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ver5.0.0 ~鉄と火薬の箱庭で~  作者: 茶間 たたみ
ながく、うつくしい夢をみていた。
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《稲荷の方》4

 



 バレットM82A2

 個人での運用性と、ヘリや軽装車両にも対抗できる火力の両立に成功により高い評価を得た50口径の半自動対物ライフルM82。その銃の対空仕様である。

 機関部を後方に移動し携帯性と仰角を稼ぐことに成功したが、その評価は先モデルに続くことなく製造は短期間で終わった。


 木崎翔真はそれらの情報を知らない。関心もなければ関係もないとさえ考えている。

 故に、この火力ばかりを有り余らせた奇形の『駄作』も、彼にとっては数ある牙と爪のひとつに過ぎない。


 同時に、使い方も至って勝手である。


 この対物ライフルの上には、本来載っている筈の光学照準器がない。そもそもそういった用途を想定していない為である。



「……。」


 ボスエネミー:タンクマン

 初見と言うわけではない。だが、対プレイヤー戦好まの彼が頻繁に遭遇することもなければ、あまり積極的に喧嘩を売るような相手でもない。


 あえて言えば、やや面倒である。


 ライフルを小脇に抱えると同時に、タンクマンの咆哮が轟いた。

 主砲を使用不能にした今、警戒すべきは巨体を活かした打撃攻撃のみである。


「ぼんやり君!!」


 遠くから聞こえた声に木崎翔真は首だけで振り向いた。


 遠く木の影に、先ほど馬鹿に叫びながら突っ込んできた男が手を振っているのが見える。


「突進に注意して!」


「……。」


 忠告に対して頷きもせず正面に向き直ったぼんやり顔を果たして彼がどうとったか、それは誰の知るところではない。


 木崎翔真は、ただ黙って腰だめに構えたライフルの引き金を絞った。


 衝撃波を伴った轟音

 12.7mm口径、重量50g弱。携帯可能な銃器としては最重量級の質量の乗った一撃が、異形の巨人の硬い表皮に大きなひびを走らせた。


 重厚なボルトがリコイルで後退、再び前進。銃口からは燃焼ガスによる煙を吐きながら、長い薬莢を弾き出す。


 直撃を食らったタンクマンが呻く間もなく、両足を斜め前後肩幅に開いた立射姿勢から2発目、3発目を放つ。


 大型エネミーを真正面から押さえ付ける大火力。

 この運用法が、本来の対物ライフルの姿からかけ離れていることは明確である。

 実際にその重量は凄まじく、委託なしの不安定な体勢では命中はおろか安定した射撃さえ困難な程である。


 それを小口径ライフル同様の扱いで命中させるのは、ゲーム内のシステムが生み出す恩恵のためである。


 SOGO

 シューティングゲームでありながらMMOとしての色の強いこのタイトルでは、ジャンル内では特異な育成システムが採用されている。

 ステータスはアバター作成時にランダムで固定され、個体差が強く出る仕様となっている。特定のアイテムなどによってステータスに若干の修正をかけることができるが、基本的にプレイヤーはその適正に合ったスキルを装備、育成することでアバターを強化する。


 木崎翔真:アバターネーム『稲荷』

 ステータスは軒並み平均以上の超優良個体。特に俊敏性と持久力に長け、そこから算出される機動力は極めて高い。


 《スキル:軽量化 lv9》

 アイテムの重量コストを大幅に減少させる。

 《スキル:反動抑制 lv6》

 射撃時の反動を軽減し、精度を向上させる。


 これらのスキルの重ね技が、大口径のライフルさえ小型の短機関銃と変わらない運用を可能にしている。


 連射により立ち込めた硝煙を片手で払い、木崎翔真は目を細める。

 大口径弾による攻撃は、確かにダメージとして蓄積されている。しかし、これで削り切るには未だ決定力不足のようだ。


 残弾は10発中、6発。


 未だ薄く煙っているライフルを片手に、更にもう片手でメニューをスクロールする。


 取り出したのは、昨日のイベントではダミーとして利用した迫撃砲弾の即席爆弾(IED)

 それを脇に挟むように器用に抱えると、片手で腰から抜き取ったベルトでぐるりと縛る。


 ベルトの持ち手を作った爆弾をまるで肩掛けのバッグのように持つと、今度はきちんとタイマーのスイッチを入れた。


 15秒、きっかりだ。


 旧式の携帯電話を張り付けたような、小さな画面がカウントを切り始めた。


 同時に、木崎翔真がスキル管理画面で最後まで触れていなかったスキルに触れる。


 再びタンクマンが吠える。

 隣にあった太い木を豪腕で殴り倒しながら、巨体が猛烈な勢いで突進攻撃を始めた。


 そして、木崎翔真の目の前にスキル発動のポップアップが浮かぶ。


 《スキル:リロード封印 /ON》

 アバターの全ステータスを大幅に強化する。しかし代償として火器のリロード操作を制限するという、あまりにも大きなリスクを伴うレアスキルだ。


 カウント、残り7秒


 猛烈な勢いで距離を積めるタンクマンへ向けて、彼も真正面から突進を始めた。

 身体は軽く、まるで宙を舞う羽毛の様に。駆ける脚は力強く、大地を抉る。跳ね上がったステータス値に物を言わせた運動能力をフルに行使しながら、その最中にも片腕に抱えた対物ライフルの照準を敵に定める。


 スキルの効果により更に精度の増した攻撃は、装甲車輌並の頑丈さを誇る頭部に次々と突き刺さった。


 その程度で突進の勢いが衰えることはない。

 しかし、それで十分である。


 タンクマンが巨大な拳を引くのが見えた。

 次の瞬間には、あの拳が自分を叩き潰しに襲ってくる。


 だが木崎翔真は足を止めることはない。


 代わりに地面を強く蹴り、飛び上がった。


 眼下で、振り下ろされた巨大なこぶしが地面を抉る。

 土くれと小石の飛び散る中、彼の両眼はしっかりとその動きを捉えていた。

 大口径弾の攻撃により、一瞬でも視界を奪われていたボスエネミーよりもずっと正確にだ。


 タンクマンが攻撃の失敗を悟った頃には、木崎翔真は回避行動を完全に終了。次の段階、攻撃へと移っていた。


 大地を割る拳を踏み台に、巨体をその顔面へと駆け上がる。

 対物ライフルを捨て、鞄のように肩に背負っていた爆弾を振り上げる。


 そしてそのまま、身体を捻るようにして乗せた遠心力と供に爆弾をタンクマンの頭部に叩きつけた。

 砕けかけていた頭部に迫撃砲弾はしっかりとめり込んだ。


 その一瞬だけ、目にあたるそれらしいもののない筈のタンクマンと目が合った気がした。


 仮想現実の生み出したそれに意志は宿らない。

 だが、そこには確かになにかが見えた気がした。


「俺の勝ち」


 そう宣言するに足るなにかだ。


 タンクマンの肩を駆け降り、草に覆われた土の上に転がる。


 カウント、残り1秒


 直後、背後で爆発が起こった。



 熱を纏った爆風の余波がざわりと全身を舐め、土くれや木の葉を散らす。


 身体の奥に灯っていた異様な熱も徐々に覚め、スローモーションのような15秒間の終わりを理解した。



 倒した



 興奮の後に訪れたのは、闇だった。


 深い、深い、微睡みにも似た穏やかな闇。



 ここが何処かはわからない

 なぜいるのかもわからない


 だが、それなのに心は満ち足りていた


 ここでなら、生きていける


 そんな気がしていた



 柔らかな土の上で、木崎翔真はゆっくりと目を閉じた。







 △▽△▽△▽△▽△▽△







「カズマ!!」


 彼の呼んだ応援が駆けつけたのは、それから2分そこらのことである。


 同じ帽子に、同じ装備。

 それぞれ構える銃以外は統一された格好のメンバーが4人。


「は、班長~!!」


 握りっぱなしだった銃をやっと放り出したカズマが鼻水を垂らしながらすがり付くが、先頭にいた男は広がる惨状にただただ苦い笑みを浮かべていた。


「何の冗談だこりゃ」


 エネミーキャラの狩り尽くされた跡に、ドロップした低品質アイテムの表示が残り火のように漂っている。


 その只中にいるのは、魂の抜けたような顔をした痩身の青年。


「誰だ、あの幽霊みたいな奴は。いや……」


 触れかけた銃の引き金から指を離しながら、彼は顔を険しくする。


「……どっちかっつと死神か」


 呟いていると、ふいにその痩身がぐらりと傾き、地面に倒れた。


 そして、その場は一転死に絶えたような静寂に包まれた。


「生きてますかね」


 部下の一言に、男は深い溜め息をついた。


「死んでりゃいいのにな……気持ち悪くてかなわねえ。見たところ息はある、興奮しすぎてぶっ倒れたってところだろう。カズマ、あれ担げ。おまえが見つけたんだろ。」


「えっ!?」


 腰のベルトに吊るされていた信号拳銃を撃ち上げ、声を張った。


「厄介は片付いた!だが安心するんじゃないぞ、帰るまでが遠足だ!尻の穴がひとつか、ちゃんと確認ついた奴から帰る!」








 △▽△▽△▽△▽△▽△









 気がつくとまたあの闇のなかにいた。

 寒くもなく暑くもない、あの空間だ。


 しかし、今度は一人ではない。

 白いクロスのかけられたテーブルと、向かい合った椅子。


「なに、これ」


 テーブル越しに黒いドレスに頭に赤いリボンを乗せた少女はくすくすと笑っていた。


「意外と驚かないのね、木崎くん?」


 勿体ぶるように肩をすくめた少女に、木崎翔真は目を細めた。

 何故自分の名前を知っているのか。そのようなことは今さら気にはならない。

 おそらく相手は、その疑問さえも無意味なほどの次元にいる。


「よくわからない。でも、たぶんあんたとは初めてじゃないし、ここも初めてじゃない。」

「あら、もうそこまで気が付いてる?」

「……。」


 ここが何処かはわからない。なぜ呼ばれたかもわからない。

 だが彼女が何者かは大概の察しはついていた。


「蝶の人、でしょ。俺をここに呼んだ。」

「正解。さすがね?」


 その言葉を聞くと、少女はテーブルに身を乗り出すようにして肘をついた。


「どう、私の自慢の箱庭は。気に入ってもらえた?」


 その問いに、木崎翔真は口を閉じた。


 脳裏にはまだあの感覚が残っている。

 現実では決して味わうことのできない解放感。

 自分より遥かに巨大な敵をも撃ち倒す全能感。

 失った筈の自由。


 まるで身体の奥に熱を注ぎ込まれたようだった。


「……あそこは、SOGO?」


 その様子に少女は目を細めて笑った。


「そう、そのつもりで作ったの。それより気に入ってもらえたみたいね、よかった!」


 無音の闇に、少女の無邪気だが何処か蠱惑的な声だけが響く。


「ここに呼んだのはね、私があなたを気に入ったからよ。」

「……。」


 訝かしがるように黙った木崎翔真に、少女は小さな肩を揺すった。


「あなただけじゃないわ、この箱庭の住人みんな好きよ。おもしろいもの。おもしろいからここに連れてきた。」


「けど」と少女は言葉を切る。

 その目に、一瞬だけ鋭い光が過る。


「あなたはそれだけじゃない」


 突然、視界を多い尽くすように大量の蝶が舞った。


「……っ」


 思わず目を伏せると同時に何かが両肩を掴む。


「知ってるでしょ?気づいてるでしょ?」


 耳元を撫でるような、生暖かい吐息。

 椅子の背に回り込んだ少女が、木崎翔真の肩を両手で掴んでいる。

 見た目からは想像もつかないような重みに、眉間がしわ立つ。


「あなたはこの世界にとって特別な存在になる。そう決まっているの。」


 少女の手に力がこもり、肩が鈍く軋む。


「……しら……ない!」


 目の前のテーブルを蹴りながらその手を振りほどくと、少女は影も形もなく消えていた。


 ふわりと漂うように、小さな蝶が飛んでいる。


 椅子の背についていた手は、知らずのうちに薄く汗ばんでいた。



『大丈夫、あなたが私の"観察"に付き合ってくれる限り手は出さないから。あなたはただあなたのしたいように、楽しくやってればいいわ。』


 その様を何処か面白がるように少女の声が響く。


『まずはあの人に会いなさいな!きっとすぐ近くにいるはずよ。』


「あの人……」


 その一言で理解できるはずがない。


 だが、それだけで脳裏を過る姿があった。



「スズムラ……さん……?」



 あそこに彼女がいるのか


 疑問がぐるぐると渦巻いて、また意識が遠退く。


 そして再び、彼はあの世界に落ちていった。



今回登場した超クールな鉄砲


○M82A2

バレットの対物ライフルと言ったら結構有名なやつ。それを対空様にブルパップ化した謎作品。肩に担いで撃つらしい(そのきれいな顔フッとばしてやる!)。本家M82はすごく便利な発明ってことで出るとこ出てるイカしたビックガン。大きさ蛍光ペン3本束ねたくらいのでっかい弾を使う。しかもショートリコイルのセミオート。カタカナがわからないってそこのガイ、つまりいっぱい撃てるってことだ。車壊したり壁抜いたりめっちゃ遠くを撃ったりするのに使う。対戦車ライフルとかも呼ばれるには呼ばれるけど、最近の戦車は頑丈すぎるから流石に無理だよ。でもお前のオツム程度なら3つ4つまとめてファックできるから安心しなヘイビッチ。


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