魔術師クッキング
前回書いたホワイトボアのくだり、料理のシーンを忘れてたので書いてみました。
家に着くとアメリアは早々に袋からホワイトボアを取り出し解体を始めた。
「なんか袋に入れたときと全然変わってない気がするけれど。まだ血が流れてるし」
「この袋は僕特製の最上級品ですからね。この中に入れたものは時間が止まるんですよ。食材だったりも腐らないからとっても便利ですよ」
毎回思うけれどやっぱり魔術って便利すぎないかなこんなの作れちゃうなんて。
それともやっぱりこれを作れるアメリアが規格外な魔術師なだけ?
「じゃあその袋さえあれば食料しまうスペースも減らせるわけだ」
「その通りです冷蔵用の保存庫だったりは必要ありません」
話しながらもアメリアは解体する手を止めずにあっという間に乙事主様を食用豚肉にしてしまった。
なかなかにグロテスクな映像でした。耐性のない私にはきつい...
「じゃあ痛む前にお肉をキッチンの方の袋に入れ替えて、僕夕ご飯作っちゃいます」
アメリアはキッチンに向かうとさっき解体したホワイトボアの肉を一切れと野菜をいくつか取り出してステーキと付け合せをいくつか作った。
さっきの解体もそうだけどアメリアはとっても手先が器用だ。
普段から魔法陣書いたりで細かい作業をしているからだろうか、料理もあっという間にできてしまった。
「いただきます」
できたご飯をテーブルに運び食べ始める。
肉にナイフを入れると中から肉汁が溢れ出してくる。
豚肉なのに全然パサパサしていない、きっととっても美味しいんだろう。
美味しいんだろうけれど。一向に味がしてこない!
「アメリア!」
「むぐっ!ど、どうしたんですか。アヤメ食べてる最中に大きな声出さないでくださいよ。喉に詰まっちゃうかと思いましたよ」
「どうしたじゃないよ味が!味が全然しないんだよ。こんなに美味しそうな肉なのに」
「もしかして、もぐもぐ。アヤメ、視覚ともぐ聴覚しかもぐないんじゃもぐですか?」
「ご飯食べながら喋るんじゃありません!テーブルにこぼれるでしょ」
でも確かにアメリアが何か触ってるときだったり何も感じないし、さっきだって森のなかだっていうのに風や木の匂いを全く感じなかったし
つまりそれって今後どれだけ美味しそうな食材が出てきても私はアメリアが食べてるのを見ることしかできないってことなのか!
なんてことだ、こんなに美味しそうなのに。
「ごちそうさまでした」
あ。
食べ終わっちゃった。
「ちょっと。食べてないで話を聞いてよ、アメリア。このままじゃ私、異世界での楽しみが全然ないんだけど」
「ご飯食べたら眠くなってきたので、とりあえずお風呂入って寝てもいいですか?」
「子供か!」
「子供ですが何か?」
はあ~これ以上言っても仕方ないね。
じゃあ今日は諦めるよ。
アメリア、口に手を当てながら大あくびしてるし。
まだ子供なわけだし。
「明日になったらちゃんと考えてくれるの?」
「ちゃんと考えますよ。任せてください」
「分かった。じゃあ今日は我慢する」
その後、アメリアはお風呂に入りパジャマに着替えて寝室にあるベットで眠ってしまった。
アメリアは、ね。
私はと言うと、なんと起きていた。
てっきりアメリアが寝ちゃったら私も寝るものかと思ったんだけれど、アメリアは寝たはずなのに私は起きていた。
「でも、起きていられても体が動かないんじゃ意味が無いよね」
なんて独り言を言ってる途中で気がついた、ベッドの感触がある。
もしかして動けるのかな?
試しに寝返りを打ってみると体が動いた。
起き上がることだってできる。
やった、動けるんだ!と思ってベッドから降りて歩きだそうと思ったら、バランスを崩して倒れそうになった。
私の世界にいた頃の体とアメリアの体だと結構身長差があるからなれるのに時間がかかりそう。
「さてと、体が動かせることがわかったし」
私の考えてることがアメリアの声で聞こえてくるからなんだか変な感じがする。
「肉でも食うか」
はっきり言ってアメリアがオフロに入ってるときも着替えているときでさえ、そのことにかまっている余裕は私にはなかった。
肉のことで頭がいっぱいだったのだ。
私はよろよろとおぼつかない足どりでキッチンに向かうと魔術袋からホワイトボアの肉を一切れ取り出した。
そして、さっきアメリアが使っていた調味料を思い出しながらその通りに再現していく。
できた!
やっとこのお肉を食べることができる。
ナイフとフォークで肉を丁寧に切っていく。
溢れ出す肉汁によだれが止まらない。
「よし!いただきます」
そう言ってお肉を口に運ぼうとした瞬間。
「ふぁ~〜 おはようございます。あれ?なんでステーキが目の前に?」
アメリアが目をさましてしまった...
「まあいいか。いただきまーす」
「ちょちょ、ま、まって!アメリアそれ食べるの待って!」
「う~ん!このお肉とってもおいしい!」
ダメだ、この子寝起きでなんにも聞こえてない。
あ、あああ、あーー!だめ、やめて!せっかくあと一歩だったのに〜
ガクッ
あっという間にステーキはアメリアのお腹の中に消えていった...
「ふー、ごちそうさまでした。でも、なんで私キッチンにいてしかもステーキがあったんでしょう?」
「...私が作ったんだよ」
「え?アヤメが作ったんですか?このステーキ。でもどうやって」
「アメリアが寝たら私が体を動かせるようになってね、キッチンに来てステーキを焼いたんだよ。やっと食べれると思ったのに、なのにあんたは!」
私の声のトーンからことの重大さに気付いたのかアメリアは急にオロオロしだした。
「す、すみませんでした。私寝起きはボーッとしちゃって、アヤメさんの声聞こえてませんでした」
「申し訳なく思ってるんだったら、私にステーキを食べさせて!寝て!今すぐに!」
「は、はい。今すぐに!」
そう言って、アメリアは食卓テーブルの上に突っ伏すと目を閉じ十分ほどすると私が体を動かせるようになった。
そうして私はもう一度ステーキを作り直し涙を流しながら食べ終え部屋に戻ってベットで寝たのだった。
はっきり言おうチョーうまかった。
豚肉とは思えないほどジューシーで肉汁たっぷりなのにしつこくなくて。
異世界の食材恐るべし。
次の日、アメリアは起きて第一声
「昨日は本当にすみませんでした。アヤメ」
と謝ってきた。
「いいよ、いいよ。私も昨日はちょっと怒りすぎちゃったから」
「本当ですか。許してくれるんですね。よかった~」
この子、私をどれだけ怖いやつだと思ってるんだろう。
「ところで、アヤメ昨日私が寝たあとステーキ作れたんですか?」
「そうだったそれについて伝えるの忘れてた。アメリアが寝ると私が体を動かせるようになるみたいなんだよね」
「なるほど、意識がなくなると主導権がなくなるってことなんですかね?」
「たぶんね、あともう一つ伝えておきたいことがあってね。寝たあと体の主導権が切り替わるときの感覚っていうのかな?その感覚が若干わかってきたんだ。
まだ2回だから完璧にはつかめていないけれど多分あと数回主導権の切り替わる感覚を体験すればアメリアと味覚や触覚を共有できるようになると思う。
「本当ですか!やったこれで一緒に食事を楽しめますね。」
これで、昨晩のような惨劇が起きることはもう無くなると思う。
料理の恨みは怖いですね。




