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2-2 私と一緒にっ!

 慌ててミニゴーレム鎧を解除し、パトリシアに〈ヒーリング〉をかけてもらって、何とか事なきを得た。

 やっぱり魔法は便利だな。今度〈ヒーリング〉の魔道具も買ってきて以下略。



「驚いたわ、この小さなゴーレムが集まって鎧になるのね。ちょっと最後は締まらなかったけど」


 そう言ってパトリシアがくすくすと笑う。恥ずかしい。

 実際に試すのは初めてだったからね、とか言い訳しながら床に散らばる素材や何やらを片付け、硬いベッドにぼすんと腰掛ける。

 するとパトリシアが小さな革袋を取り出して、僕に差し出してきた。


「ウォーレンから預かってきたわ。シモンへの報酬、渡すのを忘れてて済まなかったって。どうぞ」


「ありがとう。でもいいのかな、依頼自体は失敗だったと思うんだけど」


 何せ、荷物持ちの僕がいなくなったせいで、みんな日程の途中で引き返すことになったもんな。

 捜索隊の編成にもずいぶんお金が掛かっただろうし、もし僕たちが偶然宝物庫を見つけてなければ大赤字になっていたところだ。


「いいわよ。みんなシモンにはすごく感謝してるんだから、受け取って」


「うん、それじゃ遠慮なく」


 革袋の中身を確認すると、そこには契約通りに3万ディル、金貨が3枚入っていた。このお金は使わずに、大事に取っておこう。

 パトリシアはわざわざこれを届けるために訪ねて来てくれたんだろうか。そう聞くと、彼女は視線を逸らしてうーん、と少し思案したあと、いきなりすとんと僕の隣に腰掛けてきた。えっ、何?


「ウォーレンとアンナがね、結婚するんだって」


「へ?」


「アンナたちはもともとライタス……私たちの故郷で、大きな農場を作りたくて、そのお金を稼ぐために冒険者をしてたのよ。でも今回、シモンから大金を貰ったでしょ? もうそれで十分な資金が貯まったから」


「そうか……」


「ダンカンは恋人のジーンとメリオラで食堂を経営するからって、こっちも冒険者を引退するみたい」


「…………」


「だから『ライタスヴァンガード』は解散。……あたし、一人になっちゃった」


 パトリシアはまっすぐ前の、何もない壁を見上げながら、寂しそうにそう言った。

 良かれと思って財宝をみんなに分配したのに、その結果がこれか。パトリシアには悪いことしちゃったな。


「ごめんな、パトリシア」


 思わずそう謝罪の言葉を口にすると、パトリシアが驚いたようにこっちを振り向く。


「ち、違うわよ! シモンのせいだって言ってるわけじゃないわ! いずれ必ずこうなる日がきたの。それが予想よりちょっと早まっただけよ。それはいい事なんだから、シモンが気にすることないわよ」



 パトリシア曰く、大多数の冒険者は、将来の夢を実現するための手っ取り早い稼ぎ口としてダンジョンに潜り、魔獣と戦っている。

 決して少なくない数の冒険者たちが、その夢を実現することなく命を落としている事を考えれば、一時に莫大な資金を手にすることができた彼女たちはとても運がいい。

 そうであるからには、常に危険と隣り合わせの冒険者などさっさと引退して、本来の目標に向けて動き出すのは当然のことだ。……という事らしい。



「……でもあたしは、まだ何も決めてなかったのよ。こんなのは、もっとずっと先のことだと思ってた」


 だから、これから何をすればいいか分からないの、と言って彼女はため息を落とす。

 分からなければいっそ、ぼーっとして過ごすのもアリじゃないかな、と僕なんかは思うんだけど、きっとパトリシアは真面目なんだな。まだこんなに若いのに一生懸命に生きてきたから、いきなり目の前の目標を失って戸惑ってるんだろう。


「ねぇ。シモンには、何かしたいことってあるの?」


「そうだな。僕はこの世界の人間じゃないから、この世界のことをほとんど何も知らない。だからあちこち旅をして、そういう知らないことを見聞きできるといいかな」


「……あたしはこの世界の人間だけど、ライタスとメリオラの近くのことしか知らないわ。そうね、うん。それもいいかも」


 パトリシアが感心したようにうんうんと頷いている。

 何か勘違いしてるんじゃないだろうか? 僕が言ったのは、要するに観光旅行したいってことなんだけど。

 異世界観光旅行、パトリシアみたいな美少女と一緒に行けたらいいだろうなぁ。よし、ダメ元で言ってみるか。たぶん断られるだろうから、その時は冗談だったってことで。


「それじゃあ、一緒に行く?」


「いいの? じゃあ一緒に」


「えっ?」


「…………あ!」


 あれっ!? 即答で快諾? ……あれっ!?

 そっぽを向いたパトリシアの顔がみるみる赤くなっていって、いやたぶん僕の顔も赤いだろう。あと手に変な汗が。


 何を言うべきか分からなくて黙っていると、余計に気まずくなっていく。

 とりあえず何か言わなきゃ。やったー、じゃないよな。ありがとう? なんか違う。えーっと、えぇーっと、


「「あのっ」」


 かぶった!?


「……よ、よろしくね、シモン」


「こっちこそよろしく、パトリシア」


 そして僕たちはちょっとぎこちなく握手を交わして、微笑みあった。

 もちろん事前に手汗は拭いた。それはもう、念入りに。





 それからパトリシアと二人で長い話をした。

 ほとんどは彼女が喋って、話題もここに行ってみたいだとか、この地域ではこんなものが有名だとか、彼女自身も詳しくは知らない事柄だ。

 僕もよく知らないから、基本相槌を打つだけ。だけどすごく楽しかった。


 ……その時が来るまでは。


 突然、ドンドンドンと激しく扉を叩く音がして、僕は思わず立ち上がった。

 これはただ事じゃない、強盗か何かか? しまった、さっきパトリシアを部屋に招き入れて、そのあと鍵をかけていない!


 慌てて扉口に走るけど、それはもう遅かった。

 僕が辿り着く前にドアノブがカチャッと音を立てて回り、扉が引き開けられる。そこから勢いよく部屋に飛び込んできたものは……


「シモンさま、今すぐ逃げましょう! 私と一緒にっ!」


 長くて綺麗な青い髪の少女、アナベルだった。……えっ?

 アナベルはベッドサイドに立つパトリシアに気付き、パトリシアはいきなり現れたアナベルを鋭い眼差しで睨みつけている。


「あんた、誰よ?」

「何者ですか、あなた?」


 ……え? ちょっとどういうこと、これ?

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