動揺
しばらくして着いたのは、『取調室』とプレートのある部屋だった。
「中に入る前に、少し話をしようか」
アゲハがそう言った。
「話?」
俺が聞き返すと、アゲハが淡々と説明を始めた。
「これがら康弘には、武田の『謎』を見てもらうわけだが・・・何を診ればいいか分かっているか?」
「何をって?」
「一応言っておくぞ、何より診てほしいのは殺人の方法そして、その後家を出る方法だ」
「ああ、わかった」
キィィィィィ・・・という音とともに扉が開き、部屋の隅のデスクに女の警官が一人座っていて、部屋の中央にもデスクが一つと向き合う位置に椅子が二つ置いてあった。
――いかにも取調室といった感じの部屋だった。
そしてその片方には、あの男・・・武田信之が座っていた。
武田は前に見たあの時の状態と全く変わらず、放心状態だった。
しかし――突然暴れてもいいようにだろうか――手足は椅子につながれて身動きが取れないよう
になっていた。
さて・・・と三島が話し出した
「早速だけど、診てくれるかな、康弘君」
そういわれたところで気が付いた。
(そういえば俺・・・)
「どうやって『謎』を診ればいいのかわからない・・・」
「「「「「はぁぁぁ!?!?!?!?!?!?」」」」」
「あのっ、あまり大きな声は・・・!」
女の警官に注意された。
「「「「「すみません」」」」」
「とりあえず、一度出ようか」
そう、三島が言い、一度部屋を出た・・・とたん全員がこっちに目をやった。
そして、
「どうして」
と、アゲハ
「それを」
と、三島
「先に」
と、凱斗
「言わな」
と、紫
「いんですか」
と、美紀・・・が、順番にリズムよく言ってきた。
(おぉすげぇ、打ち合わせでもしてんのかな)
「だって一回見たんだろ?」
「そうは言ったって凱斗さん、意識的にじゃないんだよ」
「あぁ、そんなこと言ってたっけ」
「それはそうと、なぜ先に言わないんだ」
アゲハが会話に入ってきた。
「そう言われてもさ、俺も今の今まで気が付かなかったんだって」
「「「「「はぁ・・・・」」」」」
(全員同時にため息つきやがるし・・・ちょっと泣きそう)
「とにかく、初めて診たときを思い出してみろ」
アゲハに言われて、あの時のことを思い返してみた。
(そういえば・・・)
「頭痛に襲われる直前にあの男と目が合った」
「目が合った、か・・・とりあえずやってみろ」
「いや、そんな気がしたってだけで・・・」
「何も思い出さないよりはマシだろ」
「いやでも」
「いいからさっさとやれ」
ガシッ、と俺の頭鷲掴み・・・アイアンクローとか勘弁してくれませんかね、マジで。
その上、アゲハの切れ長の目に睨まれた、のでとりあえず試してみることにした。
だって怖いし!!
取調室に戻り、武田の正面に座った。
さっきまで座っていた女警官に武田の顔を上げさた。
武田の『謎』を見る前に俺は、
「診たら俺、多分っつーかほぼ確実に気絶すると思うから、よろしく」
と、伝えておいた。
前に目が覚めた時にたんこぶができたし、今もなくなっていない。
・・・痛いんだ。
「よし、それじゃああたしの胸で受け止めてあげる!」
紫が言ってきて、俺は苦笑いをしながら
「・・・お手柔らかに・・・」
と、自分でも訳のわからない返しをした。
(なんでこんな動揺してんだろ・・・)
一つ、放心状態の武田と目を合わせることは可能なのか、疑問に思ったが、ここでそんなことを言うとついにはアゲハにブッ飛ばされそうだから何も言わない。
「んじゃあ、診るぞ」
一度、二度、三度と深呼吸をして心を落ち着かせた俺は、武田の目に、自分の目を向けた。
すると武田は、今までどこにも焦点を合わせていなかった目で俺の目を見てきた。
それに驚く暇もなく、俺は頭痛に襲われる。
「ぐッ・・・!?」
激しい頭痛を受け取ると共に、俺の目には・・・笑った武田の顔と、その後ろに真っ黒なオーラのようなものが映った。
この、頭痛という『謎』を見るための代償を受け、
俺の脳にあの時と同じ・・・・・・・血だまりのイメージが流れ込み・・・・俺の・・・・・・視界は・・・・・・・・・黒く・・・・・・・・・・・・染まり・・・・・・・・意識を・・・・・・・・・・・・手放し・・・・・・・・・・・・・・・・た・・・・・・・・・