第11話 ランキングのトップを取ったら嫉妬されました
「クックック、また一位であるな……」
冒険者ギルドの壁に貼り出されたランキング表を見て、クミコが不気味にほくそ笑んでいる。ビジュアル的に悪の魔術師っぽすぎるぞ、お前。
まあ、愉悦に浸りたい気持ちは非常にわかる。俺だって同じだからな。俺たちがレインボゥを得てから、これで一週間連続で冒険者ギルドの「昨日の貢献ポイントランキング」――俗に「日間ランキング」と呼ばれる――のDランク部門で一位をとり続けているんだから。
これは、大陸中の冒険者ギルドに申請された討伐記録から割り出された貢献ポイントを集計して、前日の貢献ポイント数が高かったパーティーをランクごとに上から十位まで発表するランキングなんだ。
大陸の西端から東端まで離れていても書類の送付だけならできる「ファクシミリ」ってマジックアイテムや、大量の数値を自動で計算してくれる「計算機」ってマジックアイテムが実用化されているからこそ、こんなランキングも作れるんだけどな。
一週間ごとのランキングや、一か月ごと、半年ごと、一年ごとのランキングや、全ランクを合わせた「総合ランキング」ってのもある。こういうランキングで上位に入るってのは、つまり実力のあるパーティーってことで知名度が上がる。そうして知名度が上がるとパーティーを指名して討伐や護衛を依頼する「指名依頼」が入ることもある。
俺も「栄光の旅路」時代に何度か日間ランキング入りしたことはあるし、指名依頼を受けたこともある。ただ、さすがに日間トップは経験したことがなかった。
それがレインボゥのおかげで実力以上のモンスターを討伐できるから、ここ一週間はすっかりランキングトップが定位置になっている。この分だと、明日発表の「週間ランキング」でも一位は確実だろう。
週間ランキングの発表は週明けの「闇曜日」だからな。休息日の「地曜日」と「光曜日」の次で、仕事始めで気分がダークだから闇曜日なんだろうって冗談があるが、この七曜というのは週休二日制度が始まるはるか以前からこの名前なんだから、別にそういう意味じゃないだろう。七属性それぞれを曜日に当てはめたから、闇曜、火曜、水曜、風曜、金曜、地曜、光曜となってるだけだ。
もっとも自由業である冒険者の場合は、いつ休みを取ってもかまわないことになってるから、俺たちみたいに先週の地曜も光曜も休まず今週の地曜まで八日間連続で討伐依頼をこなしてたって問題はない。長距離の護衛依頼とかだと一か月休み無しなんてこともあるしな。
とはいえ、さすがに二週連続で休み無しは少しきついんで、今日は休息日ということになった。こうやって全員でランキングを確認したら、そのあとは解散して夜までに今日泊まる宿に戻ればいいってことにしている。
ちなみに宿の部屋割りは俺が個室で、あとは二人と三人の相部屋だ。男女比が偏りすぎてるパーティーだからしょうがないけど、ひとりだけ個室ってのは少し気が引けるんだよなあ。討伐の賞金も結構手に入ってるから、そろそろ全員個室にしてもいいかなと思い始めている。
何しろ「試練の迷宮」でもスライミースライマーとわかれたあとに大きめの魔結晶を回収できたし、それ以降も何度かダンジョンを踏破してボスを倒し、魔結晶をいくつか手に入れているんだ。ランクD冒険者としては、懐は潤沢と言っていいだろう。
え、男女相部屋? そういう関係になった相手はまだいないさ。「まだ」だからね、ここ重要だから二回繰り返したよ。
……そりゃ、スライミースライマーには「仲良くしろ」とか言われたけど、あれはあくまでパーティー内での「仲間意識」「友情」を育めってことだからな。
それに、今の俺にとっても、みんなにとっても、一番重要な思いは「復讐」だ。俺たちを追放した連中を見返す。それが最優先事項で、それを果たすまでは恋愛なんてのは二の次だ。
まあ、ウチのパーティーメンバーは個人的には仲良くなりたい美少女揃いではあるので、リベンジを果たしたあとのために今の内からチャンスを狙って誰かと「より親しくなる」のは悪くないかもしれない。
……休息日ってのは、その「チャンス」ではあるんだよなあ。よし、まず誰か暇だったら一緒に町でも見て回らないかとか誘ってみようか。
「それじゃあ、これで解散しようか。ところで今日俺は暇なんだけど、誰か一緒に……」
「おい、『スライムサモナーズ』ってのはお前らか?」
……邪魔されたよ、畜生。とはいえ、冒険者仲間での付き合いも大事ではあるからな。あまり無視したりするのは良くないだろう。特に今は日間ランキングトップだから、ここで無視したりすると「お高くとまってやがる」とか思われるしな。どこの世界も嫉妬ってのは有るモンだ。
「はい、そうですが?」
誰かわからないので、振り返って一応丁寧語で答えたところ、どうやら男ばかり五人組のパーティーのリーダーが俺に声をかけてきたらしい。年齢は俺たちと大差無さそうだ。見たところ、戦士系が二人と、僧侶系、魔法使い系、スカウト系のメンバーで組んでいるパーティーらしい。戦力バランスは良さそうだ……が、それだけじゃないな。一緒にモンスターを連れている。このうちの誰かが俺たちと同じ召喚士か、あるいは魔獣調教師なんだろう。
にしても「ケルベロス」とは、また派手なモンスターを連れてるモンだ。犬型のモンスターだがサイズは人間よりも大きくて三つの首を持っていたりする。ひとつずつの首から火属性、地属性、闇属性のブレスを吐くことができ、それぞれの属性への耐性も持っている。動きも素早く、爪と牙による接近戦も得意だ。
確かに召喚獣や調教済モンスターを連れて歩く冒険者は珍しくないけど、俺たちのスライムみたいな小さいモンスターはともかく、ここまで大きいモンスターは街中では召喚しないことの方が多いんだが。調教済モンスターであっても、騎獣宿泊施設のある宿屋に置いて出歩くことが普通だ。
そんな風に思いながらケルベロスを見ていると、パーティーリーダーの男が俺の視線の意味を理解したのか、こう言ってきた。
「こいつは普段から召喚してるわけじゃない。ギルドの中だし、お前たちに見せようと思って召喚したんだ」
「俺たちに?」
「そうだ。スライムなんて雑魚なモンスターを召喚して粋がってる連中だって聞いたからな」
カチンと来た。が、表には出さない。明らかに挑発してやがるが、目的は何だ?
「確かにケルベロスを連れているというのは凄いですね。ですが、それを俺たちに見せたいという理由は?」
俺が冷静に対応していることに少し意外そうな顔をしたパーティーリーダーの男だったが、すぐに本題に入った。
「お前ら、そのスライムのおかげで最近ランキングトップに入ってるみたいじゃないか。オレも同じ召喚士として、その実力をぜひ拝見したくてね。『モンスターファイト』を申し込みたいと思って来たんだ」
「モンスターファイト」ってのは闘技場で召喚獣や調教済モンスターを戦わせる競技で、賭の対象にもなっている。
「なるほど。ですが『スライムなんて雑魚なモンスター』を相手にする必要があるんですか?」
相手のさっきのセリフを奪って言い返すと、一瞬言葉に詰まったパーティーリーダーだったが、すぐに日間ランキング表を指さしながら言い返してきた。
「だからだ。スライムなんて雑魚モンスターのおかげで日間ランキングトップなんて、何か狡いことをしてるに決まってる! もし、そうでないと言うなら、オレのヘルハウンド『シュバルツケーニッヒ』と戦え!!」
ふうん、そういうことか。俺たちのレインボゥは確かに狡いほど反則って神様認定されるようなモンスターだけど、別にインチキしてるわけじゃないからな。いいさ、やってやろうじゃないか!
「みんな、いいよな?」
「やってやろうじゃないの!」
「見せてあげようか」
「負けないですぅ!」
「勝負でござる!」
「上等」
「ヲーッホッホッホッホ! その度胸だけは認めてあげてもよくってよ」
「クックック、我らに勝負を挑んだことを後悔するがよい……」
全員異存は無いようだ。
「いいだろう。その勝負、受けようじゃないか。俺はパーティー『スライムサモナーズ』のリーダー、リョウだ。あんたは?」
丁寧語はかなぐり捨てて、普段通りの言葉に戻して勝負を受け、相手の名前を尋ねる。
「オレはパーティー『地獄の復讐者』のリーダー、ケネスだ」
思わず、全員でクミコの方を見てしまう俺たち。
「我をこんな奴らと同類項にするな! 何たる屈辱……」
ブルブルと怒りに震えるクミコだったけど、明らかに精神年齢が近似値だと思うぞ。
だが、名前を聞いたことで、こいつらが俺たちに喧嘩を売ってきた理由もわかった。パーティー「地獄の復讐者」は先週までDランクの日間ランキングトップを維持してきたトップパーティーで、今も二位はキープしているんだからな。そろそろCランクに上がるくらいのポイントは貯めてるはずだが、上がる前に目障りな俺たちを潰しに来たんだろう。
結構だ、返り討ちにしてやるぜ!




