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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

亮平と達也の物語。

相馬達也の場合。

亮平の玩具、達也の恋愛の登場人物相馬達也が大切な人に薬を手渡すとしたら。


亮平の目が見えなくなった。

なにも、なにも見えないらしい。

光も、暗いのも、俺も。

なにも、みえなくなってしまった。

医者にはどうすることもできないみたいだ。

なんのための医者なんだろう。

どうして、俺はなにもしてあげられないんだろう。

亮平の目じゃなくて、俺の視力を無くせばよかったのに。

どうして亮平なの?



「………誰?」

亮平が視力を失ってから初めてのお見舞い。

点滴だらけで、最後に見た時より痩せこけていた。

見ていられない。

でも目を逸らせない。

ドアを開けても、微笑んでくれない。

誰が来たのかわからないから。

泣いちゃだめだと思っているのに涙が溢れる。

俺はなにも言わずに亮平の手を握った。

「……たつ、や?」

かすれた声で俺の名を呼んだ。

ごめんね。

もっとはやく会いに来れなくて。

ごめんね。

なにもしてあげられなくて。

でも、これで真っ暗なのとはお別れだから。

泣いてばかりでなにも答えられない俺の頭をそろそろと優しくなでてくれる。

心地いい。

目が見えなくても、優しい温度はなにも変わらない。


「亮平、これ、飲んで…」



こんな終わりしか選べなくて、ごめんね。


ここへ来る前、俺は亮平の目を治す方法をさがしていた。

そして俺は亮平の父親にたどり着いた。

そして、使われることを許されていない薬の存在を知った。

視力が回復するその薬の副作用は、服用者の大切な人だけが一生服用者の視界に入らなくなる。というもの。

それを更に改良してもできあがった薬も副作用があった。

服用者の大切な人の視界から服用者が一生うつらなくなる。

他の改良中の薬は記憶障害などが多くて使えるようなものではなかった。

どちらの薬を飲ませるか、どちらも飲ませないかは、俺の判断に委ねられた。

亮平が見えなくなってしまうのなんて嫌だし、でも亮平の目に俺が映らなくなるのも耐えられない。

かといって、どちらかを選ばなければ亮平は一生暗闇のまま………。

それがなにより、嫌だった。

また目が見えるようになるなら、それ以上に幸せなことなんてあるわけがない。

見えなければ仕事をするのも難しくなるし、一生不便な生活を送ることになる。


だったら俺は………。



「飲んでって…これ、なに?」

瓶に入った薬を手に持たせてやると、亮平は不思議そうにそれを触った。

「視力が、戻るんだ。」

「……これで?」

包帯で巻かれた目がこちら側を見る。

「うん。」

「そんな馬鹿な。今の医療じゃ全盲を治すのは不可能だよ?」

「必死こいて探したんだよ。だから会いに来れなかったんだ。」

「………副作用とかは?使用例はあるの?全盲を治す薬なんて、聞いたことないけど。」

「マウスでしかまだ使用されてないけど90%以上の確率で視力は戻るって。」

「へぇ…じゃあ俺が初めての使用例ってわけか。」

見えない瓶の蓋を手探りで開けて、亮平はそれを一気に口に含んだ。

「…っつぅ………!」

両手で目を抑え呻く。

しばらくそのままだった亮平は、目に巻かれた包帯を取った。

「まぶし…」

目もとには涙が浮かんでいるようだった。

そして俺の方を見た。

「………達也…?」

今まで手を握り、そばにいた俺が居なくなっていることに驚いているみたいだった。


亮平。

俺は、ここにいるよ。

いつでもお前のそばに。



【亮平サイド】


視力を失った俺は、約半年後に視力を回復させた。

それは最愛の恋人、達也が必死になって探してくれた薬で、人類で初めての服用だったらしい。

それなのに医者にも科学者にもなにも言われなかった。

まるで誰も薬の存在を知らないみたいだ。

今のところこれといった副作用も見られず、人類の大進歩だというのに。

でもそんなことは正直どうだってよかった。

なぜなら、視力が回復してから俺の前から達也が消えたからだ。

薬を貰って手を握ってくれて、たしかに達也は俺のそばにいたのに、視力が回復して、部屋をみたときには、もう居なくなっていた。

家に行っても、大学へ行っても、どこにも達也はいなかった。

生活痕はあるのに会えない。

ずっと達也の家で待ち続けたこともあった。

それでも会えない。

会えないのに、時々、ふと達也がそばにいるような感覚に襲われる。

達也のあの独特の俺を惑わすような香りが鼻をつく。

それでも振り返っても達也はいないんだ。


いったい、どこへきえてしまったんだろう。



きっといつでも、そばにいるのに……

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