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2-5 淑女のたしなみです

 神殿騎士団を倒したあとは、トントン拍子に事が進んだ。


 まずは数名の最高神官会議のメンバーだという人に会い、謝罪を受けた。もちろん再召喚も中止だ。

 それから改めて僕を神殿に迎え入れ、勇者としてのお披露目をしたいと誘われたけど、これは断った。せっかく放逐されて気楽な身分になれたってのに、また戻って神殿や国に縛られるメリットが僕にはない。

 何せ、ここで正式に勇者の立場に戻れば、次に行く場所はあのギスモ伯爵やブロンコ男爵のいるフォルティア王国になる。それは絶対に嫌だ。


 高位神官たちはどうにかして僕を慰留しようと懸命だったけど、力ずくでどうこうできる相手じゃないことはもう証明済みなので、僕にその意思がない以上どうしようもない。

 最後には諦めてくれたけど、魔王出現の際には可能な限り力を貸して欲しい、と頭を下げられた。これに対しては、僕の力が通用する相手なら、という条件付きで受け入れておいた。


 ついでながら最高神官長は、ギスモ伯爵から個人的にかなりの金品を受け取っていたらしく、その件も含めて責任を取る形で即日解任されたようだ。

 ギスモ伯爵とブロンコ男爵に関しても、彼らの不適切な言動について抗議する文書を最高神官会議の名前でフォルティア王国に送り、本人たちは独立都市メリオラを追放されることになった。





 てなわけで、問題は解決。


 攻撃力では3挺のゴーレム銃、防御力では〈半自律可変装甲(フレックスアーマー)〉を手に入れて、武装は十分。

 〈簡易鑑定〉で見た神殿騎士たちは、ステータスで「B」か「C」、危険度判定で+5から+8だった。つまり今の僕は、50人のウォーレン相手に無双できるってことになる。これは凄いことだ。

 ま、ゴーレムたちがいなければ瞬殺されるのはこっちだけどね。


 そして資金も、普通に生活する分には多すぎるほどの手持ちがある。

 神殿とフォルティア王国には正式に話がついて、自由も手に入れた。

 そのうえ、旅の同行者に美少女パトリシア。……と、なぜかアナベルも一緒だ。


「なんであんたもついてくるのよ。破門は解けたんだから神殿に戻ればいいじゃない!」


「いいじゃないですか。私とシモンさまの仲なんですから」


「なっ…… ど、どんな仲だっていうのよ!」


「それはもう、1ヵ月もひとつ屋根の下で暮らして、いろいろとお世話させていただいたんですよ。……いろいろと。ねぇ?」


「し、シモン!?」


 ひとつ屋根の下って。そりゃまあ同じサブレイオン神殿の中にいたけどね。同じ屋根の下には、僕らの他にあと100人くらいはいたんじゃないのかな。

 そんなことより君ら、神殿では仲良さそうにハイタッチとかしてたじゃん。なんで今はまた喧嘩してるんだよ。



 そんな感じで賑やかな二人と一緒に、僕は乗合馬車に乗り込んだ。今度の目的地はダンジョンじゃなくて、ルシアナという近隣の街だ。

 独立都市メリオラは、その名の通りどの国にも属していない。レトナク王国、エンディリア王国、カスタール帝国という3つの大国に挟まれた緩衝地域にあるらしい。


 今日の目的地ルシアナは、エンディリア王国の国境の街だ。方角でいえばメリオラの南西にあたる。そしてそのままずっとエンディリア王国の領土を南下すれば、最後は海に突き当たる。

 そしてなぜ海を目指すかといえば、それはパトリシアが、生まれてから一度も海を見たことがない、と言ったからだ。最初の旅の目的地として、これほどふさわしい場所があるだろうか。

 あとはこれでアナベルが一緒でなければ、いや、せめてアナベルとパトリシアが仲良くしてくれていたら最高なんだけどなぁ。


「あたしだって、シモンと二人っきりで一夜を過ごしたのよ! 膝枕だってしてあげたんだからっ!」


「それは逆に言えば、シモンさまとはまだそれ以上の関係ではないと言うことですよね? ……ふふん」


「……なっ!? なによその顔はっ!?」


 あのね、馬車には他のお客さんもいるんだから、そんな誤解を招くような話題はやめてくれないかな? ちょっと周囲からの視線が痛いんだけど。

 特に男性陣からすごい形相で睨まれてる。うちの連れがうるさくてすみません。そう思いながら軽く頭を下げたら、逆に視線に殺気がこもった。なんでだ?





 時々休憩を挟みながら、馬車は特にこれといったトラブルもなく街道を走っていく。

 予定通りなら日暮れ前にはルシアナに着くはずだ。あと3、4時間ってところか。


 さすがに疲れたのかパトリシアとアナベルが少し大人しくなったので、穏やかな気分でそんな事を考えていると、いきなり前触れもなく馬車が急停止した。

 何事かと思い外を見ると、馬車は10人ほどの武装した男たちに囲まれていた。少し前方には数人の騎乗した男と馬車も見える。

 これはいわゆる野盗って奴だろうか。それにしてはあの馬車は立派だな。男たちの薄汚れた格好とはそぐわない感じがする。


「シモンさま、あれは太っちょ伯爵の馬車ですよ。これはきっと伯爵んむぎゅ!?」


 右隣に座っているアナベルが顔を寄せて耳打ちしてきた。

 左隣に座っているパトリシアが即座にそれを押し戻す。


 なるほど、逆恨みからの襲撃ってところか。定番中の定番だな。

 すると案の定、男たちは手にしたメモを見ながら僕たち3人を指さし、馬車から降りるようにと告げてきた。


「他の奴らに用はねぇ。そいつらを降ろしたらさっさと行っちまえ!」


 さて、どうするかなとパトリシアを見ると、彼女は表情を引き締めてうんとひとつ頷く。分かった、降りて戦おうってことだな。

 右側から袖を引っ張られたのでアナベルも見てみると、ウインクされた。……どういうこと?





 僕たちが降りると、乗合馬車は本当に走り去ってしまった。乗車賃は前払いだったのに。

 周りを取り囲む男たちの人数は12人、騎乗した男が4人。ニヤニヤ笑いながらパトリシアとアナベルを見て、ガキには勿体ねぇ上玉だとかなんとかテンプレっぽい下品なことを言っている。

 〈簡易鑑定〉をかけてみると、危険度判定は+2から+4ってところだ。雑魚だな。と言ってもプラス判定である以上、僕より断然強いんだけど。


「小僧は殺せ。小娘は好きにしていい。かかれ!」


 馬上の男が命令すると、周囲から一斉に武器を手にした男たちが襲いかかってきた。


「ウインドシールド、バッシュ!」


半自律可変装甲(フレックスアーマー)砲台モード(バッテリー)


 パトリシアの風魔法が同時に3人の男を吹き飛ばし、僕はフレックスアーマーを装着する。右手にレミントンM870、左手にコルトM1911、そして背後に回した補助腕にH&K MP5Kを持ち、スタンモードで全方向に弾丸ゴーレムをバラ撒いた。

 さすがに後方が見えるわけではないので、MP5Kの照準はゴーレムに任せている。フルオート射撃だから、少しくらい狙いが甘くても問題ない。


「ぎゃっ!」

「うぶふぅっ!?」

「おげっ!」


 敵全員の無力化まで、わずか数秒。10ミリ弾を体中に受けた男たちは悶絶し、不幸にも20ミリ弾で吹き飛ばされた数人には意識がない。

 一人だけ射線上にアナベルがいて狙えなかった男がいたけど、そいつは彼女が鮮やかな投げ技で地面に叩きつけて倒していた。

 僕が神殿騎士団50人を相手に完勝したことは知ってるだろうに、どうしてこの程度の戦力で通用すると思ったんだろう?


「このくらいの護身術は、淑女のたしなみです」


 着衣の乱れを整えながら、涼しい顔でアナベルが言う。

 ……淑女って、どういう意味だったっけ?


「シモン! 馬車が逃げるわよ!」


 パトリシアの声に振り向くと、確かにギスモ伯爵たちの乗る馬車が、手下を放置したまま走り去ろうとしている。

 あれは僕だけじゃなく、パトリシアとアナベルにも危害を加えようとした相手だ。手加減はなしでいいよな。


 20ミリ弾のスタンモードを解除、〈エクスプロージョン〉と〈サンダーボルト〉を交互に装填し、M870で連続8発を逃げる馬車の周囲に叩き込んだ。

 爆炎と紫電が交互に馬車を襲い、車両を粉々に破壊する。直撃はさせていないので、たぶん死んではいないだろう。

 すると思った通り、太っちょ伯爵とヒョロ男爵らしき人影が、馬車の残骸からよろよろと這い出してきた。なおも徒歩で逃げようとする二人に、今度はスタンモードで20ミリ弾をお見舞いして昏倒させる。


 よし、これで今度こそ戦闘終了だ。



「ねぇシモン、あの馬車は壊さずに奪った方がよかったんじゃないの?」


「徒歩ですとルシアナに着く頃には真夜中ですね」


 あー、ホントだ。……どうしよう?

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