出土
「専門家の鑑定の結果、白骨遺体は室町時代の女性であると判明し、事件性は無いとの事でした。今後貴重な史料として郷土資料館に引き渡しになるとの事です」
ここ2、3日前に、隣の街で整地を行う業者が白骨化した人骨を見つけてニュースになったんだけど、僕はてっきり何かの事件に巻き込まれた人の遺体だと思っていたので、先ほど流れた続報は少し拍子抜けした気持ちにさせた。
「事件だと思っていたのにつまんねーの」
僕はつい思っていたことを口にしてしまった。
「え? なんで事件じゃないと思う訳?」
いつの間にかに帰宅していた同居人の一樹が、飲み物の入ったコップを両手に持って炬燵の中に入り込んでくる。
僕は当たり前のように差し出されたドリンクに口をつけて返事をする。
「鑑定されたんだから、血なまぐさい事は無かったって事だろ?」
「なんだよその言い方は」
一樹は鼻で笑っていたけど、僕は真面目に答えたつもりだ。
「言い方は別にいいだろ。事件が無いってことは外傷とかは無かったって事じゃん?」
「当時の技術は知らないけど、内的要因で殺されたかもしれなくね? 残っているのは骨だけなんだし、致命傷に至らしめた成分が今も検出されるとは考えにくいけど」
「結果出たんだし、そんなことは無いとは思うけどなぁ」
言い終えた後、ドリンクを一気飲みして炬燵の上に置いてあるミカンを手に取る。
甘さがほんのり控えめで、物足りなさを感じる出来栄えだ。
一樹は僕の顔をしげしげと眺めてくるから、ミカンを一房向いて手渡してやった。
「欲しいなら、目でなく口で言えよ」
「おう。てかさぁーもし、さっきのが殺人で埋められた人だとしたら怖くないか?」
「まだその話?」
僕の興味は人骨から目の前にあるミカンに移ってしまっていた。
「だって考えてみ? もしそうなら誰にも弔われることなく、死後も見世物として扱われるんだぞ」
「いいよもうその話は。あ!そう言えば貸してた金返してくんないかな?」
「本当に鑑定士は見抜けるのか気になるだろ? 事件だと思うと楽しくなるだろ?」
一樹の耳には僕の声が届いていないのか、僕の問いを無視して話し続けている。
その見開かれた目は血走っており、その眼がらんらんと僕を凝視しているのが怖く感じた。
なのに頭はふらふらと軽くなって来て、目の前の視界がぐらぐらと歪んできた。
意識が朦朧としてきて、僕が僕である内に聞き取れた言葉は……
「当事者になれるんだからこれから楽しくなるよ」