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第24話 激闘、レッサー・ドラゴン!!

 バシィ!


 レッサー・ドラゴンに毒の追加ダメージが入った。よし、HPの一割を削ったぞ。毒状態ってのは、こうやって一定時間ごとにHPの総量に対して一定割合でダメージが入る。その状態で持久すれば、毒だけでモンスターを倒すことも可能だ。


 竜種は状態異常耐性も高いから、普通なら毒状態にすることは難しいんだが、レインボゥが変化したのは並外れて巨大なポイズンスライムだから、竜種すら毒状態にできるんだろう。


 もしかしてレインボゥ自身もワイバーンに毒状態にされたことで、毒が強いと学習したんだろうか?


 モンスターの知能については偉い学者も色々と研究してるみたいだが、よくわかってないらしい。召喚士(サモナー)なら、ある程度意志の疎通ができるから知能があること自体はわかってるんだけどね。


「毒が入った! このまま持久すれば勝機がある。俺たちは何としても、あいつが毒で倒れるまで守り抜くぞ!!」


「「「「「「「了解!」」」」」」」


 とにかく、かなり勝機が出てきたんだ。先が見えるなら持久戦もやりようがある。


 だが、そう思った俺を嘲笑うかのように、レッサー・ドラゴンは攻撃方法を変えてきた。


 さっき、レインボゥは俺たちとレッサー・ドラゴンの間に立ちふさがるように移動をしている。そのままだったらレッサー・ドラゴンが先ほどのようにブレスを放っても、全属性攻撃無効のレインボゥが盾になって俺たちを守ることができる。


 ところが、レッサー・ドラゴンは軽く翼を羽ばたかせると、レインボゥとアースウォールを飛び越えてそのままウェルチを狙って強襲してきたんだ!!


「カバー!」


 ガィン!!


「くぅっ」


 あのカチュアが思わず苦悶の声を上げていた。レッサー・ドラゴンが振るった前足の鋭い鉤爪が、カチュアのラージシールドに大きな傷跡を付けている。いや、傷跡どころじゃあない。腕から血がしたたっている。盾の一部を貫通したどころかシールドを保持していた手の篭手まで貫いて、手先を傷つけているんだ!


「ハイヒールですぅ!」


 即座にウェルチがハイヒールをかけて傷を癒やす。非常に不思議なことなのだが、ヒール系に限らず回復魔法というのは、なぜか武器や防具の損傷も回復するのだ。だから「治癒魔法」じゃなくて「()()魔法」って言うんだろうけど。


 よし、まだ何とかハイヒールで回復可能な状態だな。これが、もっと酷い重傷で魔法での回復も追いつかない状態だと、戦闘不能になる。前にハンゾーさんが火竜戦で足に傷を負って撤退してたように、身体の損傷が回復できない状態だったら戦闘なんか継続不能だからな。


 それにしても、このレッサー・ドラゴンは狡猾だ。レインボゥを無視して、俺たちを直接狙ってきている。それも、俺たちの守りの要であるウェルチを最優先で狙っているようだ。回復役が倒れたら回復ができずに全滅コース一直線だからな。こいつ、本当に知能が獣並みに低いんだろうか?


「プロテクトアップ! 気休めにしかならぬかもしれぬが……」


 クミコが俺たち全員に防御力を上げる魔法をかける。レッサー・ドラゴンの攻撃力の前では、多少防御力を上げたところで焼け石に水かもしれないが、何も無いよりはマシだ。


 さて、どうする? 大して効かないことを覚悟の上で、俺たちも全員で攻撃をしかけるか? このままレッサー・ドラゴンに攻勢をかけ続けられたら、守り切れずに犠牲者が出るかもしれない。それなら、無謀でも倒せるチャンスを狙って攻撃に出た方がいいのかもしれない。


 だが、それでカウンター攻撃をくらったら、一撃で誰かが即死する可能性もある。召喚主が死んだら召喚獣の召喚は解除されるから、死んだ者のスライムが消えてしまうだろう。そうしたらレインボゥが分離して元の各スライムにもどってしまう可能性が高い。その時点で詰みだ。


 守るのか、攻めるのか? ここで決断を下すのはリーダーである俺の仕事だ。どうする? どうする!?


 そんな俺の苦悩がわかったのか、レインボゥが何かを伝えてきた。またスクランブル合体したいらしい。よし、この状況を何か打開できるんなら、何をやってもいいぞ!


「レインボゥ、スクランブル合体だ!」


 俺の命令を受けて、レインボゥは大きくふにょんとうごめくと、また強烈な光を放って分離すると、今度はソレイユ一匹を中心にしてスクランブル合体をはじめた。姿は普段とかわらないが、色だけは鮮烈な金色になって、きらきらと陽光を反射している。


「これはゴールドビッグスライムですわ!」


 キャシーが叫ぶ。確かにゴールドビッグスライムみたいだ。物理防御無効のほかに移動力の速さと魔法に対する防御力の高さで知られ、倒すと非常に高い経験値が得られることで有名なんだが、召喚モンスターによるブレス攻撃などの非魔法の属性攻撃をチマチマと重ねるか致死毒による一撃必殺を狙わないと倒すこと自体が至難の(わざ)という、野生のスライム種の中では一番強いとされているモンスターだ。もっとも、非常に臆病ですぐ逃げる上に、攻撃力自体はそんなに高くないんだが。


 これで、一体何をするんだろう?


 一瞬疑問に思ったものの、次の瞬間にはレッサー・ドラゴンが再びウェルチを狙って攻撃をしかけてきた。今度は鋭い牙の生えた口を大きく開けて、頭から喰らおうと襲ってくる!


「カバー!」


 カチュアが再び防御スキルを発動してウェルチとレッサー・ドラゴンの間に割って入り、ラージシールドを掲げる。


 だが、その盾にレッサー・ドラゴンの牙が噛みつくことはなかった。


 カンッ!!


 レッサー・ドラゴンの攻撃をはじき返したことを示す戦闘効果音が左耳に入ってくる。密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)に表示されるダメージはゼロ。


 ゴールドビッグスライムと化したレインボゥが、その素早い移動力をもってレッサー・ドラゴンとカチュアの間に更に割って入り、カチュアを守ったのだ。


「カバー、できる?」


 カチュアがレインボゥに尋ねている。それを聞いたレインボゥは、誇らしげに大きくふにょんとうごめいた。


 密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)を詳細モードに切り替えて見てみると、確かにスキル欄に「カバー」が存在している。


 そうか、ゴールドビッグスライムの機動力をもってすれば、レッサー・ドラゴンが俺たちに攻撃をしかけようとしても、間に割って入って守ることができるんだ!


 バシィ!


 俺たちは何も攻撃をしていない。だが、毒のダメージでレッサー・ドラゴンのHPは更に減った。これで全HPの三分の一くらいは削ったぞ。


 そこからは地味な持久戦になった。レインボゥは俺たちの守りに徹しているし、俺たちの攻撃はレッサー・ドラゴンには通じない。レッサー・ドラゴンの攻撃は近接攻撃だろうがブレスだろうが、レインボゥが完封している。そんな膠着状態が続く中で、毒のダメージがじわじわとレッサー・ドラゴンのHPを奪っていく。


「あれ?」


 そろそろ次のダメージが入る時間だと思ったのに、レッサー・ドラゴンにダメージエフェクトが表示されない。


 密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)で見てみると、POISON(ポイズン)の文字が消えている。毒状態から自然回復したんだ! さすがは竜種。状態異常からの回復も早いらしい。


「手詰まりだ。またポイズンビッグスライムになってもらって毒をしかけるか?」


「同じ手が二度通用するかな?」


 俺の提案にイリスが疑義を唱える。確かに、このレッサー・ドラゴンは狡猾だ。同じ手は通じないかもしれない。


 と、そのときレッサー・ドラゴンが羽ばたいて飛び立った。ポイズンビッグスライム状態のレインボゥは空を飛べない。これでは毒状態にすることはできないだろう。


「イリスの言った通りだったな」


 そうつぶやいたとき、アイナが叫んだ。


「見て、回復してるわ!」


 慌てて密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)で見ると、レッサー・ドラゴンの体に青色の数値が表示され、HPがわずかにだが回復している。クソ、さすがは下級とはいえドラゴンだ。こいつ「HP回復」のスキルをもってやがる。今までは毒の威力の方が強かったので気付かなかったんだ。このまま放っておいて持久戦を続けたらHPを回復されちまうぞ!


「あと少しなのに!」


 アイナが悔しそうに言う。確かにレッサー・ドラゴンの残りHPは二割を切っている。


 そうだ、あと少しなんだ。


「強力な攻撃が欲しい!」


「何か凄い攻撃スキルはないの?」


「竜種にも通じるような攻撃さえあれば……」


「何かないのですぅ?」


「攻撃力が高い技は何かござろらぬか?」


「レインボゥちゃんなら、あんなトカゲをひねり潰す技のひとつくらいあるでしょう!


「ここで新必殺技に目覚めてこそ王道……」


 そのとき、俺たちの気持ちは間違い無くひとつになっていた……レインボゥに強力な技を期待するという一点において。


 ピカーン!


 そのとき、レインボゥの体が一瞬非常にまぶしく光り輝いた。え、これはスクランブル合体!?


 八匹に分離したスライムたちは、今度は普段通りにスーラを中心に合体を始めて、普通のコンプリートビッグスライムに戻る。


「おい、突然どうした……何っ!?」


 俺は自分の左目を疑った。詳細表示モードのままにしていた密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)に、さっきまでは存在していなかったスキルが新たに表示されていたのだから。


「ま、まさか!?」


「本当に新必殺技に目覚めるとは……」


 驚いたように叫ぶアイナと、半ば呆れたような口調でつぶやくクミコ。


「とにかく、これに賭けてみよう! みんなで一緒にレインボゥを応援するんだ!!」


 スライミースライマーが言っていた。俺たちの思いがレインボゥを強くすると。心をひとつにして応援すれば、より力を発揮すると。だから、新スキルが現れたんだろう。だったら、俺たちが心をひとつにして応援すれば、レインボゥの新スキルは、より強い威力を発揮するはずだ!


「レインボゥ、この新しいスキルを使うんだ、頑張れっ!」


「レインボゥ、頑張って!」


「頑張るんだ、レインボゥ!」


「レインボゥ、頑張るですぅ!」


「レインボゥ、頑張るでござる!」


「頑張れ、レインボゥ」


「ヲーッホッホッホッホ! レインボゥちゃんはできる子。頑張りなさい!」


「レインボゥ、頑張って勝利を我らにもたらすべし」


 俺たちの声援を一身に受けて、レインボゥがひときわ大きくふにょんとうごめく。すると、その体の前方に大きな穴があいた。その穴から七色の光が漏れ出してくる。赤色の、緑色の、青色の、黄色の、純白の、金色の……さまざまな光の粒子がこぼれ出している。ときおりは、まるで色を放たない黒い粒子も漏れ出してきている。そして、その穴の奥では、強烈に七色に輝く光の球が徐々に大きくなっていっている。


 パァパァパァパァパァパァパァパァ……


 何か、甲高い音がレインボゥの体から聞こえてきている。あの光の球が大きくなるにつれて、その音はどんどん大きく、高くなってきている。まるで、あの光の球が持つエネルギーの大きさに比例して音が大きく、高くなってきているかのように。


 密偵の片眼鏡(スカウトモノクル)を見てみると、レインボゥの体の横に、新しいゲージが表示されている。これは「ウェイトゲージ」といって、「力溜め」などのように、何か「溜め」ることで攻撃力をアップするスキルなどを使う場合に表示され、溜めに必要な時間を表示するものだ。このゲージのバーがじわじわと増えていって端まで到達すると、そのスキルが使えるようになるんだ。


 まだ溜めの時間が必要なようだ。


 その隙を狙ってレッサー・ドラゴンは再びウェルチを狙ってブレスで攻撃してくる。だが、しばらくの間レインボゥに守られていた俺たちは、その間にHPもMPも魔法やポーションで完全に回復している。アイナがシルフスクリーンをかけ、カチュアがレッサー・ドラゴンの攻撃を防ぎ、それでカチュアが受けたダメージはウェルチが回復する。ほかのメンバーはポーションなどで自力で回復しながら散開して、レッサー・ドラゴンのブレス攻撃の範囲から外れる。よし、あと一~二回の攻撃なら守り切れるぞ!


 そんな風にして、二回ほどレッサー・ドラゴンのブレス攻撃をしのいだときだった。


 レインボゥが発していた音が頂点に達し、光の球が穴の中で最大級に膨らんで拡大が停止する。ウェイトゲージも端まで振り切った!


 その瞬間、俺たちは全員で口を揃えてレインボゥの新たなスキルの名前を叫んでいた。


「「「「「「「「放て、『コンプリートビッグキャノン』!!」」」」」」」」」


 カッ!!


 次の瞬間、全属性の強力なエネルギーが込められた光の球が、七色のブレスの奔流と化して空飛ぶレッサー・ドラゴン目がけて発射された!


 光のブレスと同じくらいの速度で放たれた七色のブレスは瞬時にレッサー・ドラゴンに命中し、その体を包み込むと大爆発を起こした!


 ドガァァァァァァァァン!!


 一瞬遅れて、もの凄い爆音と強烈な爆風が俺たちを襲った。


 その爆風がおさまったとき、レッサー・ドラゴンは影も形も存在していなかったのだった。

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