第40話 コスプレするだけでは終わらない
店内で出会ったのえるさんは、いつもとは違う髪の色に、両端にくくったツインテール、それとスカートの丈の膝までのゴシック調のメイド服を着ていた。
それが何のキャラのコスプレかは知らないが、のえるさんが十二分に楽しんでいることは、よくわかった。だってご丁寧に青色のカラコンまでしている。これで口調まで変わってしまったら、誰だかわからない程だ。
まぁ、背の低さでわかったりするのだけど。
というか、心なしか、胸元が少しだぶついている気がする。気のせいなのだろうか。
まぁ、のえるさんなら問題ないか。その無駄に明るい正確でカバーするだろうし。似合っているし。
「のえるさん……なんですか、その恰好」
「にゃはは♪いいでしょ~。こすぷれって言うんだってー」
「竜頭蛇尾、そういう店ですからね。似合ってはいますが」
「わーい、はるとくんに褒められた~♪にゃははっ」
のえるさんはテンションがフォルテッシモ♪ってな感じではじけている。そんなにコスプレが楽しいのだろうか。楽しいのだろうな。見る限り。
そんな風に楽しんでいるのえるさんを見ていると、自分もしてみようかな、なんて思ってしまう。いや、しないが。
気付けばあとの二人の姿が見えない。どこに行ったのだろうか。
「まーるんとあいちゃんならあそこだよ」
僕がキョロキョロと店内を見ていたからか、のえるさんがカーテンが仕切りの試着室を指差した。
「店員さんがなんか二人にお似合いの服があるって言って連れて行っちゃった。にゃはは。どんなのだろうね」
気が早いだろ、ここの店員。
まぁ、容姿は抜群にいいからな。そりゃ試着させたくもなるわな。だからって僕が何か着させたい服があるとか、中身はそぐわないとか、そう言うわけではなく。
女の子って結構時間掛かるんだよなぁ。
「はるとくん、行こ♪」
「なにサラッと不吉なこと言うんですかね、あなたは」
てか、なんで一々危険地帯に連れてこうとするのか、この人は。
数時間前の失態は起こさないぞ、もう。てか、近付かなければいいだけのこと。
もう、何も怖くない。
「こっちだよ、はるとくん!」
「いや、僕はいいです──てなんで手を引っ張るんですかねぇっ!?」
「それは早く二人の晴れ姿が見たいからだよ~♪」
晴れ姿じゃなくてコスプレ姿でしょうが!
「てか、そんなに手を引かないでくださいっ、転びますよっ?」
なんか嫌な予感がする。
それも、少し前に体験したような、不幸な事故。
「て、ストップして──」「ふぇ?」「いや、そんな急に止まらないでください……っ」
のえるさんがストップしたとこまでは良かったが、ゆっくりじゃなくて急停止した為に、僕の体は適応できなくてそのまま前のめりになって何もない所で躓き──転んだ。
「……っ痛、のえるさん……もう少し落ち着いて欲しいです」
「……時峰、君?」
「へ?」
名前を呼ばれた気がしたから見上げてみたら、そこには綾未さんが僕を物珍しい動物か何かを見るようなおどろいたら顔をしていた。…………………………着替え途中の下着姿で。
「えっと……これは叫んでいいパティーン、なのかえ?」
「落ち着いて、綾未さん。君は今とても挙動が不審なんだ。だからとりあえずその、落ち着いてっ」
ダメだっ。諭し掛かる僕も挙動不審で何がしたいのかわからん。
このままでは無実の犯人に仕立て上げられてしまう!
「……うん。大丈夫だよ、はるくん」
綾未さんはにっこりと笑った。
「え……?」
それから僕の頬に右手を添えた。
「……ふふ。痛みは一瞬だから」
「──」
そして、腫れたのではと心配してしまうような、大きな音がしたビンタを食らった。
僕は気付かなかったのだ。綾未さんの僕に対する呼び方が『時峰君』から『はるくん』に変わっていたことを、綾未さんのにっこりとした笑顔に貼り付く目が、笑っていなかったことに……。




