~対面~
またやってきた・・・ここに。
前に見た時と同じで、女性と少女と血だまり、そしてそれを笑いながら見下ろす武田信之。
しかしここからは前とは違っていた。
さっきまで笑っていたのが嘘かのように、その顔を文字通り『無表情』にした。そして武田は冷凍庫から何か、およそ30平方センチメートルくらいの箱――おそらく発泡スチロールだ――のような物を取り出した。
そして、それを持ったまま手を伸ばし扉の前にいた俺の体をすり抜けドアノブを掴み、部屋から出た。
回れ右をして俺も出ようとすると、
ガンッ!
「痛っ!!」
壁にぶつかった。
(?????)
扉のほうを見直してみても何もない。
ゆっくりと手を伸ばしてみると・・・コンッ、と手が何かにぶつかった。
「何だこれ・・・見えないが確かに何かある・・・見えない壁?」
そういえば前にドアや窓を開けようとしてもどれ一つ開かなかった。
そんなことをしているうちに玄関ある方向からはガチャと武田が鍵を締めるおとがした。
つまり、俺はこの部屋からは出られないってわけか。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・って勘弁してくれ!これじゃ何の情報も得られねぇじゃんか!
おいおいおい、これで何にも分からなかったらアゲハにブッ飛ばされかねんぞ!!!
「まてよ、、、今見たのは前とは少し違ってた・・・前は冷凍庫なんて見向きもしなかったのに・・・前になかったものが今は・・・これは何かのヒントになるかも知れない・・・」
とは言ったものの、何も分からない・・・
「おい、何者だ」
突然、俺の背中にそんな言葉がかけられた。
(・・・聞き覚えのない声だ・・・)
俺は振り返って、声のした方に
「お前こそ誰だ」
そう問い返してやった。
「俺か?俺は、いや俺たちは・・・解放者だ。」
形を留めてはいないが確かにそこに居る・・・気を失う時に見た・・・いや、その時よりもでかい・・・真っ黒な靄がそこにいた。
「解放者・・・?」
「この言い方じゃわかんねぇか・・・」
「何を言って――」
「お前らで言うところの『謎』って存在だよ」
「・・・」
『謎』この靄が・・・?
「お?信用ならねぇってか?」
「ああ、信用ならねぇな」
「あっそう・・・ま、いいか、お前は何者だ」
「俺は『謎』の答えを探すために来た」
「ほう・・・で、何かわかったのか?」
「さあな」
「そうか」
「そうだ」
「言っておくが、俺たちの存在が認識できたからと言って、それだけじゃ何も変わらないぜ?」
さっきも言っていたが・・・俺たちか、こいつらは同じような存在が何体もいるのか。
「そこは俺の知り合いの出番だ」
「なんだ、お前じゃないのか」
「俺は情報を集めるだけだ。謎を解くのはアゲハの役目だ」
そういった瞬間、靄の表情が――顔がないからそんな感じがしたってだけだが――曇った。
「どうした、靄のくせに顔が曇ってるぜ」
(いやまあ、マジで表情なんてわからないんだが・・・)
「アゲハ?・・・もしかして黒いアゲハのことか・・・?」
「知ってるのか・・・一応訂正しておくが、黒いアゲハじゃなく黒井アゲハだぞ」
「何か違うか?」
「イントネーションが違う」
「まあいいさそんなこと。今まで俺たちを何度も喰らってきたやつだ・・・。どんな奴も嫌な奴のことは忘れられないもんさ。」
「そうかよ」
沈黙が流れてしまった。情報を集めるうえでは避けるべき状態だったのに・・・。
(なんとか少しでも多くの情報を得ねぇと・・・)
「・・・とか思ってたか?」
「!?」
「ハハハハハ!そんな驚くな、図星だって言ってるようなもんだぜ?」
「鎌かけやがったのか・・・」
「そう怒るな、穏やかに行こうぜ?・・・て言っても、お前にはそろそろ出て行ってもらうがな」
「ふざけ、まだ視なくちゃならないものがあるんでな。そういうわけにはいかないぜ」
「この空間は俺の家だ。お前の意思なんぞ関係ない。出て行ってもらうぜ、人間」
その言葉を最後に俺の意識は暗闇に飲まれた。




