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第10話「村長宅にて」


 レーカとセシルさんを伴って、俺は村長宅にやってきた。


 今、俺たちはテーブルを挟んで座っている。

 俺の左側にはレーカ、右側にはセシルさん。


 テーブルを挟んで正面には、村長だと紹介された中年の男性。

 村長さんの右には、昨日の盗賊との戦いで他の衛兵に指示を出していた壮年の男性。

 衛兵長といったところだろうか。


 皆の前に紅茶が出てきたところで、村長さんが話を切り出した。


「ネロさん、昨日はありがとうございました。私は村長のトーマスです。村の代表としてお礼を言わせてください。しかも、聞けばそこの彼女と二人だけで盗賊を全滅させたとか。二人ともまだ子供にしか見えないのに、すごいですね」


 村長さんは二人でというが、戦ったのはレーカだけなんだよね。


 そんな、気にしないでよ。ついでに水車を壊したことも気にしないでもらえれば……。


 水車を壊した本人は、出された茶菓子を絶え間なく食べ続けている。

 

 食べてばかりなので、“永遠喰竜(ウロボロス)”のレーカと心の中で勝手に二つ名(・・・)をつけることにした。


 あ、器が空になった……。


 次の器に手を伸ばしているけど、それは俺の分だからね。まあいいけどさ。


「冒険者として当然のことをしたまでです。相手の数が多く手加減が難しかったですが……」


 村の設備を壊したことが、戦いの余波でどうしようもなかった(てい)で話しておこう。


 くそぅ、なんで俺は隣で暴食にいそしんでいるヤツのフォローをしているんだろう。


「俺からも礼を言わせて欲しい。この村に衛兵として配置されていた俺たちも、怪我こそしたが、君たちのおかげで死人が出ないで済んだ。ありがとう」


 この人の名前はブレッドとのことで、肩書きも衛兵長で合っていた。

 昨日倒れていた人も、怪我で済んだみたいでなによりだ。


 衛兵って今まであまり良いイメージなかったけど、この人はずいぶん礼儀正しい人だなあ。

 今思うと、盗賊三人を一人でなんとかいなしていたし、剣の腕もなかなかだと思われる。


「私もあとで報告受けて、震えが止まりませんでしたよ。もしネロさんたちが、この村に居てくれなかったらと思うと……」


 村長さんとブレッドさんが俺をリーダーのように扱ってくるけど、いつのまにそんな流れになったのだろうか。セシルさんが、そう伝えたのかな。


「それで、あの盗賊たちは何者だったんですか」


 とりあえず話を進めよう。


「ああ、詳しくはまだ調査中だが、最近この周辺で暴れてた盗賊団のようだ。ただ、少し気になる点があって、昨日のあの盗賊団も何者かの指示を受けての動きに感じられるんだ」


 ブレッドさんが、眉間にしわを寄せながら、教えてくれる。


 あー、思い当たることがあるな。そういえば、この前の盗賊も何か言ってたな。


「あの盗賊団も、ってことは他にもそういうのがあったんですか」


「そうなんだ、村人たちが聞くと不安になるだろうから、ここだけの話にして欲しいんだが……」


 ブレッドさんは、声のトーンを抑えて告げてきた。


「言いふらしたりしませんよ」


「そうか。実は、目下調査中なんだが、盗賊団が協力しあってるという噂があってな……。いくつかの盗賊団をまとめている盗賊団があるとも言われているんだ」


 ああ、一昨日捕まえた盗賊もそんなこと言ってたな。


 たしか……。


大頭(おおがしら)ですかね」


 ブレッドさんが目を見開いた。


「君たち、それはどこで? 今話していたのがまさにそれだ……」


 別に隠すことでもないので……。


「一昨日捕まえて街に引き渡した盗賊がそんなことを言っていたんですよ」


「一昨日も!? すごいな君たちは。いや、昨日の戦いぶりを見たら当然か……。彼女の強さは凄まじいものがあったけど、君もかなりできるんだろ?」


 なんでそんな認識に?


 ああ、昨日俺がレーカに指示を出してた風だったからかな。


 否定しておくか。


 身の丈に合わない評価は身を滅ぼすというからね。


 否定の言葉を告げようと思っていると、今までひたすら食べてたウロボロス少女が口を挟んできた。


「あんた、分かってるじゃない! あたしなんか、ネロに手も足も出せずに倒されたんだからね。それに凄い気持ちいいのよ……」


 おい、その言い方はいろいろ勘違いされるだろ。


 それになんで最後のところでウットリしてるのさ。

 

 なんか俺がレーカを押し倒して、何かしたみたいじゃん。


 グッスリ眠れるのが気持ちいいだけだろ。


「ネロ君、君の実力はやはり彼女以上なんだね。……けど、俺が言うことではないのかもしれないが、まだ幼い彼女に対して無理矢理っていうのは……、それは男として……、いや人としてどうかと思うぞ」


 ブレッドさんの発言に、うんうんと頷いている村長さん。

 村長、あんたもか!


 完全に勘違いされている……。


 レーカがドラゴンだと言うわけにもいかないし、実はレーカの歳は村長さんより上だと言うわけにもいかないし。


 助けて……、とセシルさんに目を向ける。


 そこには紅茶を飲みながら、ニヤニヤしている女行商人の姿があった、


 そうだった、この人は可愛いもの好きの悪戯っ子だった……。

 

 俺は諦め、人からどう思われるかは気にしないことにするのだった。




「それで盗賊の討伐報酬のことなんだが……」


 ブレッドさんからのお話だ。気を取り直して聞くことにしよう。


「はい」


「詳細は街への報告後になるが、あの人数なら五百万ケインは下らないと思う」


「えっ? そんなに出るんですか」


 驚いた。


 節約すれば数年暮らせるくらいの大金だ。


「少なく見積もってだぞ。奴らが今後も与えるだろう損害を考えたら決して多くはないぞ。それに、高額指名手配の奴がいたら金額はもっと増えるぞ」


「はぁ……」


 そういうものなんだ。


 高額指名手配なる言葉は聞いたことがあったけど、街に住んでいた俺には実感のないものだった。


「ただ、街に報告に向かっているところだから、報酬がここに届くまで十日ほどかかってしまう。理解してもらえないか」


 理解も何も好待遇すぎるだろ。まあ、盗賊討伐は命がけだと思えばそういうものなんだろうか。


 今回の報酬に関しては、事前にセシルさんとレーカと打ち合わせをしていて、俺の判断で良いということになっている。


 セシルさんは俺に任せるということで、レーカは報酬にはあまり興味がないらしい。


 今後の日程に関してもセシルさんと話をしていた。だいぶ余裕をもって行商しているとのことで、一か月くらいはどこかに寄り道しても良いとのことだった。


 レーカは、美味しいご飯と気持ちの良い睡眠があればそれで良いんだとさ。


 食っちゃ寝ドラゴンめ。


 “暴食と暴眠の竜(ベルゼビュート)”のレーカと心の中で名付けてやる。


 レーカの二つ名が俺の中で増えていく。


 さすがドラゴン、二つ名との親和性が高いな。


「それなら報酬のことですが、報酬の半分をいただいて、半分はこの村に差し上げるということはできますか。この村も少なくない損害を受けていますよね」


 さっきからの話だと、水車の件は大丈夫そうなので、予想以上の報酬は半分で十分だ。

 村が大きな損害を背負って、俺たちだけ報酬でウハウハではなんか嫌だしね。


 罪悪感でモヤモヤして、枕を高くして寝られないっての。


 グッスリ眠れるのは、なにより大事だよ。


 ブレッドさんが、それは可能だと教えてくれる。

 村長さんの方はというと。


「おお……、なんというお方。まさしく英雄……」


 村長さんに祈られている。


 祈るならそっちのドラゴンにしてよ。

 ドラゴンは地域によっては神様扱いらしいじゃんか。


「やめてください。英雄なんておそれおおいですよ。そういうことで、あと十日程滞在を延長したいのですが」


 話しを無理矢理変えていこう。


「村としては大歓迎です。もし、迷惑じゃなければ今夜この家でおもてなしをさせてもらえませんか。私の家族だけのささやかなものですが」


 村長宅でのもてなしか……。隣の二人をチラリ見やる。

 任せるよと頷くセシルさんと、ご馳走が食べられることを期待している様子

の赤髪少女。


「ではお言葉にあまえて」


 村長さんに返事をしたところで、一旦宿屋に戻ることにした。


 宿の部屋で、報酬は三人で山分けしようと提案した。

 セシルさんは受け取るのを拒否しようとしたけど、十日も時間を使わせちゃうから、なんとか説得した。レーカはあまり興味なさそうなので、俺がレーカの分として持っていることにした。


 滞在延長に備えての準備をしたりして、夜までの時間をつぶす俺たちだった――。


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