表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/22

第8話「ドラゴンはよく眠る」


 セシルさんの操縦する馬車が街道を進んでいる。


 俺とレーカは荷台の上だ。

 俺は荷物の隙間で縮こまり、レーカは柔らかそうな商品を選んで布団代わりにして、その上に寝そべっている。


 セシルさんにあれは良いのかって聞いたら、「可愛いレーカちゃんならいいよ。今回の行商はすでに十分儲かったし」とのことだ。まあそういうことだ。


 アルは御者台のセシルさんの膝の上で、彼女にモコモコと触られている。

 あれ気持ち良いんだよね。アルもモコモコされるのに慣れたのか、大人しくしている。


「ねぇ、王都に行くのよね。あたしがドラゴンの姿になって、馬車ごと運んであげよーか。あっという間に到着するわよ」


 それって、ドラゴン襲来で王都がパニックになるんじゃないのか……。


「ちなみにどうやって運ぶんだ?」


「んー……、背中に乗っけて運ぶとか、口にくわえて運ぶとか? あ、手でつかんで運ぶこともできるわ」


 レーカはふふんと得意げにペチャンコな胸をそらしている。


「どれも無事にすまない予感がするんだけど……」


 背中だとズリ落ちて空から落下、口にくわえてだと何かの拍子に飲み込まれ、手だって握りつぶされるのが容易に想像できる。


 俺はこの駄目ドラゴンのことが少しずつ理解(わか)ってきたのだ。


「そ、そんなことないわ。そうね、そういえばこの前……」


「おお」


 何か成功事例があるのか?


「ご飯として捕まえたデスバッファローを、住処(すみか)でゆっくり食べようと手づかみで飛んで運んでたときのことよ……」


「ああ」


 デスバッファローって、別名血まみれ水牛って呼ばれるやばい魔物じゃん。あれを餌にするなんて、さすがドラゴン。


「飛んでる途中で、眠くてウトウトしてね」


「……ん?」


 嫌な予感がしてきた。


「住処に着いたときには、デスバッファローがグチャグチャになってたのよ。崩れて食べられるところがほとんどないし、あれはもったいなかったわ」


「失敗事例じゃん!」


 危うく俺たちがグチャグチャにされるところだった。

 この居眠りドラゴンに運んでもらうのはナシだ。


「そんな怖い顏しないでよ」


「ちなみに居眠り飛行で街に突っ込んだりしたことは?」


「えーと、街中にはないけど、ウトウト飛んでる内に、なんか高い塔に突っ込んだことはあるわ。だいじょーぶよ、あたしは怪我一つしなかったんだから」


「ちょ、おま!?」


 何が大丈夫なものか。 

 それ絶対に現地では大問題になったはずだ。

 ドラゴン襲来!とか言ってさ。


「あたし、頑丈でしょ? すごいでしょ? 褒めていいのよっ」


 ドヤ顔している居眠りドラゴンに腹が立った。

 俺たち人族の場合、安易に背に乗った日には文字通り死活問題だからな。


 俺はレーカの柔らかそうな頬を両手でつまみ……。


「んー、いひゃいぃ……ねお、なにふうのお」


「居眠り防止には、頬をつねるのが良いらしいぞ」


 くぬっ、くぬっ! 


「うー、しゃへえにゃい」


 くぬぬっ!


 寝るなら飛ぶな。

 

 今度から眠くなったら、地上に降りて休もうね。


「ねえ、ネロ君」


 セシルさんに声を掛けられてハッとする。


 傍から見たら少女に虐待しているの図だったかな。


「はい、セシルさん」


「私もレーカちゃんの頬をウニウニしたいなぁ」


「…………」


 そうだった……。


 セシルさんは、駄目お姉さまだったよ……。



◇◇◇



 そんなこんなで旅の初日は順調に進み、日が暮れる前に街道沿いの村に到着した。


「今日はここで一泊するわよ」


 旅の日程管理はセシルさんに任せている。


 俺は旅なんてしたことなかったし、レーカはそもそもそういうの気にしたことないみたいだからね。


 レーカの頭の角を隠すために、セシルさんの商品の中から帽子をもらった。


 お金を払うって言ったのに、レーカちゃんへのプレゼントだからと嬉しそうに帽子をくれた。

 帽子はとても似合っていて、貴族のお嬢様みたいに可愛らしかったよ。


 アルには亜空間に戻ってもらった。精霊を連れているのを見られると村の人に騒がれそうだしね。


「この村には宿屋とかあるんですか?」


「街道沿いの街や村には旅人用の宿屋があるものよ。仮に満室だとしても、村の広場を借りるだけでも、村の外での野宿より安全だしね」


 おお、セシルさんが久しぶりに頼りになる感じだ。最近、可愛いものを愛でてばかりだったからな。


「もしかして、この村にも知り合いが?」


「ええ、この村も行商ルートだから、よく知っているよ。村長に会ってくるからちょっとここで待っててね」


 そう言って、セシルさんは村の中心の方へ向かっていった。


 待つこと二十分程、セシルさんが戻ってきた。


 無事に宿屋が取れたとのことで、俺たちは宿屋の部屋まで案内された。


 借りたのは二階の一部屋で、広めの部屋にベッドが二つ。

 一休みしてから、俺とレーカは宿屋の食堂で夕食をとることにした。


 セシルさんは、商品の一部をこの村に売り渡すということで、外に出て行った。


「そういえば、聞こうと思っていたんだけど、レーカはその姿だと強さはどれくらいなんだ?」


 俺とレーカは、食堂の隅っこの方で夕飯を食べている。

 何の肉だか分からないが、肉を焼いたものと野菜の入ったスープだ。


「ん、あたしの強さが気になるの?」


 レーカが肉を美味しそうに食べながら、顔をこちらに向けてくる。

 ちょっと嬉しそうにしているのは、聞いてほしいからかな。


「まあね。実際レーカってドラゴンの中でも、結構な方なんじゃない? なんか赤い鱗とか綺麗で格好良いしさ」


 周囲に人がいないのを見計らって小声で問いかける。本心だが、ちょっと(おだ)ててみる。


「そ、そう! ネロには分かるのね。なかなか見る目があるわね」


 レーカが、明らかに上機嫌になってニマニマしている。


 チョロ可愛いではないか。


「レーカは、どんなドラゴンなの?」


「あたしはドラゴンの中でも上位竜で凄いのよ。魔法もいろいろ使えるわ。あたしはまだ幼竜だけど、たいがいの敵はチュドーンよ」


 あの大きさでまだ幼竜なんだ……。成竜になったらどんだけ大きいんだよ。


 確かに人化の魔法とか伝説やおとぎ話みたいだもんな。上位竜っていうのも納得だ。

 チュドーンでは強さが分からないけど、まあとんでもなく強いのは確かだろう。


「ちなみに、今の姿でも魔物とか倒せるくらい強いの?」


 今後の活動方針にも関わってくるからね。戦うたびにドラゴンになっていたら、変な噂が立ちそうだからね。


 討伐隊とか来たらたまらない。


「もちろんよ。ドラゴンの姿に比べて多少の制限はあるけど、力も魔法も大したものよ」


「へえー、レーカって凄いんだね」


 それは良かった。俺の弱点の近接戦闘や飛び道具への対処などをフォローしてもらえるかもしれないな。


「もっと、褒めてもいいのよ。それにしても、この肉おいしーね……」


 モグモグしてる姿は、見た目の歳相応にしか見えないんだけどね。



◇◇◇



 食事後、部屋に戻ってしばらくすると、セシルさんが戻ってきた。

 セシルさんは、取引所で軽く食べてきたとのことだ。


「今日はいろいろあったし、もう休みましょ」


「うん、賛成よ。あたしはもう眠いわ」


 俺も賛成だ。ただ、レーカはたっぷり寝てたでしょ。


 二つのベッドの内、窓側のベッドにテケテケと向かい、勢いよくそこにダイブする食っちゃ寝ドラゴン。


「ネロはこっちにきて。あたしに眠くなる魔法をかけながら一緒に寝るのよ」


 レーカの中では、ベッド割がすでに決められているようだ。そしてなぜか、子守唄ポジションの俺。


 二つ名に恥じない配置をご所望のようだぞ。


「ちょっと待って! それは良くないわ。彼も一応男よ。ここは女の子同士、私とレーカちゃんが一緒のベッドが良いと思うの」


 セシルさんの発言は正論なのだが、邪念が垣間見えるのはなぜだろうか。


「あたしは嫌よ! ネロ、助けて!」


「レーカちゃん、変なことはしないからさ。さあ、こっちにおいで」


 セシルさんの手がワキワキしている……。


 そんなセシルさんにレーカが怯えている。


 このままじゃいつまで経っても、寝ることができなそうなので……。


「俺が決めるよ。二人は窓側のベッドで一緒に寝ること。睡眠魔法で同時に寝かしつけるから、レーカも変なことされないからさ」

 

 ほらほら早くと不満そうな二人を一緒のベッドに追いやり、横にさせた瞬間に睡眠魔法を発動。すぐに眠りに落ちる二人。


 ふぅー……、今日はいろんなことがあったな。しかし、こうやって仲良く寝てると二人は姉妹みたいだな……。


 幸せそうに寝ている二人を見てそんなことを思った。


 そういえばレーカ、尻尾をだしているな……。


 レーカの寝姿を見て気づいた。さっきまでは尻尾は出ていなかったから、リラックスして寝るときは尻尾が出ちゃうのかな。


 気持ち良さそうに寝ている二人に毛布をかける。


「おやすみなさい……」


 俺はもう一つのベッドに横になり、羊なアルを呼び出し抱き枕にする。


 明日も騒がしい一日になりそうだ。


 おやすみなさい――――。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ