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ver5.0.0 ~鉄と火薬の箱庭で~  作者: 茶間 たたみ
ながく、うつくしい夢をみていた。
1/7

序《言葉の呪い》

 



「かなり、遠くまで来たね」


 彼女はそう言って、両腕を広げ仰ぐように大きく息をした。


 歩いて、歩いて、二人きり

 誰もいないこの緑の丘の上は、この世界で唯一外のしがらみの及ばない空間。このあまりにも窮屈な世界に残された最後の隠れ家である。


 ゆるく暖かな風が吹き、木々の枝葉を鳴らす音がする。


「このまま、ずっと遠くまで。誰もいないところまで行けたらいいのにね。」


 彼女の口からこぼれた言葉は、そんな音に紛れるようにか細かった。


 思えば、それが彼女の溢した最後の弱音だったのかもしれない。

 英雄なんかじゃない。たった一人のちっぽけな少女に戻るための最後の弱さ。


 しかし、その言葉が拾われることはなかった。

 ただ、黙りこくった木々と風の音だけがしていた。


 残酷な沈黙。


 彼女はそこに、すべてを理解したようだった。


「ねえ、キザキくん」


 彼女は遠くを見つめる。

 こちらに、強く背中を向けて。


「キザキくんは、どこに行きたい?」



 俺は



 俺は、あなたの隣がいい


 あなたの"行くべき場所"に行きます




 彼女の肩が小さく震えたような気がした。


「そう」


 また、風が吹く。


 彼女は両手を開き、自分の頬を叩いた。


「そう、だね」


 振り向いた彼女は、いつもの彼女に戻っていた。

 強く、一人の少女の抱くには強すぎる光を称えた瞳。


「じゃあ、私はキザキくんを連れていける場所に行かなくちゃいけないね」


 いつもの彼女。誰もが信じ、誰もを導く笑顔。とても眩しい、太陽のような笑顔。



「帰ろっか」



 そして彼女は踵を返し、自らの足で歩くのだった。

 また、誰かの待つ世界へ。


 万人の掲げた理想をその背中に負って、終わらない争いの中へ。





 そして彼女は、二度とあの寂しげな表情を見せなくなった。


 二度と、あの場所を訪れなくなった。



 あの結末を迎える、その瞬間まで。




 ver5.0.0




 これは、誰かの理想の中でしか生きられない、誰かの物語。



 堅く閉ざされた、狭い箱庭の物語。



次回から本編スタート。世界が閉じられる前日からの物語になります。


ver5.0.0、お付き合いおねがいします。

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