表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/79

1-1 なんと今日からは勇者さまっ!

 高一の夏休み前のある日、僕は異世界に召喚された。



 帰宅中、普通に道を歩いていると、突然足元に魔法陣が浮かび上がって白い光に包まれた。そしてその次の瞬間には、ゲームでよく見るような神殿の中に立っていた。

 そこには僕の他に5人の、いかにも神官です、って格好をした人たちが立っている。

 その真ん中の、一人だけ頭一つ以上背の低い少女が、軽く閉じていた瞼を開いてふわりと微笑んだ。


「おめでとうございますっ、異世界しょーーーかーーーーーんっ! 昨日まではごくふつーの、全然目立たない存在だったあなたが、なんと今日からは勇者さまっ! しかも今ならなんとキャ……いはいれふやめへふらはい」


 気がつくと僕は、その少女の両頬を掴んでむにゅうっと引っ張っていた。

 いや、だってほら、あんなテンションで言われるとイラッとするじゃん?


「いきなり何をするんですか!? こう見えても私、この神殿では最高位の巫女なんですよっ!」


「あー、ごめんごめん。ちょっとムカついたから」


「ど直球っ!?」


 僕の手から逃れた少女は、赤くなった頬を両手で押さえながらプンスカ怒っている。

 落ち着いてよく見ると、腰まである長い髪は綺麗な青色だ。……え? 本当に異世界なの?


「もうっ、召喚された勇者さまは涙を流して感謝してくれるって、前任者が言ってましたのに。話が違いますっ!」


「事情はよくわからないけど、たぶん騙されてるよ、それ」


 いきなり異世界に連れて来られて喜ぶような人間は、かなりレアだろ。

 そんなことより、そろそろ誰かちゃんと状況説明してくれないかな?





 そのあと神官さんの案内で、巨大な魔法陣の描かれた窓のない大広間から、落ち着いた応接室のようなところに移動した。

 大きなテーブルを挟んで僕と青髪の少女が席につき、4人の神官は少女の左右に別れて立ったままだ。


「……こほんっ。先ほどは失礼致しました。私の名はアナベルと申します。初めての勇者召喚だったので、すっごく緊張しちゃいました。何しろ、この日のために10歳の頃から神殿に仕えて……」


「その話は明後日以降に聞くから、まずは僕の置かれてる状況を教えてくれないかな?」


「あれっ? おかしいですね。異世界の方には勇者召喚だと申し上げれば、それだけで事情を察して頂けると前任者が……」


「いや、騙されてるから。それ」


 もう勘弁してくれ前任者。



 なるほどそういう事ならと、ようやくまともな説明が始まった。

 基本的には15歳くらいの青髪の少女アナベルが喋り、時々他の神官がそれを補足する。


 その大雑把な内容は、こんな感じだ。


 ここは独立都市メリオラの中枢となる神殿で、毎年一度、勇者の召喚が行われている。

 勇者召喚の儀式はこの独立都市メリオラの周辺にある6ヵ国の持ち回りで、今年はフォルティア王国という国の番なのだそうだ。


 勇者は、魔王を倒すために召喚される。魔王と言うのは、文字通り魔族の王と言うわけではなくて、一種一体の強力な魔獣のことだ。こちらも、周辺6ヵ国の範囲内でほぼ年に一体のペースで発生する。

 魔王を倒すまでの間の衣食住および武器装備その他一切の費用は、僕を召喚したフォルティア王国が負担する。そして無事に魔王を倒すことができれば、元の世界に戻ることができる。

 しかもその時には、この世界で何年間を過ごしていようと関係なく、異世界転移した直後の時間に戻ることができるらしい。さらにもし望むなら、帰還時にこの世界での記憶も全部消してくれる。

 これは要するに、異世界転移そのものをなかったことにできるということだ。


「さらには、勇者さまがこの世界でお亡くなりになった場合にも、そのまますぐに元の世界へお戻りいただける事になっています」


「という事は、魔王を倒しても倒せなくても、いずれ必ず元の世界に戻れるってことか」


「はい、そうなりますね。……あ。ですが、早く元の世界に戻りたいからと言って、ご自分で命を絶たれた場合にはその限りではないそうです」


 自殺はルール違反、ってことか。ま、そんな事する気はないけどね。


 アナベルの言葉を信じれば、魔王討伐に成功すればもちろん、失敗して死んでも、あるいはそもそも戦わずに寿命で死んでも、元の世界に戻ることは保証されている。

 その過程でもし辛い出来事があればその記憶も消して貰えるようだし、ここまで配慮してもらってるなら勇者としての異世界生活も悪くないかも。


 ふとアナベルの前任者の事で不安がよぎったので、一応他の神官さんにも確認してみる。

 どうやらこの件では騙されてなかったようだ。安心した。





「それでは勇者さま、お名前をお聞かせください」


 アナベルが居住まいを正し、あらたまった感じで尋ねてきた。

 そう言えばまだ名乗ってなかったっけ。


帯刀(たてわき)志門(しもん)。えーと、帯刀の方が苗字で……」


「はい。存じております、勇者シモンさま。では次に、ステータスの確認をさせて頂きます」


 ステータス! 異世界召喚って時点でちょっと期待してたけど、やっぱりあるんだ!

 アナベルはA4サイズほどの白い石版を僕に差し出して、その一番下にある窪みに指を押し付けるようにと言ってきた。

 不安半分期待半分でそこに右手人差し指をぎゅっと押し付けると、その数秒後、白い石版に文字が浮かび上がった。



シモン タテワキ 男 16歳

種族:人間

称号:勇者

天職:造魔士

筋力:E

体力:E

敏捷:E

器用:E

魔力:S

魔防:E

適性:ゴーレム作成・運用



 その内容を見た途端、アナベルがこてっと首を傾げた。周囲の神官さんたちの表情もなんだか微妙だ。

 よく分からないけど、魔力の「S」ってのはかなり良いんじゃないの?

 そんなことを思っていると、アナベルがすごく気まずそうな顔で説明を始めた。


 まず、称号は勇者。これは問題ない。魔王を倒せるのは、勇者の称号を持つものだけだ。それと、勇者の称号に付帯する能力として〈ストレージ〉と〈簡易鑑定〉がある。

 次に天職。これは、自分の才能を最大限に活かせる職業なんだそうだ。普通の勇者であれば、ここには戦士とか武闘士、あるいは魔術士といった戦闘系の職業が表示される。複数の職業が天職となっている場合もあるそうだ。

 ところが僕の天職は「造魔士」。これは魔法生物を造り出す職業で、紛れもない非戦闘職だ。


 そして問題の各種ステータス。「E」というのは暴力に無縁な一般人レベルなのだと、申し訳なさそうに言われる。職業軍人なら全て「B」か「C」で埋まっているのが普通で、勇者だと「S」と「A」しかなくて当然らしい。

 最後に適性。ここには、剣や槍、斧、体術、火魔法や水魔法、空間魔法に治癒魔法といった、その人が適性を持つ武器や魔法がずらずらっと並んで…… いるはず。普通なら。だけど僕は「ゴーレム作成・運用」一択。


 つまり、魔力だけ飛び抜けて多い一般人。それが僕。

 逆に言えば、勇者らしいところは称号と魔力だけ。


 ちなみに天職と適性は生まれつきのものなので、今後増える可能性はほぼゼロ。

 それ以外の各種ステータスは訓練や実戦を積めば上昇するけど、適性がほぼ空っぽの僕の場合、その上昇幅はそんなに期待できないらしい。

 なにせ武器にせよ魔法にせよ、いくら頑張って訓練しても、ほとんど上達しないってことだから。



 ……って、ちょっとこれどーすんの?

 こんなんで魔王倒せとか、無茶振りにも程があるよね!?

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ