晩餐
「あの・・・あんまりジロジロ見ないでもらえるかな?」
パクチーとチキンのジンジャー煮を食べながら
ヨシアキは言った。
「えへへ・・・だってー・・・
食べてる姿、いいなーって!」
2人は自分の頬に両手を当て、
じーっとヨシアキを見つめていた。
「ねぇ・・・美味しい??」
「あ、うん、美味しいよ」
「本当?めっちゃ嬉しい・・・」
顔を真っ赤にして、喜ぶナツキをみて、
ヨシアキも顔が赤くなった。
「こんなことを聞くのも変だけどさ、
どうして2人はこんなに俺に良くしてくれるの?」
「だってようやくできた家族なんだもん」
つむぎは少し真面目な顔をしてそう言った。
確かに二人の生活に男手はいなかった。
ナツキさんの旦那さんで、つむぎのお父さんは、早くに死んでしまった。
ナツキさんは可愛かったこともあり、高校でもアイドル的な存在だった。
どうしてもそんな女性の周りには悪い奴が近づいてくる。
ナツキさんの旦那さんも不良の中の一人だったが、とても良い人だったという。
ただ、危ないことに関わってしまったとのことで、殺されてしまったらしい。
正確には二人は結婚していないが、当初もらった安い指輪を今でも大事にしている。
旦那さんが死に、もう結婚はしたくなかったみたいだが、
祖母も体調を崩してしまい、つむぎの面倒を見る人がいなくなってしまった。
「タカシさんはね、うちの店に遊びに来てくれて、私の話をずっと
聞いてくれてたんだ。あぁーこの人なら安心できるなって。
たまにね、ヨシ君の話もしてたの!
名前を聞いて、川崎ヨシアキってもしかしてって思ったの。
あのヨシ君なのかなって。そう考えたらドキドキしちゃった。
プロポーズされたときは、もちろん嬉しかったし、
ヨシ君とまた会えるんだって、、、。
つむぎも寂しい思いをしてたから、ヨシ君のこと好きになってくれてうれしかった。」
「・・・お兄ちゃん好き!」
俺は今まで当たり前のように日々を過ごしてきたが、
世の中には、辛い思いをしている人もたくさんいる。
そんな人たちは幸せにならなきゃいけない。
いや、俺がしなくちゃいけない。
ヨシアキは2人の頭を両手で寄せ、優しく髪をなでた。
「俺がさ、父さんがいない間、ずっといるから、
みんなで、たくさん思い出作ろうな」
ヨシアキは涙を堪え、優しく二人に言った。
「冷めちゃう前に、ご飯食べちゃって!」
ナツキさんは明るい声で皆の食事を促した。
・・・・・パンッ
遠くで何かが弾ける音がした。
すると数秒後、窓ガラスが大きな音を立て割れた。
破片はフローリングに落ちたが、食事をしているテーブルまでは届いていない。
「みんな伏せろ!!」
ヨシアキは二人を抱え、テーブルの下に避難した。
発砲音から5分程度は経っただろう。
音はその一度で治まり、ヨシアキは様子を見ながら、
テーブルの下から身を出した。
周りの様子をみると、何も起こっていないかのように
静かだった。それが違和感だった。
あれだけの音がして、野次馬もいないなんて
おかしくないか・・・?
「二人とも大丈夫か??」
ヨシアキがそういうとナツキさんが震えていた。
「まただわ・・・。私が幸せになると
いつも不幸が起こるの・・・。もういや・・・。」
つむぎは状況を把握できておらず、すすり泣きをしていた。
ヨシアキは強く二人を抱きしめた。
「大丈夫、俺がいる。安心しろ!」
その直後、ヨシアキの視界が真っ暗になった。
混乱の中のせいか、ヨシアキは背後に近寄る人間に気が付けなかった。
何か布のようなものを被され、背中に雷に撃たれたような痛みが走った。
叫び声のようなものが聴こえる。
あー、ナツキさんとつむぎの声だ。
ただその声は、ヨシアキの意識の遠くで響いているだけだった。