句の一つ二つも言ってやろうと口を開きかけた時、部屋の扉が勢いよく開かれた。


「ギスモ伯爵! そのような勝手をされては困りますっ!」


 扉口で青い長髪を振り乱し、肩で息をしながらそう叫んだのはアナベルだ。


「訓練が終わるまでは、勇者シモンさまの所属はこのメリオラの勇者神殿です! 少なくともフォルティア王国への正式な転属が終わるまでは、口出しは出来ないはずですよっ!」


「いくら訓練してもモノにならん勇者など要らん! 現に去年召喚されたレトナク王国の勇者など、召喚から1ヵ月後には単独で迷宮を踏破していたそうではないか!」


「……そっ、それはっ……」


「そもそも、このようなハズレ勇者を召喚したそなたにも責任があろう。何なら、こちらは再召喚を要求することもできるのだぞ」


「…………っ!」


 アナベルの勢いがガタ落ちだ。

 伯爵はソファにふんぞり返ったまま、ニヤニヤと笑っている。


「ようやく分かったか。ならば、今年の召喚は失敗に終わった。勇者などおらん。そのように手配せよ」


「……わかりました」


 今の伯爵とアナベルとのやり取りにどんな意味があったのか、僕にはよく分からない。

 ただその時のアナベルの辛そうな表情を見ると、もうちょっと頑張って食い下がってくれよ、とはとても言えなかった。





「こちらの都合で召喚しておきながらこのようなことになってしまい、本当に申し訳ないです」


「アナベルたちに悪意があったわけじゃないってことは分かってるよ。短い間だったけど、いろいろ気を遣ってくれてありがとう」


 裏門から神殿を出ていく僕を、アナベルと数人の神官さんが見送りに来てくれた。みんな責任を感じているのか、表情が固い。

 僕はと言えば、実はけっこう前向きな気分だ。何せ、自殺しない限りは、いずれ元の世界に戻れることは確定なんだから。

 それまでの間は、この世界で頑張って生きられるだけ生きてみようと思う。


「……前任者が、もし何か大きな失敗をした時にはこう、頭に両手で耳を作って、ごめんなさいニャン、と言えば大抵のことは許してもらえると言っていたんですが、これもやっぱり……」


「うん、騙されてるね」


 そう答えながらも、手で猫耳を作ってちょっと前屈みの低い姿勢から見上げてくるアナベルの仕草が可愛かったので、大抵のことは許せる気がしてしまった。

 それから、〈ストレージ〉の能力は使える人が少ないので、これをうまく利用すればお金が稼げるとか、小型のゴーレムでも性能さえ良ければ買い手がつくとか、幾つかのアドバイスを貰う。

 最後にアナベルは、これは少ないですが、と何枚かの硬貨の入った革袋を渡してくれた。うん? もしかしてこれって……


「伯爵のお金じゃありませんよ」


「そっか。それならありがたく頂戴するよ」


 金貨一枚の価値は、日本円に換算してほぼ10万円に相当するらしい。

 だけど、あんな奴らからの施しなんか絶対に受けたくないからな。


「どうか、この世界の人間があんな輩ばかりだとは思わないでくださいね?」


「もちろん、分かってる」


「ありがとうございます。……神の御恵みにより、あの二人の男性機能に深刻な不具合が生じますように」


 男性機能って。嫁入り前の娘がそんなこと言っちゃいけません。

 神官さんたちも、真面目に祈ってるんじゃないよっ!

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