監禁
「お前ももう大きくなったな・・・」
遠くで誰かの声が聞こえる。
ボヤーっとした景色の中で、
2人分の人影が見える。
「父さんはやっときっかけを掴んだんだ。
選ばれしものだけが行ける。神の世界への入り口を。」
父親らしき1人目の大きな人影は、
もう1人の小さな人影の肩をそっと掴んだ。
「神様の世界?」
小さな人影はそう言い首を傾げたように見えた。
「そうさ、人は天国あるいは地獄という。
私たちはそれをヴァルハラゲートと呼んでいる。
死して、なお輝かしい名誉が与えられ、そして不死身となって
生まれ変われるんだ。」
大きな人影は次第に興奮してきたのか、
小さな人影の肩を強く掴み、激しく揺らしていた。
「痛いよ、父さん、、、離して!」
「・・・お前にはまだ早かったみたいだな。
いずれお前にもわかる時がくる。
なぁヨシアキ・・・。」
「父さん!?」
ヨシアキは、凄い勢いで体を起こした。
まだぼんやりとする視界では、今の状況を判断することができない。
「なんだか、懐かしい夢を見ていたような気がする」
ヨシアキは首元を擦り、まだ火傷のような跡と残った痛みを確認した。
恐らくスタンガンのようなもので気絶させられたのだろう。
徐々に視界が回復し周りを見渡すと、
無機質なコンクリートの床に、打ちっぱなしの壁、
倉庫というより監禁部屋みたいな場所だった。
「ナツキさんとつむぎは!?」
しかし、10畳ほどの無機質な部屋には、
照明と、壁面に大きな鏡があるだけだった。
「よく思い出せ・・・。あそこからどうなった。」
いくら考えても記憶があるのは、スタンガンを当てられるまでだった。
体は縛られたりはしていないが、コンクリートの床で
寝ていたせいか、所々が痛い。
しかし、そのままで居るわけにはいかず、
立ち上がり、部屋の状況を確認した。
一番気になるのは、壁面の大きな鏡だ。
コン、コン、ゴンゴンッ、ガツッ!!
少し強めに叩いてみたが、ビクともせず、
恐らくマジックミラーのようなもので、
中のことを監視しているんだろうと思った。
しかし、それが気に入らず、
気が立っていたヨシアキは、
後ろ蹴りで思い切り、割ろうと試みた。
その瞬間、鏡が急にモニターになり、
映像が映りだした。
「川崎ヨシアキ君だね?」
そこには白髪のオールバックの、
シワの深い西洋人の姿があった。
今までにみたことがない、マフィアのような出立ちだった。
「なんで、俺を誘拐した?」
質問に対して、荒々しく答えた。
「君が真理をみたからだ。」
「真理・・・?一体なんのことだ!?」
相手が何を言っているのか全く理解できなかった。
「君が真理をみてから昔の記憶がないのは知っている。
だからずっと放っておいたのだ。
しかしヴァルハラの現象が各地で起こっている。
試しに君の元へ向かい、挑発をしてみた。」
「挑発って、銃撃したことか??」
「そうだね、飛びっきりの殺意をもって。
するとどうだろう。君の反撃は、半径50mほどの人間を
すべて気絶させてしまった。我々も大きな被害があった。
挑発を繰り返したが、君は反撃を続けてきた。
しかし、力が弱まってきたことを確認し、君を捕獲させてもらった。
パワー切れってことかな?」
「俺が反撃?」
「全くの無意識か。まだ力が確立していないんだね。
我々も今回の件で多くの被害があった。
君に選択肢を与えよう。」
「ふざけるな。さっきから訳の分からないことばっかり言って、
ナツキさんと、つむぎはどうなった!?」
「話をしている時間はないんだ。
それではこうしよう。君の要望はなんだね?」
「ナツキさんとつむぎに会わせろ!」
「わかった。彼女たちの安否も保証し、
君も自由にしよう。
ただし、我々のお願いも聞いていただきたい。」
「偉そうに言ってたくせに。今度はお願いか?」
「君に味方になってほしい」
「断ったら?」
「君は断れない。
先ほど君が望んだものは、私の手のうちにある。
そして、君は自分の正体を知りたがっている。
悪いようにはしない。
・・・すまない。
私たちと君が信頼関係を築く時間がないんだ。
だからこうしている。今だけでいい。
言う通りにしてくれ。」
とりあえず二人の安否が知りたい。
そして何よりも、今この状況から脱するには、
相手の言うことを聞くしかない。
「わかった。色々聞きたいことはあるが、
とりあえず、ここから出せ。
それとまだアンタの名前を聞いていない。」
「すまなかった。
私はジョン・ストーキングスだ。
ジャックと呼んでくれ。」
ジャックがそう名乗ると、部屋の扉が
重々しく開かれた。