2-11 こ、これでいいの?
「このような大金、本当に頂いてしまっていいんでしょうか?」
ムラーノ伯爵襲撃の翌日……と言うかその日の朝。
いざ精錬した金やミスリル、アダマンタイトを渡そうとすると、クラリスが急に遠慮をしはじめた。
ちなみに、きっちりと査定してもらったところ、全部で100億円近い金額になっていた。そりゃまあ、遠慮もするかな?
「僕の方が勝手にしたことです。気にしないで受け取ってください」
「ですが私には、シモンさんにお返しできるものが何もありませんし……」
「この4日間、ずっとお世話になってましたから、それで十分です。クラリスの作ってくれたご飯、すごく美味しかったですよ」
「……えっ? そ、そう……ですか? ……あ、ありがとうございます」
クラリスの顔が、火でも出そうなくらいに赤くなる。
そう言えば彼女は男爵家の当主だもんな。料理の腕前なんか褒められても困るだけか。失敗した。
「もうっ! うだうだ言ってないで素直に受け取ればいいのよ! 最初から見返りなんて望んでないんだから」
「その通りです! まったく、ちょっと人より胸が大きいからって……」
いや、胸は関係ないだろアナベル。
この4日間で彼女らはクラリスとかなり仲良くなったらしく、言葉に遠慮ってものがない。でもそれだけに、これが功を奏したみたいだ。
「そうですね。遠慮ができるような立場ではありませんでした。ありがとう、パトリシア、アナベル、そしてシモンさん。ありがたく、使わせていただきます」
クラリスがそう言って深く頭を下げる。
隣で同じようにお辞儀をしていたフレデリックさんが、ところで、と前置きしてクラリスを見た。
「お嬢様、シモン様はたいへんに稀有な存在でいらっしゃいます。たった4日間、それもお一人で、鉱山の最盛期の2ヵ月分に相当する量の鉱物を精錬なさいました。しかも、一個の魔晶石を使うこともなく、です。シモン様がハートランド男爵領にもたらすことのできる利益についてお考え下さい」
そう言われてみると、ちょっとやり過ぎたかも知れない、とも思う。
何せ僕のした仕事は、ほぼコストゼロだ。普通なら大勢の人夫や職人を雇って、大量の魔晶石を消費してする仕事を、僕一人でこなしてしまった。
確かに、これを続ければ大儲けに違いない。
「爺やの言うことは分かります。ただ、今回シモンさんは善意でお骨折り下さっただけなのですから、これ以上、こちらの勝手な都合でこの地に留まっていただくわけには行かないでしょう?」
「どうやらお分かりでないようですな。爺は、お嬢様ご自身が、シモン様がこの地に留まる理由におなりになれば良いと申し上げておるのです。つまりシモン様にハートランド男爵を襲爵していただいてですな……」
「じ、爺やっ!? な、なにをいきなり言いだすんですかぁっ! それはえーと、ううぅー ……その、とっ、とにかくそんなのはだめですっ!」
またクラリスが真っ赤だ。今度は頭から湯気が出てそうなくらい。
何だって? 僕をハートランド男爵に?
……うええっ!? それってつまりあの三男みたいにクラリスと結婚して、ってことか!? そんでもってクラリスはそれを全否定!?
領民のためならと、あの三男との縁談すら受けようとしたクラリスが…… くうっ、自信なくすなぁ……
「シモンさま、私はオールウェイズウェルカムですよ?」
「あ、あたしだってそうよ!」
「あの、わた…… うううぅー」
「お嬢様、敵は強力です。恥ずかしがっていては入り込めませんぞ」
その日の午後、僕たちはようやく海辺の街、アンサルトに到着した。
何だかんだと寄り道して、結局当初の予定通りの日程だ。
強い陽射しを避けるためか、石造りの家は壁も屋根もすべて真っ白に塗られていて、海と空の青色との境を際立たさせている。
見る角度によっては本当に白と青しかない世界に来てしまったような、不思議な気持ちにさせられる。
パトリシアもアナベルもその風景に見入っていて、うわぁ、とか言いながら口が半開きだ。唯一この風景が初見ではないらしいクラリスだけが落ち着いている。
そう、なぜかクラリスもツーリードから付いてきた。
フレデリックさんが言うには、たまにはお嬢様にも息抜きが必要です、って事らしいけど。
「うわ! 見てシモン、海よ海! すごい、あの海って本当に全部海!?」
パトリシアが興奮してわけのわからない事を口走っている。
アナベルもパトリシアほどではないものの大はしゃぎで、二人して海岸の砂浜目指して猛ダッシュしたあと、すぐに強ばった顔をして戻ってきた。
……何があった?
「し、シモン、あっちは行っちゃダメよ!」
「みんな下着姿で遊んでいます。どうかしてます」
あ。そうか、そういう事か。
しまったな、これじゃあ僕たちも水着を着て海に行こう、なんて言い出しにくいぞ。
どう説明したものかと考えていると、僕が何か言う前にクラリスがフォローしてくれた。
「あれは下着ではなくて水着ですよ。昔、勇者様が海に入るために考え出された服装です。パトリシアとアナベルは着ないんですか?」
「着ないわよ!」
「着ませんよ!」
即答した二人に、クラリスがニヤリと笑って言う。
「でもシモンさんは二人の水着姿、見たいと思いますよね?」
瞬間、全員の視線が僕に集まった。
クラリスは面白がっているような、パトリシアとアナベルはこれから殺し合いでも始めるのかってくらいの視線だ。
「……見たいの?」
「……見たいんですか?」
「……ま、まあ ……ね?」
その勢いに負けて、思わず正直に答えてしまった。
そういったわけで今、砂浜の近くにある店で女性陣が水着を選んでいる。
僕は適当に無難なトランクスを選び、先に着替えて砂浜でぼーっと待つ。
あー、コーラか何か飲みたいな。
「シモンさん、お待たせしましたー」
クラリスの声に振り向くと、下ろした金髪に白いビキニ姿の彼女が目に入った。
とにかく胸のボリュームがすごい。ただでさえ少ない布地が、さらに小さく見える。ジロジロ見るまいと頑張っても自然に視線が惹き付けられてしまう。
当の本人は、近いだけあって海は慣れているんだろう、周囲から集まる視線も気にせず堂々としたものだ。
「……ほら。こ、これでいいの?」
次はパトリシアだ。黒字に白の花柄が入ったひらひらした上下で、全然水着っぽくない。かろうじてヘソがちらちら覗いているのが普段着と違うところだ。
それと、恥ずかしそうに周りを気にしながらモジモジしてるところとか。
いや、でもやっぱり可愛いな。まあ、パトリシアは何着てても可愛いからしょうがないけど。
「さあ、見るなら見なさいっ!」
そしてアナベルは…… 小学生だ。小学生がいる。
あれはどこからどう見てもスクール水着じゃないか。異世界になんてもん持ち込んで来やがるんだ過去の勇者。
でもこれはこれでまあ、可愛いかな。妹的な意味で。
そうして歩き寄ってきたアナベルがえいっと僕の左腕に抱きつき、それに触発されたパトリシアが顔を赤くしながらそっと右腕をとる。
最後にクラリスがおろおろしながら後ろから僕の……海パンを掴むんじゃない! 今絶対お尻見えただろ。
やっぱり海はいいな!
メリオラからはちょっと遠いけど、これからも時々来よう。
たくさんのブックマークにポイント評価、ご感想をお寄せいただき、ありがとうございます!
これにて第二章終了となり、明日から第三章に入ります。
ゴーレム武装強化案はいろいろと準備してあるのですが、あまり登場させられませんでした。いつか30ミリ弾丸ゴーレムが撃てる日を心待ちにして書いていますので、今後にご期待ください。
もしこの作品を面白いとお思いになられましたら、ブックマークやポイント評価、ご感想など頂けますととても励みになりますので、どうぞ宜しくお願いします。




