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第6話「眠りの精霊」

 俺たちは今、街道の脇で休憩中だ。


「二人に話しておきたいことがあるんだ」


 俺はドラゴンちゃん改めレーカと、セシルさんに声をかける。


「なによ? あたしは昼寝したいのよ。そんなことより、睡眠魔法をかけてよ」


「お前なぁ……、さっきまで荷台で寝てただろ」


 街道を馬車で進んでいる間も、レーカはさんざん寝ていたはずだ。


 レーカはドラゴンということもあって、セシルさんより年上だと思うけど、その見た目のせいか、ため口で話すのが自然になっている。


 セシルさんは一応依頼主だしね。

 さっきから、はっちゃけたセシルさんを見てるせいで、なんか友達感覚なところも少し出てきているけど。


 まあ、街に友達とかいなかったけどさ……。


 そういえば、レーカは少女の姿の時でも強いのだろうか。

 ドラゴンの時と違って弱かったりするのかな。今度聞いてみよう。


「えへへ、レーカちゃんの寝顔は可愛かったよねー。頬をぷにぷにしたかったよぉ」


「なっ!? 寝てるあいだに変なことしないでよっ」


 セシルさんが何やら思い出したのか、だらしない顔をしている。

 よだれを垂らしそうな顔といったところだろうか。


 セシルさんがチラチラ荷台を見ていたのはそれだったのか。


 危ないから、ちゃんと前を見て馬車の操縦してくださいね。


「今後、旅していくのに大事なことだから聞いてほしい」


 このことを人に話すのは初めてだ。なんとなくこの二人は信頼できるという気持ちがある。


 それにレーカがドラゴンであるという秘密?を知った以上、なんだか俺も話したくなっちゃったんだよね。


「うん」


「わかったわ、寝るのは話を聞いてからにするわ」


 俺の真面目な雰囲気が伝わったのか、二人は少し姿勢を正して耳を傾けてくれる。


 結局あとで寝るのかよ、このグータラドラゴンめ。


 少し緊張するなあ。


 深呼吸してから、俺は宙空に向かって呼びかける。


「アル! 出てきてくれるか」


 何もない空間に呼びかける俺を見て、二人はいぶかしげだ。


 少しして、空間にズズっと裂け目が生じる。


「わぁ、何かが出てくる。魔物かしら」


 空間から少し見えてきた白いものを見て、レーカが少し警戒している。


「白い毛玉?」


 セシルさんが興味深そうに見ている。その目は商人の目になっている気がする。

 それは素材じゃないから、売り払わないでくださいね。


 それ(・・)は少し見えたと思った後、一気にポンッと飛び出すように俺たちの目の前に現れた。


 空中にプカプカと浮かぶそれは、全身が白い毛玉のような生き物で、大きさは五十センチくらい。

 愛嬌のあるクリクリした目が可愛らしい。


 この世界では他に見たことのない姿形。

 こいつが以前居た(・・・・)異世界の“羊”という生き物にそっくりの姿とのことだ。


「はじめまして、僕の名前はアーリュウス・ヒュプノス。アルって呼んでちょうだい」


 突然現れて自己紹介を始めるアルに、俺は驚かせちゃったかなと二人を見てみると。


「わぁ! 精霊だね、久しぶりに見たわ。あたしはレーカよ」


「アル君っていうのね。私はセシルよ。はぁー、可愛いよー。モコモコしてもいいかな」


 全く驚くこともなく、平常運転な二人だった。


 セシルさん、その怪しい手の動きはやめようね。


 俺は初めてアルに会ったとき、かなり驚いたってのに。

 きっと二人が変だからで、俺がビビりってわけじゃない。


「ハハッ、ネロの新しい仲間はなかなか愉快だね」


 アルがなんとなく嬉しそうにしている。

 それを見て俺もなんだか嬉しい気持ちになってきた。


「しばらく一緒に旅をすることになった。仲良くしてくれると嬉しいよ」


 アルはこの世界でいう上位精霊らしい。


 睡眠を司る神様の眷属(けんぞく)で、俺が強力な睡眠魔法を使えるのは、実はこのアルのおかげだったりする。


 アルはこの世界に来る前に、“日本”っていう異世界に居たらしく、ちょくちょくその世界の話をしてくれる。

 常識、知識など全てがこの世界と違っていて、それはそれは面白い世界だ。


 おかげで、最近は俺の中で“日本”の知識が充実してきている。

 あっちの世界には“ラノベ”っていう異世界の物語が溢れているらしい。


 物語が好きな俺としては、うらやましいかぎりだね。


 ちなみに、アルの存在は絶対に秘密というほどではないんだけど、本人曰く、上位精霊の力を付け狙う輩は多いから知られると面倒なんだよね、とのことだ。


 俺の睡眠魔法も悪用したら、とんでもないことになりかねないもんね。


「アル、あなたはどんな魔法が使えるの。やっぱりネロと同じグッスリ眠れるやつかしら」


「アル君、モコモコしてもいい? ち、ちょっとだけだから。減るもんじゃないし、いいよね?」


「メェー!」


 アルがレーカとセシルさんに包囲されている。まあ逃げようと思えば、空間裂いて逃げられるだろう。


「よく見るとなんだか美味しそうね。はっ!? 違うの、食べたりはしないわよ」


「この手触り、気持ちよすぎるわ。アル君、今晩から一緒に寝ようね」


「ラメェー!」


 だから、アルが助けを呼んでいる気がするのは、きっと気のせいに違いない。


 日本には羊肉という美味しい肉があるらしい。でもレーカよ、アルは食べ物じゃないぞ。


 セシルさん、その欲望に忠実なところは嫌いじゃないよ。


 仲良きことは美しきかな、それはアルに教わった異世界の名言だ――。

羊はなんで眠りの象徴みたいになってるんだろう?

と思って調べてみると。


眠りの「sleep」と羊の「sheep」の発音が似ているからだとか。

また、「sheep sheep」と羊を数えると、穏やかな呼吸が続くことになり眠れるとか。

ということは、日本語で「羊が一匹、羊が二匹……」って数えても駄目ではないですか……。



お読みいただきありがとうございます。

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