院内での出来事…
僕はこう思った…。
何故こんなことになってしまったんだろう…と。
もともと体は丈夫な方ではなく、どちらかというと病院に行くことが多い。
だからなのだろうか?あんなものがついてきたのは…。
その日もいつものように病院に行く準備をしていた。前日からの風邪で頭痛が酷い。熱もなかなか下がらなかった。
病院へは電車とバスを使っていく。片道30分というところか。
電車に揺られていると眠くなってしまう。とても快適だからだ。その点バスは揺られることが多く、寝る事はなかった。
「さぁ、ついたか。さてと診察票を取りに行くか。」僕は独り言をブツブツ言いながら取りに向かった。機械に診察カードを通しカルテを出す。そこまで来るまでに何人の人がカードを通してきただろう。並ぶのも苦痛だった。
だが、僕の番になりさっと通して紙を出す。
内科への受診をする為その科へと歩いていく。頭が重い。
少しふらつきながらそれでも何とかたどり着いた僕は椅子に腰掛けた。
診察はそれほど待たずに受けることができ、処方箋を貰い帰って行くことに…。途中、ふと何気に見た場所は階段を下りる場所だった。
僕は何も考えずにただ足を進めていった。
そして地下へと足を進めることに。
廊下は薄暗い電球でボンヤリとした明かりの中、足が一方に向いてしまう。
ユックリ、ユックリと足が向くのは何故か霊安室だった。
ゴクリと唾を飲み込むとドアを開けた。
部屋は真っ白で何もなかった。いや、あるのは蝋燭。
部屋の中心部には人1人が寝転べる台があるのみ。
線香の匂いがわずかに匂ってくる。
まだ臭いがきついということは亡くなった人が運ばれたばかりということだ。ちょっとだけ怖くなった僕はその場を急いで離れることにした。
その時背後に何かの気配を感じた。
しかし振り返る事はしなかった。ゾクリとする感覚がした。
その時は振り返る勇気もなく、慌てて元来た道を戻り病院を後にした。時計の針は11時を指していた。
ちょっと早いが昼食をとり、帰宅することにした。途中書店にも寄ったが、誰かに見られている気配がしてならない。
「っかしいなぁ〜?誰かに見られている気配がするんだけどな〜。」だが、通行人はいても誰も僕のことを見ている人はいなかった。気のせいと思い自宅へと急いだ。
乗り物を乗り換えるのが苦痛でならなかったが、少しでも早く帰りたくて乗り換えることにしたのだ。
ガチャガチャ…玄関のドアを開け靴を脱ぎ捨てる。直す元気はなかった。
そのままベットへと向かい横になる。
少し暑かったが、熱のせいと思いそのまま目をつむった。その時何かの気配を感じた僕は目を開けることができなかった。病院に行ってから何故か誰かに見られている気配がしてならない。と言うよりあの霊安室に行ってからだ…。普通一般人が入ることができないはずだったのになぜか僕は入ることができ、実際中に入ってしまったのだ。その頃から誰かに見られている気がする。
目を開けると何かが見えるのかもしれない…。少しずつ恐怖が湧いてくる。
薄目を開けるとそこに何かが見えた。黒い塊だ。思わず両目を開けてしまった僕はそれをじかに見てしまい驚いて大声で叫んでしまった。「うわ〜!」
そう、そこにいたのは首だけの人間の頭だった。浮いていたのだ。
慌ててベットから転がり落ちて逃げ出そうとするが、体が金縛りにあったように動かなかった。
しかも顔が徐々に近づいてくる…。
怖くて怖くて泣き出しそうだったが、ぐっと涙をこらえその場をなんとか逃げ出した。
「何なんだよ?一体…。僕が何をしたっていうんだ?」
僕はまだ分かっていなかった。
霊安室に入れた意味を。
亡くなった人と僕の波長が合い、連れてこられたということを。
そして今、霊は確かにここにいる。
僕は必死に祈った。帰って欲しいと。すると今度はガタガタと音がしたかと思うとタンスから物が落ちる音が立て続けに起こっていた。
僕は怖くて怖くてたまらなかったが、下手に動くことができないので耐えるしかなかった。
どれだけの時間が経っただろうか…気がつくと僕は意識をなくしていたようで記憶がごっそりと抜け落ちていた。
ガバッとベットからとび起きることができたのはその時だった。
汗をびっしょりとかいている。
よほど怖かったのだろう…。途中までの記憶しかない。そう、霊の顔を見たところまでだ。
あの顔は今でも忘れられない。
鬼のような形相をしており、落ち窪んだ目が真っ黒で怖かったのだ。
気を失ったのはそれほど時間がかかっておらず、それでも体がガタガタと震えていた。
「やっべー。ちょー怖かったわ。」
でも何で僕のところに出てきたのだろう…。
謎だった。
熱が下がっていなかったので、翌日もまた病院に行くことにした僕は、昨日と同じ様に診察し、会計を済ませた。
問題の階段のことが気になり、そちらへと歩いて行くと、途中で立て札が立てかけられていた。関係者以外立ち入り禁止と。
そこをまたいで行くにはさすがに勇気がいったが、あたりの様子を伺いながらまたいで中へ。
そして問題の霊安室へと入っていく。鍵はかかっていなかった。
部屋の中を見回しても特に変わったところはなく、ガランとしている。匂いもしないから誰も亡くなってはいないはず。
物色しようにも物が無いため探しようもなくすることがなくなった僕は部屋を後にした。
いや、しようとした時片足首を誰かに掴まれた感触があった。恐る恐る見てみると男の人らしい。まっすぐ前を向いている。そして両手で僕の片足をしっかりとつかんでいるのだ。足を動かそうにもビクともしない。
諦めて声をかけてみることにした。
「どうして僕の足を掴むんですか?僕に何をさせたいんですか?」僕はそう問いかけた。すると首だけが異様な角度で曲がり、こちらを向いた。
ニヤリと不気味に笑う顔が怖くて笑えない。
冷や汗が流れた…。
「……。」
「??」
「……一緒に……。」
「…いや、だ。僕は嫌だ。」
しかし男の手は足から離れなかった。掴んだまま……。
僕は力一杯足を動かそうとしたが全く動かない。そしてあろうことか引っ張り始めた。僕はバランスを崩してその場に倒れこんでしまった。男はニヤリと笑い自身の体ごとズリズリと後退し始めた。倒れたまま片足を引っ張られていく。恐怖が湧いてくる。
「離せ!離せよ!!」そう言いながら自由な脚を使い腕を振りほどこうとするが、ビクともしない。全身から悪寒が取れない。
それでもなんとか一瞬の隙をついて手を振りほどくことに成功すると直ぐに態勢を立て直し、逃げた。霊安室から離れ一階へ。
そうすると人がたくさんおり、張り詰めた息をなんとか落ち着かせることができた。
後ろを振り返っても誰もいない。
僕はホッとして前を向いた。その時至近距離で男の顔を見た。「ギャー!」と叫んでしまったが、すぐに冷静になり気持ちを落ち着かせた。すると男の姿はなかった。
その後男の姿は見なくなった。
冷や汗はなかなか消えなかったが、なんとか気持ちを落ち着かせ病院を後にした。その後、病院に行っても恐怖体験はしなくなった。
あの男性は一体誰だったのか今でもわからない。




