第40話 脅威、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテスト!
光線が着弾したところに大爆発が起きる。
退場しかけていた観客たちから悲鳴が起こり、全員があわてて出口に殺到する。
「ヘルベルト、何をしておるのじゃ、止めんか!」
ヒュレーネさんがヘルベルトを叱りつけるが、ヘルベルトも驚いた顔で固まっている。
「お祖父さま、早くエレメンタルたちを開放して! 苦しがって暴走しています!!」
ミーネが叫ぶと、我にかえったヘルベルトが手にした杖を振りかざす。
「静まれ、静まらんか! ええい、なぜ言うことを聞かん!?」
困惑して叫ぶヘルベルト。どうやらヘルベルトにもコントロールできていないらしい。コレってヤバくないか?
そのとき、ヘルベルトが観客席の方を見ると、そちらに向かって呼びかけた。
「メイガス、話が違うではないか! これさえあれば、わしの思うがままに操れるのではなかったのか!?」
呼びかけた先を見てみると、ほかの観客が我先に逃げようとしているのに、ひとり落ち着いて席に座ってワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを眺めている男がいる。
見たところ眉目秀麗な金髪碧眼のエルフなのだが、目つきが異様に鋭い。服装も、ごく一般的な村人と変わらないのだが、身にまとっている雰囲気が只者じゃない。
そのメイガスと呼ばれた男は、口の端を上げて冷笑気味に笑うとヘルベルトに答えた。
「そんなうまい話を信じるお前がおめでたいのだ。その『精霊融合の杖』はエレメンタラーの宝珠を媒介にして強引にエレメンタルを合体させる機能しか無い。コントロールも分離も不可能だ」
「な、何だと!? それでは……」
「勝手に暴れ回って、この周囲をメチャクチャに破壊するだけだろうな。愚かなお前が悪いのだよ、ハッハッハッハ!」
愕然とするヘルベルトを嘲笑うメイガス。
「何でそんな酷い事をするんですか!?」
叫んだミーネを一瞥したメイガスは冷然と答える。
「目的か? この大陸を混乱させることだ、と言っておこう」
それを聞いたアイナが俺にささやく。
「ねえ、あいつってもしかして……」
「ああ、間違いなくコレだろうな」
俺がインベントリからTAIのメンバーズカードを取り出して、アイナやみんなに見せると、全員がうなずく。
「スーラ、合体だ! あいつを止めるぞ!!」
俺の指示に従って、スーラたちが合体を始め、たちまちレインボゥが誕生する。
だが、それを見たメイガスは落ち着き払った態度を崩さずに言った。
「確かにそのスライムは強力だ。だが、このワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストはそれ以上に強力な存在なのだよ。物理打撃無効は変わらず、全属性攻撃を無効化するのではなく吸収するのだからな」
その言葉を聞いて、俺には思い当たることがあった。
「お前、前にレインボゥを見たことがあるのか? もしかして東ゲペック山でワイバーンやレッサー・ドラゴンを作り出していたのは……」
「左様、この私だ」
「やっぱりか! お前、『侵略者』だな!!」
侵略目的の異世界人については侵略者と呼ぶように帝国政府からの指示があったんだ。敵が異世界人というのは最高機密扱いだからな。
「いつ聞いても横にカニ歩きしながら襲ってきそうなネーミングなのだが……」
クミコが例によってワケのわからないことを言っているが、とりあえず無視だ。
「侵略者か……お前たちから見ればそうなるのだろうな。まあいい、私の目的は達成した。これで失礼するとしよう。ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストとたっぷり遊んでくれたまえ」
「あっ、待て! 『マジックアロー』!!」
「逃がさないわよ! 火の精霊よ、お願い、『ファイヤーアロー』!!」
言い捨てて逃げようとするメイガスに俺とアイナが攻撃魔法を放ったのだが……
「テレポート」
俺たちの魔法が着弾するよりも、メイガスの魔法が発動する方が先だった。メイガスが消えたあとの空間を俺たちの魔法が空しく貫く。
「クソっ、逃げられた!」
「あれは仕方がないよ。それよりも今はあのワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを何とかしないと」
悔しがるより暴れるワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストを止めるのが先だとイリスにさとされて俺も冷静さを取り戻す。
「レインボゥ、とにかくワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストの攻撃を防げ!」
何しろ、相手には何の攻撃も通じない。しかも、さっきブラックホールキャノンをぶっ放したせいでレインボゥのMPはすっからかんだ。ロクにブレスも撃てないだろう。
ただ、その一方で、相手の攻撃もレインボゥには通じない。だったら、まずはレインボゥを盾にして周囲への攻撃を防ぐべきだ。
ふにょん!
俺の命令を受けたレインボゥが大きくうごめくと、ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに向かって動き出す。
それに対して、敵意を向けられたことに気付いたワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストがひときわ強く輝くと、七色の太い光線を放ってきた。あれは多分、コンプリートビッグキャノンと同じような七属性全部が乗った攻撃だろう。
ピロッ。
だが、七属性すべての攻撃が無効であるレインボゥには効かない。このまま千日手には持ち込めるはずだ。
「なあ、あれを止める方法は無いのか?」
「残念だけど、倒す以外には無さそうね。ダンジョンで戦ったのと同じような分霊だから、倒してもかまわないわ。それに、あの子たちは無理矢理合体させられて苦しんでいるの。早く倒して楽にしてあげる方が、むしろ慈悲だと思う」
アイナに尋ねてみたが、やっぱり倒すしかないらしい。
しかし、倒す方法が見つからない。物理打撃が無効で七属性すべてを防ぐどころか吸収してHPを回復するような相手に通じる攻撃として考えられるものは……
「そうですわ、前にレインボゥちゃんには毒が効いたではありませんか! レインボゥちゃんをポイズンビッグスライムにして毒攻撃させれば効くのではなくて!?」
「なるほど、その手があったか!」
キャシーが言ったことに、思わず手を打つ。そうだ、レインボゥに効く攻撃なら、あいつにも効くはずだ。毒攻撃ならMPを使わないしな。
「だけど、あいつは浮いているよ」
イリスが冷静に指摘してくるが、それに対しては考えがある。
「レインボゥ、スクランブル合体、ノワール、マリン、ウインド、ソレイユが主体になれ!」
俺の指示に従って、レインボウがスクランブル合体すると、予想通り黒に毒々しい青や緑や紫が入り交じった色のクラゲビッグスライムが誕生した。
「クラゲビッグスライムにしては色が変だけど……まさか!?」
「そうさ、『ポイズンクラゲビッグスライム』だ。できるんじゃないかと思ってたけどできたな。さあ、レインボゥ、あいつに毒をくらわせてやれ!」
ふよふよふよ……
浮き上がったレインボゥは、ゆっくりとワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに近づいていく。
ワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストの光線はレインボゥには効果が無い。一発くらっても無傷で接敵する。
ピロッ。
レインボゥの攻撃は当たってもダメージは与えられず、毒の効果も発生しなかった。
「駄目か!」
「エレメンタルは物理的な実体がないエネルギーの塊みたいなものだからね。どうやら毒も効かないらしい」
イリスの言うとおりなんだろう。だが、これだと本当にダメージを与えられない。とりあえずレインボゥで抑えてはおけるが、どうすればいいんだ?
と、そんなときに自信満々な声が聞こえてきた。
「いよいよオレたちの出番だなっ! 総員『マジックアロー』準備……斉射ぁ!!」
「ゴブっ!」
『ゴブゴブゴブゴブゴブー!!』
マサトの命令一下、ゴブリン・エンペラーを先頭にして三列横隊に並んだゴブリンたちがマジックアローの魔法を一斉に発射した。
ビシビシビシビシビシビシビシビシビシィ!
連続して発生するダメージエフェクト。そしてガクンと減るHPバー。
マサトのゴブリン軍団が放った魔法がワールド・エレメンタル・ザ・グレーテストに大ダメージを与えたんだ!




