~やっぱり最初は~
でかい扉から中に入ると、アンティークを貴重としたエントランスが広がっていた。
(この家どんだけ広さがあんだろ・・・)
などと、突っ立って特に意味もない感想を考えていると
「何をしている。ちゃんとついてこい」
と、アゲハに促されたので、「おう」と返して後を追った。
しばらく長い廊下を、両サイドに並ぶ窓や扉――これまたアンティークを貴重としている――を見流しながら歩いていくと、突き当たりの扉の前でようやく立ち止まった。
「着いたぞ。一つ言っておくが部屋のものを勝手に触るなよ?」
「え?あぁ、おう」
そういうと、アゲハは部屋の扉を開けた。
中に入ると、
(うわ・・・本ばっか・・・)
おそらく10㎥くらいある部屋の壁一面が本棚と、そこに置かれている本で埋め尽くされていた。
そして部屋の奥にはこれまたでかいデスク。そして真ん中にはテーブルと椅子が並んでいた。
アゲハは奥のデスクに腰を掛け、
「さぁ、適当に腰を掛けてくれ」
と言ったので、
「おう」「ああ」と、俺と三島が答えて対面するように部屋の真ん中にある椅子に腰を落ち着かせた。
すると、俺たちが入ってきた扉が、ギィ・・・と開く音がして、そっちの方を見てみると
「お嬢様、お茶をお持ちしました」
「その呼び方はやめてくれと言っているだろう。婆や。」
「お嬢様はお嬢様ですので、はい」
と、そんなやり取りを見ていると
「ああ、この人は、この家で手伝いをしている婆やさんだよ」
と、三島が教えてくれた
(・・・ふぅん)
「おや、初めまして。手伝い婆やの影松晶子と申します。何卒、お嬢様の事をお願い致します」
「あ、はい・・・よろしく・・・えっと、晶子さん」
「おや、名前で呼ばれるのは新鮮ですねぇ・・・」
そんな会話をしていると
「ほら、もういいだろう婆や」
少し恥ずかしそうにしてアゲハが言った。
「はいはい。それでは、ごゆっくり」
そう言って晶子さんはお辞儀をすると、部屋から出て行った。
部屋の扉が閉まると、「ふぅ・・・」とアゲハがため息をついた。
「それで、これからどんな話を聞かせてくれるんだ?お嬢様よぉ」
ここぞとばかりに少しからかうように言ってみると
「次その呼び方をしたら・・・お前を焼却炉にぶち込むからな・・・」
と言いながら、俺を睨んできた
(怖っ・・・うわ怖ッ・・・)
「わ、悪かった、もうしないからそんな睨むな・・・!」
そう謝ると、アゲハは睨むのをやめてくれた。
(ふぅ・・・つか、三島もニヤニヤしながら見てんじゃねぇ!)
さて・・・とアゲハがつぶやき
「まず、話の前に自己紹介から始めようか」
と、予想外の言葉が出てきたので俺は驚き
「は・・・?」
と言ってしまった。
「まだちゃんとしていないだろう?」
「いや、まぁそうだけど・・・」
「大事だよね、自己紹介」
三島までそんなことを言う
「あーはいはいそうですね」
俺はヤケ気味みそう言った
「まずは私からしよう」
アゲハが立ち上がり
「私は黒井アゲハだ。私の仕事は、前にお前も見ただろう?あの男みたいになった奴らを・・・簡単に言えば治すといったような仕事だ」
とだけ言って座った。
じゃあ、次は俺だね。と、三島が立ち上がった
「俺は三島剛毅。刑事だよ。と言っても普通とは違うけどね。」
「それはどうゆう・・・?」
「黒井と同じように、あの男のような奴を保護する仕事。そして、 色々と調べたことを黒井に提供して、治してもらう」
「いまいち話が呑み込めないんだが・・・」
俺がぼそっと言うと
「お前の紹介が終わり次第、詳しく話してやる。それまでは待っておけ」
アゲハがそう言ってきたので、あぁ・・・と俺は返した。
「で、最後に俺か・・・俺は天城康弘。えっと、情報系のN大学に通ってる」
これくらいだな、と思ったらアゲハと三島が
「N大学か・・・中学では荒れていたくせに結構上の大学に通っているんだな」
(は・・・?)
「元々のスペックが高いから真面目に勉強したらそれなりの成績取れてたらしいよ。実際、高校でそうだったみたいだし。しかもその高校もレベルは低くない方だし」
(え・・・?)
「それとこれ・・・」
と、三島がポケットからA4の紙を出してアゲハに見せていた
「ほぅ・・・確かに、高校一年の年度末には全教科一五六人中、五位以内まで上がってキープしているな。」
その紙を見てアゲハがつぶやいていた
(え・・・ちょっと)
「待て!」
俺が言うとアゲハと三島は「どうした?」と、こっちに顔を向けてきた。
「なんでそんなに俺の事知ってんだよ・・・あとその紙はなんだ!?」
と、切れ気味に聞いてみると・・・二人は顔を合わせてから再びこっちを向いて
「「まあ、それは置いておこう」」
「ばっちり息合ってんじゃねぇよ!」
突っ込んでみたものの、二人とも、やれやれ・・・といった感じの顔をしやがった
「あーもういいよ。さっさと話を聞かせてくれ、アゲハ、三島」
もうあきらめて俺が言うとアゲハが
「それはいいが・・・」
「なんだよ」
「今、さりげなく私を呼び捨てにしたな・・・」
「え?」
言われて思い返してみると
「あ、悪い。」
「いや、別にいい。そっちの方が呼びやすいのだろう?」
「まぁ、おう」
「そうか・・・おい三島、何をニヤニヤしている」
「あぁ、いや、黒井が他人に下の名前で呼ばせるのって珍しいなと思ってね・・・」
「別に特に意味はない」
「そう」
その会話の内容の意味はあんまり分からないが、とりあえずアゲハは呼び捨てでいいのは分かった
「で、話の続きをするぞ」