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第5話「ドラゴン再び」


 俺たちの前方にドラゴンが降り立つ。


 赤く大きなドラゴン。


 このドラゴンは見覚えがあるぞと思い起こすと、先日遭遇したドラゴンではなかろうか。

 ドラゴンの顔の見分けはつかないけど、大きさといい、色といい、そうに違いない気がしてきた。


 あいかわらず、赤い輝きが綺麗なドラゴンだな。鱗が陽の光をキラキラと反射している。

 

 しかし、こいつまだこの近くにいたのかよ。


「ネロ君、今日こそ終わりだわ。私たちはドラゴンの餌にされるんだわ……。良いことのあとには悪いことがあるってホントだね……」


 すぐに動けるように荷台から降りていた俺に、セシルさんが抱きついてきた。

 抱きつかれるのは嬉しいんだけど、今は喜んでいる場合じゃないな。


 それにしても、美少女に抱きつかれながらもドラゴンに対峙するの図。


 俺ってば、物語の勇者様みたいじゃんかよ。


 などと、のんきなことを考えていると、ドラゴンが目が眩むほどの赤い光を全身から発した。


 すわドラゴン魔法か?と身構えていると、光はすぐに収まった。


 光が収まった後には、そこに居たはずのドラゴンが消えていた。


 あれ? どこかに移動でもしたのかなと、ドラゴンの頭があったところから視線を下げていくと、赤い髪の少女がポツリ立っている。


 少女の腰丈まである赤い髪が風にたなびいている。

 ツリ目がちの赤い瞳からは、気が強そうな印象を受ける。

 気が強そうだが、とんでもない美少女だ。


 普通の女の子と違う点といえば、赤い瞳と頭から生えている短い二本の角だろうか。


 十歳くらいの少女に見えるが……。


 これは……、そこにポツリしている少女があの赤いドラゴンではなかろうか。

 よく見ると頭の角も、ドラゴンの角に似ているしさ。


 これはドラゴン魔法(仮)での“変化(へんげ)”とかではなかろうか


 ドラゴンはどこにいった? 少女はどこから現れたんだ!

 なんてことは言わないぞ俺は。自称空気を読める男だからね。


 油断して近づくのは危険だ。なんといってもドラゴンの脅威は目の当たりにしている。

 相手にその気があれば、眠らせる間もなく一撃死させられる未来が容易に想像できる。


「セシルさん、油断しないでくださ――」


 セシルさんの方を見ると、腰を抜かしたのかへたりこんでいた。


 いきなりドラゴンがやってきて、ピカる展開は驚くもんね。

 セシルさんは今も展開についていけない様子で、口をパクパクしている。


 ここは俺が頑張ろう。


「ねえねえ、そこの少女」


 違う! これではナンパだ。


「レッドドラゴンさん! 話をしましよう!」


 これであの少女がドラゴンではなかったら恥ずかしいな。


 あの少女がドラゴンだとしたら、人型になれるくらいだし、お話できる余地もあるだろう。


「…………」


 こちらをジーっと見ている少女。

 何を考えているかが全く分からない。


 少女はコクンと一度うなずくとこちらに向かってにテクテクと歩いてきた。

 

 うわぁ、ドラゴンだと思うとドキドキするなあ。


 背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、いつでも睡眠魔法を発動できるように構える。

 セシルさんをチラリ見やると、口をポカーンと空けている。


 年上お姉さまなのに、その駄目そうな感じ、俺は結構好きですよ。


 密かに駄目姉(だめねえ)と呼ばせてもらおうかな。


 少女が俺の目の前まできた。


「こんにちは、ドラゴンちゃん」


 あいさつだいじ。とりあえず少女に声をかけてみる。


「ねぇ、あたしも旅に連れてって」


 鈴が鳴るような可愛らしい少女の声。すこし舌ったらずなしゃべり方に、保護欲が刺激される。


 けど、言われたことの意味が一瞬分からなかった。

 話の脈絡がまったくなかったから。


 旅? 連れて行く?


 この少女特有のおねだりなのか?


 おねだりドラゴンなのか?


 ……いかん、いかん。少し混乱していたようだ。


「俺と一緒に旅をしたいってこと? どうして?」


「あなたの眠らせる魔法のおかげで、この前はグッスリ眠れたのよ……」


 眠らせたけど、それがどうしたんだろう。いきなり眠らせたこと怒っているのかな。

 まあ、この少女の姿の時にいきなり眠らせたら、俺は完全に不審者、「衛兵さーん、ここでーす」となるだろう。


「眠らせたからね。遠まわしにこの前のこと怒っているの?」


「怒ってないよ、むしろ感謝してるのよ。あの時、風邪ひいてイライラしてたけど、寝て起きたら治ってたのよ。とても清々しい気分だったわ。あんなにグッスリ気持ちよく寝ることができたのは初めてなのよ」


 いい夢も見れたしね、と少女がはにかむ。


 可愛いじゃないか……。


 あの時、機嫌が悪そうに見えたのは、怒っていたからではなく風邪を引いてたからだったのか。

 風邪を引くと暴れるとは、ドラゴンとはなんてはた迷惑な種族なのだろうか。


「それは良かったね。今後は風邪を引いても暴れたりしないでね」


 ちょっと怖いけど、これは言っておかなければいけないだろう。


「あたしの場合、風邪を引いたら半年くらいは体調わるいのよ。それがあんなに早く治ったのは初めてで感激したのよ。ありがとうなのよ」


 ぺこりとお辞儀をするドラゴンちゃん。


「どういたしまして……。……それで、一緒に旅っていうのは?」


「毎日あたしが寝るときに、あなたの眠くなる魔法を使って欲しいの。あの時、あなたに寝かされたのが気持ちよくて忘れられないのよ。ねえおねがい! 一緒に連れてって」


 なるほど……。


 まさか、睡眠魔法をかけてほしいなんて人が現れるとは思っていなかった。

 いやまあ、ドラゴンだけど。


 これはドラゴンに懐かれてるというのかな?


 しかし、よくよく考えてみると、ドラゴンが仲間になるっていうのは、これ以上ないくらい頼もしいんじゃないのか。

 強さは文句ないし、この姿なら街とかにも入れるしさ。


 デメリットは暴れ出さないか心配なことくらいだろうか。

 連れが街を壊滅させたら笑えないよね。


「ドラゴンの姿になって街を壊したりしない?」


「そんなことしないわよ。あなたのくれた、あのサイコーに気持ちいい眠りのためなら、ちゃんと言うことを聞くわ。イイ子にするからお願いっ」


 ドラゴンちゃんは少し不安そうに頼んでくる。断られることを心配してるのかな。

 少女の姿でこう頼まれると、なんだか俺が悪いことをしている気がするから不思議だ。


 それに、俺がしたことを「気持ちいい、気持ちいい」と連呼されると、男の子のこうプライド的な何かをくすぐられる感じがするんだよね。


 正直気持ちは一緒に連れて行く方に傾いている。


 街のみんなに馬鹿にされてた俺の睡眠魔法を褒めてくれたことが、素直に嬉しいんだよね。


 ドラゴンは魔法に関して、人族以上だと聞くし。それに認められるなんて嬉しくないはずがない。


 ……と、今は一人旅じゃないんだった。セシルさんの意見も聞かなくては。


 セシルさんの方に目を向ける。


 !?


 セシルさんのドラゴンちゃんを見る様子に、俺は驚きのあまり固まった。


「可愛いよー! ドラゴン童女可愛いよー! 同行、もちろんオッケーだよ。お姉さんと一緒に旅しようね」


 セシルさんは、ドラゴンちゃんに抱きついて頬ずりを始めた。

 あれ? さっきまで放心してなかったっけ。


「な、なによ? この女は」


 ドラゴンちゃんが嫌そうにジタバタしている。

 本気で暴れれば抜け出せそうだけど、それをしないあたりもドラゴンちゃんの良さがうかがえる。


 しかし凄いな……、ドラゴンすら怯ませるとは。


 俺の中でセシルさんの評価が斜め上に上がっていく。


「まあ、そういうわけで、一緒に行くのはオッケーだよ。俺の名前はネロ、その人はセシルさん。君の名は?」


「あたしの名前はレークインス・ガルフリードよ。ちょっ、くすぐったいってば!」


 え……? 名前が難しすぎて、頭に入ってこなかった。

 そして一度覚えても、寝て起きたら忘れそうな名前だった。


 ドラゴンちゃんは、今もセシルさんにグリグリされている。


 そうだなぁ……。


「人族は仲間を愛称で呼んだりするんだ。よし、今日から君の名は『レーカ』だ」


 無理やり覚えられそうな名前にさせてもらおう。どうだ、自然な言い訳だろう。


「なかま……、仲間……レーカ、レーカかあ。うん、今日からあたしはレーカよ!」


 嬉しそうに笑顔で名前を叫ぶレーカの様子に、少し罪悪感を感じる俺だった。


 だって覚えられないよ……。


「レーカちゃん、可愛いよ。よろしくね! あぁ、ほっぺたモチモチだね」


「んなぁー、スリスリするなぁ! ネロ! 助けてぇ! んにゃー!?」


 セシルさんはドラゴンに怯まず、突っ走り続けるのだった――。


お読みいただきありがとうございます。


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