十想 奇術師
クリスマスパーティーは昨日のイブよりも人が多かった。
奏樺に聞くと
「イブは恋人と過ごし翌日は家族と過ごす人が多いですね」
と目をそらしながら答えた。
いや、ね?
私だって気分が高揚する時だってあるのよ?
そりゃ人間なのよ?
気づいた時には口から出ちゃったんだから仕方ないじゃない
ほんのちょっと前の自分の失態を思い出してみる・・・痴態?
“こうするとなんか奏樺の涙と私の涙・・・キスしてるみたいじゃない?”
とか
彼の頬にチュッとキスをして急いで立ち上がり彼の目の前に立ってみたり
または
“今・・・奏樺の手、唇に持っていってもいいよ?間接キスになるからっ”
ううむ、我ながら恥ずかしいことをしたものね・・・
しかもよりによって同級生に
「へぇ〜い♪亜衣っ、たのっしんでるぅ?」
もうできちゃってるマリアが話しかけてくる。
「あぁ〜!今失礼にゃこと考えてないぃ〜?」
言葉まで変になってる。
失礼“にゃ”って何?
「考えてないですよ?ホントに」
「そぉ?まぁ、いいわ」
と言って私の隣に来る。
「そうそう、さっきのことは、あまり気にしなくていいわ。
実際、もっとすんごいアプローチかける子もいるんだから」
「は、はぁ」
どんなことをするのだろうか?
「たぶん、同じ学校の子にあんなこと言われたからどうしていいか分からないだけじゃない?
気にすることないわよ」
多分ってなんですか?多分って
「あっ、始まるわよ!奏樺&神矢兄弟のマジックショー」
「神矢兄弟?」
昨日、私が道に迷った時に奏樺のところに案内してくれた執事さんを思い出す。
確か、右京という名前ではなかったか
「右京って兄弟、いるんですか?」
「そうよ?左の頬に傷があるのが右京、傷がないのが左京ね
二人とも一級執事ね」
「へぇ〜。で、あれは何を?」
私の目が正常に機能しているならばよくマジックショーにあるような箱に奏樺が入りその横を
神矢兄弟が剣で今にも箱に穴をあけようとしているんですが?
「何って、手品じゃない」
「いやいや、あんなもので刺されたら死ぬか大怪我ですよ?」
「まぁ、見ときなさいって」
一本目
右京が右側に剣を突き刺した。
二本目
左京が左側に剣を突き刺した。
そうやって交互に剣を突き刺していくうちに左右8本の剣が箱に刺さったことになる。
「ちょっ!大丈夫なんですか?アレ」
確かに箱開けて無傷だったら拍手ものだが血まみれの奏樺がいたら蒼白ものである。
「んー・・・・大丈夫!」
「根拠は!?」
そう言っていくうちに今度は箱を回してまた剣を突き刺し始めた。
だんだんハリネズミのようになっていく箱が可哀そうになってきた。
(もしや、これを機に命を奪っているのでは?)
そう思えるくらいのありさまだった。
そこらのマジックショーでは、ここまではやらないだろう。
計32本の剣が箱に刺さった。
「さぁ、奏樺は生きているでしょうか?私もちょっと自信ないです」
左京がマイクを持って声高に言う。
自信ないって・・・まずくない?
「ですが、最後にトドメを刺したいと思います」
トドメって言っちゃってる!
ん?右京が大きな槍みたいなものを持ってきた。
どんどん箱に近づいて・・・箱の真上に突き刺したぁー!
これは・・・さっ、殺人なのでは?
「さぁ、確かめてみましょう」
そう言って剣をどんどん引き抜いていく。
「では、開けてみたいと思います」
箱が開けられた時・・・いつものダークスーツに身を包んだ奏樺がいた。
「ちっ、また無事でしたよ!皆さん」
“ちっ”て・・・おいおい
「ねっ、言ったでしょ?大丈夫って」
マリアがあっけからんという。
「は、はあ。でも、どうやってるんですかね?あれ」
「さぁ?訊いてみたら?本人に」
まだ、マジックをしている神矢兄弟
どうやら、奏樺が出たのは箱のマジックだけだったようだ。
「あっ、きたわよ」
マリアが指さす先に奏樺がいた。
本人もこっちに気づいたらしく手を振りながら来た。
「どうでした?僕の手品」
笑顔で尋ねてくる奏樺
本当にいたずらが成功した子供のようだ。
「よく出来てたけど、あれってどうやってるの?」
私は先ほどの疑問を尋ねてみる。
そう言うと困ったような顔をしたので私はあわてて
「あっ、門外不出とかだったらいいけど・・・」
「あー……そう言うのではなくてですね・・・
なんて言ったらいいんですかね?
タネがないんですよ。正直に言うと」
タネがない?
どういうことだろう?
「そのままの意味です。箱の中で剣を避けてるんですよね。アレ」
「……はぁ!?」
全く意味が分からない。
というより、信じられない。
避けてる?32本+αのあれを?
「ええ、だから必死でやらないと怪我しちゃったりするので・・・」
いやいや、照れながらいうこっちゃないでしょ!あんた!
「まぁ、タネなし手品ってやつですね」
「タネがない手品は手品とは、いわなぁぁぁい!」
「ナイス突っ込み♪」
これはマリアだ。
こうして、今年のクリスマスが終わった。
とても楽しかった・・・・By亜衣