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2-1 避けてるわけじゃないんだけど

 ダンジョンから生還した翌日、僕たちは「地下城」から乗合馬車で独立都市メリオラに帰り、そこでウォーレンたちと別れた。

 別れ際に、また一緒に仕事をしないかと誘われたけど、とりあえずパス。僕自身の強化が先だ。


 30匹以上のギガントピルバグに加えて巨大なアダマンタイトゴーレムを倒したってのに、僕のステータスは全く変化なしだった。考えてみるとレベルや経験値の項目がないから、単純に敵を倒せば強くなれるというものでもないらしい。

 射撃の腕はかなり上がってると思うんだけど、それでもステータスの器用さが「E」のままってことは、これもたぶん射撃じゃなくて〈ゴーレム運用〉の習熟度が上がったってことなんだろう。





 初日に泊まった安宿「金鴨亭」にまた部屋をとり、そこに篭もって武装の強化計画を実行する。

 3畳くらいの広さに小さなベッドが一つあるだけという質素な部屋だけど、この狭さが妙に落ち着くんだよな。


 まずは武器。アダマンタイトというファンタジー系最強クラスの素材が手に入ったので、コルトM1911とレミントンM870をこれで作り直す。

 弾丸ゴーレムの方ももちろん、アダマンタイトで作り直しだ。ついでにM1911の弾丸を、球形じゃなくてライフル弾のような紡錘形に変更する。

 M870用の口径20ミリ弾については、これまでの〈フレイム〉だけじゃなく〈エクスプロージョン〉と〈フロスト〉、〈サンダーボルト〉の魔法を付与したものも作っておいた。

 さらに直進性向上のため、今まではただの筒だったバレルにライフリングを切って、とりあえず完成。もちろんブローバック機能とポンプアクションは健在だ。実用的な意味は一切ないけど。


 次に、フルオートの銃に挑戦する。機構そのものはM1911と同じでいいから問題ないんだけど、ピストンの作動速度を上げるのが難しい。一秒あたり5発くらいが限界だ。しかも発射速度を上げるほど威力は弱くなる。

 それじゃいっそのこと、ピストンを廃止すればどうだろう。そう思いついてエアコンプレッサーを作ってみたら上手く作動したので、これで常時圧縮空気を貯め込んでおけばいけそうだ。


 ガワはMAC11イングラムにしたかったんだけど、本体がコンパクトすぎて圧縮空気を貯めておくスペースが取れなかったので、H&K MP5Kもどきにした。弾丸ゴーレムはM1911と共用なので、口径は10ミリだ。

 もちろんコッキングレバーは動く。そしてもちろんそこに意味なんかない。



 攻撃力の方はとりあえずこのくらいにしておいて、今度は問題の防御力に取りかかる。

 手っ取り早いのはアダマンタイトで鎧型ゴーレムを作ることなんだけど、実際やってみるとこれが異常に重くて動けない。それに、たとえ重量の問題を解決できたとしても、普段から全身鎧なんか着けて生活できないし。


 比較的軽くて防御力が期待でき、しかも目立たず邪魔にならない防具って言うと、チェーンメイルとかスケイルメイルとかかな。

 ……と、そこまで考えてふと思いついた。

 小さいブロック状のゴーレムをたくさん作って〈ストレージ〉にしまっておき、必要な時だけそれを鎧の形に組み上げればいいんじゃないだろうか。


 とりあえず何個か作ってみよう。ジグソーパズルのピースのような結合手を備えた形をイメージして、大きさは5ミリ程度で。……よしできた。続いてもう一個、そしてもう一個、さらにもう一個……

 ……何日かかるのかな、これ。





 3日後。


 同時に複数のゴーレムを作れることに気付いてからは、ちょっとペースがマシになった。ただ、連続して長時間〈ゴーレム作成〉を使っていると、軽い頭痛と倦怠感に襲われる。

 アダマンタイトゴーレムを倒した後の感覚に似ているので、これはたぶん魔力が残り少なくなった時に出る症状なんだろう。


 床に座り込んでちまちまとミニゴーレムを作りつつ、もう昼ごろかな、何食べようかな、なんて考えていると、ちょっと遠慮気味なノックの音がした。

 宿の女将さんかなと思って立ち上がり、ドアを開けると、そこにいたのは少しばかり挙動不審なパトリシアだった。


「……あ。えっと、久しぶり。……入っていい?」


 今日はダンジョン内で見慣れた革鎧にローブ姿じゃなく、華やかな感じの女の子らしい服装だ。特徴的な鮮やかな赤い髪もきれいに編み込まれていたりして、ずいぶんと印象が違う。

 その可愛らしさにドキドキしながら、どうぞ、と招き入れるも、そこでこの狭い部屋には椅子がないことに気付く。床も製造中のゴーレムたちとその素材で散らかり放題だ。どうしよう?


「ひょっとしてシモン、仕事中だった? いいわよ、気にしないで続けて」


「そう? じゃあもうちょっとだけ。えーと、……適当に座って」


「うん」


 僕が定位置の床に座り込むと、パトリシアはその隣にしゃがみこんできた。うわ、近いよ、すごく近い。

 ダンジョンの中では装備や汗の匂いの中に混じっていた程度の甘い香りが、今日はダイレクトに伝わってきて落ち着かない。

 そう言えば僕、ここ3日間入浴も〈浄化〉もしてないぞ。ひょっとして臭いんじゃないだろうか。そう思うと急に恥ずかしくなって、座ったままずりずりと体をずらして距離をとる。

 そしたらなぜかパトリシアも、しゃがんだままちょこちょこと小さく歩いてまたくっついてきた。


 ずりずり、ちょこちょこ。ずりずり、ちょこちょこ。

 何度か繰り返して狭い部屋を半周ほどしたとき、ついにパトリシアが勢いよく立ち上がった。


「もう、なんで避けるのよ!」


「いや、避けてるわけじゃないんだけど……」


 そこで正直にここ3日体を洗ってないってことを明かすと、また隣にしゃがんできて、鼻をすんすんと鳴らす。いやー。恥ずかしいからやめて。


「別にこのくらい、どうってことないわよ。……それに、嫌な匂いってわけでもないし」


「えっ?」


「なっ、何でもないわ。そんなに気になるなら、……浄化。はい、これでいいでしょ?」


 その魔法一発で、髪や肌のベタつきもなくなってスッキリした感じがする。

 やっぱり便利だな。今度〈浄化〉の魔道具も買ってきて、専用のゴーレムも作っておこう。

 そんなことを考えつつパトリシアに礼を言い、ようやく作業を再開する。



「その小さいの一つ一つが、ゴーレムなの?」


「そうだよ」


「何をするためのゴーレム?」


 おっ。よくぞ聞いてくれました。

 根気よくちまちま作り続けたミニゴーレムもとうとう5万体を越え、全身鎧を構成するに十分な量がある。

 せっかく訪ねて来てくれたんだから、ひとつここでお披露目といこうか。


 僕はすっくと立ち上がり、パトリシアに危ないかも知れないから少し離れるようにと告げる。

 彼女が部屋の隅に移動するのを待って、〈ストレージ〉に貯め込んだミニゴーレムたちに魔力を流し、命令した。……殖装ッ!


 すると左手から黒鉄色の小さなゴーレムたちが湧き出て、一瞬で僕の全身を包む鎧となる。

 安全のために少し大きめのサイズで形を作ってから、きゅっと引き絞って体にフィットするようにって、痛い痛い! お尻の肉はさんでるっ!



 突然現れた全身鎧に身を包み、お尻を押さえながらぴょんぴょん飛び跳ねる僕の姿を、部屋の隅からパトリシアがジト目で見つめていた。

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